セリフの主の男女を入れ替えてみる思考実験
小説を読んでいて、ちょっとした思考実験を思いついた。主人公が、以前つきあっていた彼(川名君)と別れた理由を訊かれて答えるシーン。彼女のセリフは、読者によっては「痛恨の一撃!」とも読めようか。
「最初の頃、川名君は楽しそうに見えた。それは私が川名君の詳しい話題に関心を持って大人しく聞いていたから。でも、多くの男性と同じで、彼は目の前の女が興味を持っている話題については考えようとしなかった。どんなことで傷ついて、どんなことで幸せを感じるのかも。優秀な男の人ほど、そんなことは知らなくても自分が魅力的でありさえすれば愛されると思い込んでるみたい。だけど私が求めていたのは、たった一人の言葉が通じる相手だったから、川名君とは別れた。彼は多少傷ついたみたいだけど、本当は自分のほうが惚れられていると思っていたからプライドが傷ついただけだと私は思っている」
どうだろうか。私は正直この手の「男女の構図」解釈が苦手で、「これって性別関係なくない?人間そういうタイプの人は男にも女にもいるし、そうじゃないタイプの人も男にも女にもいないか?」という読み方をしてしまうタチだ。
それはそれで、やかましいタイプの一例という自覚はあるので、あまり大きな声では言わないが(その手のことを知り合いの女性に話して、ダメな男をみる眼差しを浴びた経験が少なからずある。しかし、それもまた「男」がダメなのではなく「ダメな」がダメなのであってだなと思う面倒くさいやつなのだ)。
しかしまぁ、自分の手元で思考実験するぶんには人を不穏な気持ちにさせることもない。ちょっと気になって、上のセリフを「男性が彼女と別れた理由」に入れ替えてみたら、どういう印象をもつものだろうかと試してみた。
「最初の頃、加奈子は楽しそうに見えた。それは僕が加奈子の詳しい話題に関心を持って話を聞いていたから。でも、多くの女性と同じで、彼女は目の前の男が興味を持っている話題については考えようとしなかった。どんなことで傷ついて、どんなことで幸せを感じるのかも。モテる女の人ほど、そんなことは知らなくても自分が魅力的でありさえすれば愛されると思い込んでるみたいだ。だけど僕が求めていたのは、たった一人の言葉が通じる相手だったから、加奈子とは別れた。彼女は多少傷ついたみたいだけど、本当は自分のほうが惚れられていると思っていたからプライドが傷ついただけだと僕は思っている」
どうだろう。私的にはイケる気がする。つまり、別に性別とか関係なくない?という気がするんだけれども。もともとそう思っている私が思うだけでは、何の検証にもならないよな、と思って、終わった。
私は人の話を聴くのがめっぽう好きだし、女性なのだが、自分のほうに下手に関心もたれて気持ちを読もうとされると気疲れするほうなので、「伝えたいことは伝えるから変に詮索しないでくれ、そのほうが気が楽だ」というタイプである。「一貫してそういう人間だ」と言えるほど足腰しっかりもしていないが(人間だもの)、それはそれで自分の責任として請け負う腹づもりでもある。
もちろんだが、以上のことは主人公のセリフに考え巡らしたことであって、別に作品や作家に文句を言っている話ではない。この小説の中にも後半、「こちらから一方的に与えておいて、返って来ないと失望してしまう」のは無しよねって話がある。
自ら、気にしなくていい、という態度を取っておいて、今になって創にお金のことを持ち出すなら、最初の段階でもっと慎重に相談してはっきりさせておくべきだったのだ。
とあって、まさに「それな!」なのであった。作家の懐の深さに身をゆだねさせてもらえる、すごくいい小説だった。
上のネタは、いい感じに意見交換できる相手が身近にいらしたら、くれぐれもクローズドな空間で、話題にして読み比べてみて意見交換のネタにでも使ってみていただければと思うが、「ご利用は慎重に」である。一枚画像も置いておく。右のが元の文章で、左が私が男女入れ替えた版。
セリフの主を男女入れ替えても成立するか思考実験
* 島本理生「ノスタルジア」(河出書房新社)










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