大谷くんが高校生だったときに書いたというマンダラチャートを、最近じっくり見てみてびっくりたまげた。ロサンゼルス・ドジャースで活躍する大谷翔平選手のそれだ。これが話題になったのは、もうだいぶ前のことだが、そのときは実際に何を書きこんだかまで観ていなかったのだ。
そのすごさは、高校生にしてマンダラチャートを使っていたことでも、書き上げたことでもない。書いたことの全部を成し遂げたかどうかも私は知らない。
私が度肝を抜かれたのは、「運」を引き寄せるために自分は何をしたらいいか考えて、大谷くんが展開した8つの連想ワードである。これをみると、マンダラチャートを使いこなして目標に近づけるだけの中身を、能力的にも人格的にも当時の大谷くんがすでに築き上げていたことに、あっぱれ!と思うほかないのだった。
ちなみにマンダラチャート(マンダラートとも)とは、9×9の合計81マスを使って目標やアイデアを整理する思考フレームワーク。中心にメインの目標を置いて(黄色い背景のところ)、周囲の8マスに連想されるワードを書き込む(グレイの背景のところ)。さらにそれを周縁に展開し、8要素から連想されるワードを書き込んでいくことで行動計画に具体化していく。アイデアの品質を担保してくれるわけじゃないので、発想を広げるためのツールと言えるだろう。

高校生の大谷くんは、メインの目標に「プロ野球8球団から、ドラフト1位指名されること」を置いた。そのために必要な要素として彼が書き込んだ8マスには「体づくり、コントロール、キレ、メンタル、スピード160km/h、人間性、運、変化球」とある。
その8項目を、周縁の9マスの中心(グレイ背景のところ)に転記して、それぞれをものにするために何をするか、8つの連想ワードをアイデア出ししていく。
そこまでブレイクダウンした大谷くんのマンダラチャートが下図だが、「運」のところだけ隠してみた。さて、大谷くんが「運を味方につけるには?」と考えて挙げた8つとは何か。と、これをクイズにするのも一つだが、大谷くんの答えを当てるより、自分だったら何を書き込むか?について考えるほうが筋がいい。どう筋がいいかは、この後で。
大谷選手が高校時代に作ったマンダラチャート(クリックすると拡大表示する)

そして、「自分の答え」と「大谷くんの答え」を見比べてみるのである。どうだろう。

私は、まず1つ目の答えにびっくりした。運を味方につけるには「あいさつ」と発想する、その能力と人格とが、10代にしてすでに形成されていることに拍手喝采だ。
1にあいさつ、2にゴミ拾い、3に部屋そうじ、4に道具を大切に使う、5に審判さんへの態度、6にプラス思考、7に応援される人間になる、8に本を読む。「神頼み」なんて方向には発想しないんである。
「自分が向かう発想を、どこに方向づけるか」にこそ、大谷くん事例からの学びどころがあると思った。
ここで、話の方向も急展開する。セミナーやら講座やらで設けられる「事例解説」というのは、こうして一工夫「問いかけ」をもちこんで受講者に提示するだけで、学習効果に好影響を及ぼす。
単に「これはマンダラチャートを活用した事例です」と紹介して終わらせるのではなく、教える側がその目利き力をもって、ここだと思うところを一部隠してクイズ形式だててみるのだ。
そうすると、受講者本人に「自分の答え」を考えてもらうことができ、その後に「良い事例」を紹介することで、おのずと受講者は「自分の答え」と「模範的な好事例」とを対比でき、自分とそれとのクオリティギャップをつかむ機会を得る。自分に何が足りないかを具体的につかんだり、どういう見方・使い方を獲得すれば新たに学んだ概念やノウハウを自分のものにして活かせるか、学習上の克服課題を方向づける収穫を得られたりする。
ここの学習プロセスは、一対多の一方的な講義形式では成し得ない。できることは、個別に「自分の課題」をつかんでもらう機会作りである。いかに構成・演出上で、その個別の学習機会を組み込むかが問題だ。
「事例解説」っていうのは、いろんな実務エキスパートが後進育成にあたって講師を務める際に、オーソドックスに組み込まれているが、なんとなく「そういうもんでしょ?」的に概論講義の後に組み込まれているばかりで、うまく使われていないなってもどかしく思うことが少なくない。ちょっとした工夫で、もっと効果的に使えるのになぁと。
教える側として「事例解説」を、先に講義した概念知識の具体イメージをもってもらうための「理解促進」だとか、「興味喚起」や「記憶定着」を意識して組み込んでいる方は少なくないと思うが、もう一声!もう一工夫!と思う。
受講者に考えてもらうだけの時間的余裕はない場合も、事前の仕込み時間が教える側で確保できるなら、「教えたことをうまく活用できている事例」と「ダメな事例」を両方とも自分で用意しておいてセットで提示してあげると、ぐっと伝わり方の濃さが増す。
大谷くんの例でいえば、ほんのちょっと「神頼み的なのが一個もないですね」とか「部屋の角に何色の物をおくとか、財布の中に何それを入れるとかもないですね」とかを一言はさむだけで、「好事例」と「ダメな事例」の境界を、受講者の脳内に立ち上がらせることができる。ダメに使うとはどういうことで、ダメに使うとどう滑稽で意味がないのかを印象づけたり、わかってもらる補助として「事例解説」が働いてくれる。
ユーモラスでセンスいい「ダメな例」を用意するのは手間がかかるが、それはそれで創意工夫の面白さがあるし、講座時間はさほど圧迫しないで済む。こういうのを織り交ぜて、学ぶ側本人の頭を動かす仕掛けを組みこんでうまく「事例解説」を使うことで、学習効果を上げることを狙いたい。セミナーや講座の中の「事例解説」には、まだまだ伸びしろがあるのだ。
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