2024-12-11

ネット上に流れづらい多様で小粒な数多くの伝承ノウハウ

しっかり校正者が入っていそうな大手出版社の本でも、私はかなりの頻度で誤植を見つけるほうで、「良い本だなぁ!」と思った本は、感謝の念をもって&重版も見込んで、出版社に「誤植かも?報告」を入れるようにしているのだけど。

下のスライドは、直近で出版社サイトの問い合わせフォームから連絡を入れたとき、その問い合わせ文面を作成するに際して配慮したポイントを、ざざっと挙げたもの。

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Inquiryformtext

言われなくても、わかっている。実にちっぽけなノウハウの列挙だ。

なのだが、世の中は実はこうした小さなノウハウに溢れていて、日常的にそこここで発揮されているのに、各々が物静かに行っているから​、情報としてはカスタマーハラスメント事情ばかり大量生産・流通されて、そっちばかり目立ってしまっているのではないかと、そうした疑念を抱いている。

前者は「口にするのは粋じゃない」ってカルチャーがあるから、流通する情報のバランスが悪いんじゃないかなぁと。家庭で親が子に示したり、職場で上司や先輩が教えてくれたり、そういうところでしか、なかなか伝承されていないとなると、実態より社会が汚く見える人も生み出しちゃっているようで、ちょっともったいないなぁと。

ちなみに上の問い合わせをする前には、出版社サイトで「正誤表」がすでに公表されていないか確認し、「よくあるご質問」ページに誤植報告用の手順説明がないか確認の上、特になかったので「問い合わせフォーム」から送る手順を踏んでいる。「問い合わせフォーム」のページにも、たいてい案内や注意事項が添えられているので、そこは一通り目を通して、必要な指示に従って問い合わせるのを礼儀としている。

そういう一つひとつを、小粒ながら丁寧にやっていきたい。子も、教え子もいないけれど、いろんなところにお世話になっている1市民、1カスタマーとして。

2024-12-10

10年前20代だった人たちの、ここ10年の「職業観」経年変化

厚生労働省が12年続けている調査で、2012年当時に20代だった全国の男女を対象に、結婚・出産や就業実態・意識の経年変化を追っている「21世紀成年者縦断調査」というのがある。

その中に「職業観」という項目があって、10年前(2013年)と最新(2023年)のデータを取り出して比べてみると、こんなグラフになる。

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Occupationalview

2013年に22〜31歳だった人たちが、2023年では31〜40歳になっている。会社でいったら若手から中堅に。

何を読み取るか人それぞれと思うのだけれど、超個人的には「社会に貢献するため」「働くことが生きがい」に、「あと5パー!」と一声かけてしまいたくなる。

昔の価値観を押し付けたいわけじゃ毛頭ない。ただ、仕事、職場、職業経験を活かすことで、単体・個人では生きられなかった人生を謳歌できることも多分にあり、私は平凡な人間ながら、その恩恵を受けて人生で経験できることを拡張させてもらえたような、仕事に生かされてきた感覚があるので。

私のように、個人として特別優秀でない普通の人たちこそ、そういうテコの原理みたいなのを活用したら、楽しく人生時間を過ごせると思うし、その意味では特別な人たちだけが「社会に貢献するため」「働くことが生きがい」を思うのではなく、普通の人たちこそそういうことを職業観としてもっている社会のほうが、なんかいいんじゃないかなぁとか思っちゃうのだ。

多様性社会と言われる中、そういう人の歩き方を撲滅するのではなく、それはそれで何割か残って尊重されていいんじゃないかなぁと。おもてだって下手に発言すると叩かれるかもしれないけれども。

2024-10-14

1枚ペラの「入院のしおり」を作る心根と工夫

ここ数ヶ月、親の病院の付き添い、検査や手術のための短期入院の手伝いがちょこちょこありまして(ちょいと一段落)、病院で渡される書類やら説明資料やらは束となり、院内の各所からは大量の説明を浴び続け、自分が親の年齢になったら、こんなの一人でさばききれない…と、たじろぐこと度々でありました。

で、わが予行演習も兼ねて、親の背後に立っては、いろんな人らの説明を聞きまくり、メモにとりまくり、持ち帰っては情報を整理し、自分がやることと本人(親)がやることに仕分けし、折々に「検査のしおり」とか「入院のしおり」とかを作って、A4紙に印刷して本人に手渡してきました。

その「しおり作成で工夫したこと」、及び「しおりのサンプルファイル」を、インターネットの片隅で共有したい次第(庶民の元来のインターネットの使い方)。

まず、作成上の大前提。しおりは必ず、A4紙1枚ペラ(両面印刷は許容)に収めて、父が携行できるようにする。文字サイズは、老眼鏡がなくても本人が読める10ポイント以上を確保し、これで1枚に収めること。

文字数的にも、行間の確保・レイアウト的にも、もちろん書いてある内容的にも、父が過剰な圧迫感を覚えず、気が滅入りすぎないで、読む気になる、携行して役立てる気を持ち続けられることを重視しました。

むしろ、いくらかは、しおりによって心強さを覚えたり、先々の見通しの良さを覚えてもらうことが、しおり作成の狙いです。

さて、そうするためには、内容量を削ぎ落とすための工夫が必要です。それでも病院側に問題が生じず、本人も困らない、というより安心材料として意味をなすためには、どうするか。思案して実践したところを、ざざっとですが書き出してみます。

1)入院パンフなど、病院でもらった情報・資料から、父には該当しない・関係ない情報を削ぎ落としまくる(例えば、持参するものに「薬・お薬手帳」はいらないとか、本人が気にしない細かな注意点・院内の施設案内とか)。

2)細かいタスクは私のほうで巻き取って済ませ、しおりには載せないようにする。

3)入院前にやっておくことリストは、「入院の前月までに済ませておくこと」と「入院前日にやっておくこと」の2つに項目立てて、箇条書き。

4)一方、入院中の段取りは「入院初日(午前)」「入院初日(午後)」「入院中(標準スケジュール)」というふうに分けて、日ごとでなく意味的に期間を区切って項目立て、情報の詳細度を調整。

あとは、安心感や、良き見通しを持ち続けられるように、

5)「退院」の期間見通しは、ちょっと辛抱したらすぐ出られる感を強調すべく、あえて「入院中」とは分けて項目立てて示す。

6)万一地震など起きてスマホがバッテリー切れしても、父が院内の公衆電話を使って自分で家族に連絡をとれるように、家族の携帯電話の番号、院内の公衆電話の場所を書いておく。

下にざざっと、サンプルファイルに工夫ポイントを書き込んだイメージを置きました(クリック or タップすると拡大表示します)。

Sample_guideforhospitalization

しおりは、自分のために娘が作ってくれたというのも込みで、気丈に気持ちを保つ御守り効果を発揮したようで、折々にしおりを作ってもっていくと、「おぅ、これこれ!」と言って受け取り、ずっと大事に持って、きちんと中身を読んで、活用してくれていました。

もちろん人によって、気にすること気にしないことが違うし、物の覚えとか、自分でどこまで入院準備をできるかとか、後期高齢者ともなると個人差も大きいので、わが父向けに情報構造化された形式がどれほど使えるかはわかりませんが、GoogleDocumentでサンプル化しましたので、たたきとして使えそう・使いたいというタイミングがあったら、ここからコピーしてカスタマイズして使ってください。

2024-07-26

「終身雇用制度を望む」率は21世紀もジグザクしている

一つ前に書いた「メンバーシップ型 vs ジョブ型」の違和感にも通じるところで、Z世代と呼ばれる本年度の「新入社員の会社生活調査」結果を産業能率大学総合研究所がレポート公開していたので、自分の興味あるところだけつまみ食いしてスライド5枚(実質4枚)にまとめてみた。自分用メモだけど、ネットの片隅でシェア。

※1枚目の「調査概要」はそのまま引用。以下の画像はいずれもクリックorタップすると拡大表示する。画像ではなく、スライドまとめてPDFで見たい方はSpeaker Deckにてどうぞ。

▼まずは調査データの特徴ざっくり
本年度の新入社員に、この春(ちょうど入社時期)にとったアンケート調査。有効回答は563人。男性6割強で、入社企業は従業員数千人以上が6割強、上場企業6割強、関東が6割強の偏りあり。

調査概要
▼長期間、安心して働けることを重視
53.8%が「長期間、安心して働けること」を重要視。76.0%が企業に「長期的な安定性」を求める。

長期間、安心して働けることを重視

▼68.2%が「終身雇用制度」を望む
84.7%が「同じ会社に長く勤めたい」、「終身雇用制度」を望む声は経年でジグザグしているのが見て取れて興味深い。制度の後退に比して、個人の希望は別に、どんどん減っていっているわけじゃない。

Lifetimeemploymentsystem

▼「年功序列 or 成果主義」「メンバーシップ型 or ジョブ型」は拮抗
48.5%が「年功序列」を望み、過去最高を記録。25.8%が「メンバーシップ型」を希望、昨対3.3ポイント増で「ジョブ型」から逆転した。

メンバーシップ型とジョブ型

▼52.9%が「管理職」を志向。最終的な目標地位は役員/部長あたり
将来キャリアに「管理職として部下を動かし、部門の業績向上の指揮を執る」を志向する人が、2000年度23.7%と比べて顕著に増えている。

ちなみに、この右側のグラフ、1990年度だけ皆「社長」になりたがりすぎているんだけど、誰に訊いてこうなったんだ…と気になっていたが、ど真ん中世代の先輩いわく、1990年度だけが特殊なのではなく、1989年以前も比較的その傾向にあったのが1990年バブル崩壊で一変したのではないかとの見解、すごく腑に落ちた。

Management

単発ものの調査レポートって、自分では解釈が難しいので訝しんでみる癖があるのだけど、この調査は第35回と回を重ねていて経年比較あれこれを提供してくれるところが好み、ありがたい。

大もとの調査レポート(PDFファイル)は、こちらで。2024年度(第35回)新入社員の会社生活調査┃学校法人産業能率大学 総合研究所

2023-12-26

『Agend』のインタビューで普通のことを力説

「将来いんたーねっつになりたい」と願ってやまない事業家のフジイユウジさんが、私との茶飲み話を記事にしてくれました。

「これからどうなりたい」を話すと、個人もチームも良いことがある。キャリアプランを活かすチームコミュニケーション。

「仕事でのチームコミュニケーション」をテーマにした情報を発信するメディア『Agend』(アジェンド)。経営層向けの組織論とかじゃなくて、もっと中間層のマネージャー向けに現場の実践に焦点をあてた記事を出したい、ということでメディア活動をされているのだとか。

お声がけいただいたときは、役立つことが一言でも言えるのか正直分かりませんでしたが、茶飲み話的に話してみて、つまめるところがあったら記事にするという感じでお受けして、わいわいおしゃべりしたのでした。その後、いただいた原稿をたたきにしてあーじゃこーじゃと書き直したりして記事が仕上がった次第。

しかし日を追うごと「普通すぎる」とか「凡庸すぎる」とかで終わっちゃうんじゃないかという気が充満してきて、私はこれが等身大だから仕方ないとしても、このメディアを傷つけることになるんじゃないかと悶々、とりあえず年内に出しておくのがいいんじゃないかと少々気が焦った年末…。

それが今朝の公開を見届けるに、フジイさんがSNSでシェアしたのを読んで、共感を示してくれたりする方の声に触れることができ、感涙するほど嬉しい気持ちになりました。あぁ、こういうふうに現場で有意義に仕事されている方の声が彰らかになる作用がはたらいたなら、媒介価値があったと自分を許してやっていいんじゃないかと、そういう安堵がありました。本当に、ありがたい。

また個人的には、この機に乗じてお話ししたり文章を書いたりする過程で、自分一人ではなかなか言葉がまとまらなかった考えに当たる時間をいただけて、これだけでも大変ありがたいことでした。

一方で、やはり「普通に大事なこと」を現場仕事ではなくメディア記事のような形で出力しようとすると、どうしてもエッセンスが抽象化されるわけで、「抽象化した普通のこと」の語りって、どうしても「凡庸」と紙一重になってしまう。そこを簡潔に巧く示せる人もいるとは思うんですが、私はその辺が力不足で、メタファとして地図っていっても、具体的にどういう地図よっていうようなのが下手だよなぁと思います。

「普通のことすぎる!」というお叱りの言葉もあろうかとは思いますが、普通を具現化する仕事こそ大事だし難しいし、現場の各人の腕次第だしという思いを詰め込んだということで堪忍して。おせち料理の中の「なます」みたいな感じで、年末年始のごちそうの合間につまんで味わっていただければ幸いです。

メディアを騒がす極論と極論のあいだに、最適な按配を見極めて自分たちの答えを作り出していく現場の創造力が、すごく尊いと思っていて。手法としては斬新ではないんだけど、丁寧に個別具体で当たらないと意味をなさないタイプの創造的な仕事ってあって、目立たないけれどそここそ頭数が必要で、自分はそこが持ち場だと思っている。なので私も、入らせてもらえる現場で「組織の人材マネジメント」と「個人のキャリアデザイン」を止揚する役割を果たせるよう、来年もせっせと働けたらなと思っております。

2023-11-21

メディア・リテラシー教材としてのミルクボーイ・フレームワーク(品評と創作のちがい)

電車に乗っている間にこれ考えていたら、あっという間に目的地に着いてしまった。ミルクボーイのM-1ネタ「コーンフレーク」を下敷きにして漫才ネタを考えてみようという勝手なアクティビティなのだが、あーでもないこーでもないと思考を巡らしているうちに東京から千葉までひとっとび。漫才師への敬意、創作の難しさと面白さを体感するのにお勧めのアクティビティだ。


内海「どうもー、マリコポーロですー。お願いしますー」
​​駒場「お願いしまーす」
(略)
​​駒場「いきなりですけどね うちのオトンがね 好きな言葉があるらしいんやけど」
​​内海「あっ そーなんや」
​​駒場「その言葉をちょっと忘れたらしくてね」
内海「好きな言葉忘れてもうて どうなってんねそれ」
​​駒場「そやねん」
内海「でもね オトンの好きな言葉なんか 初志貫徹か一気通貫ぐらいやろ そんなもん」
​​駒場「それが ちゃうらしいねんな」
内海「ちがうのん」
​​駒場「でまぁ いろいろ聞くんやけどな 全然わからへんねんな」
内海「わからへんの? いやほな俺がね オトンの好きな言葉 ちょっと一緒に考えてあげるから ちょっとどんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ」
​​駒場「人が出てきて 馬が出てきて」
内海「ほほほほー」
​​駒場「で 辛いなぁゆうことも 時間経てば良いことに転じたりするもんやから そう動じなさんなっちゅう教えや言うねんな」
内海「おー 人間万事塞翁が馬やないかい その特徴は もう完全に人間万事塞翁が馬やがな」
​​駒場「人間万事塞翁が馬な」
​​内海「すぐわかったやん こんなんもー」
​​駒場「でもこれちょっとわからへんのやな」
内海「何がわからへんのよー」
​​駒場「いや俺も人間万事塞翁が馬と思うてんけどな」
​​内海「いや そうやろ?」
​​駒場「オトンが言うには 死ぬ前の最期の言葉もそれでいいって言うねんな」
​​内海「おー ほな人間万事塞翁が馬と違うかぁ 人生の最期が人間万事塞翁が馬でええわけないもんね」
​​駒場「そやねん」
内海「人間万事塞翁が馬はね まだ寿命に余裕があるから言うてられんのよあれ 時間経てば良きに転じるかもって もう時間ないねんから」
​​駒場「そやねんな」
内海「な?人間万事塞翁が馬側もね 最期の言葉に任命されたら そら荷が重いよ」
駒場「そやねん」
​​内海「人間万事塞翁が馬ってそういうもんやから」
​​駒場「おぉ」
内海「ほな人間万事塞翁が馬ちゃうがなこれ ほな もうちょっと詳しく教えてくれる?」
​​駒場「なんであんなにサラリーマンの座右の銘に選ばれてるのかわからんらしいねん」
内海「人間万事塞翁が馬やないかい どこもかしこもサラリーマンの座右の銘ちゅうたらあれやねんから でも俺はね あれはたいして由来も知らずに言うてんのが大半と睨んでんのよ」
駒場「おー」
​​内海「俺の目はだまされへんよ 俺だましたら大したもんや」
​​駒場「まぁねー」
内海「よー聞いたらね ググってコピペしてるだけで書けん 書けても読めんのよ 俺は何でもお見通しやねんから 人間万事塞翁が馬や そんなもんは」
​​駒場「わからへんねん でも」
内海「何がわからへんの これで」
​​駒場「俺も人間万事塞翁が馬と思うてんけどな」
​​内海「そうやろ」
​​駒場「オトンが言うには 社長が出てきて言うても全然いいって言うねんな」
​​内海「ほな人間万事塞翁が馬ちゃうやないかい 社長がメディア取材で好きな言葉は人間万事塞翁が馬ですー言うたら 社長それは他とかぶるんでなんか別のやつもらえますかって言うもんね」
​​駒場「そやねんそやねん」
内海「な?昇進していくうちにメディア露出増えてくやろ 座右の銘とか聞かれて他とかぶるとか格好つかへんねん なんかユニークなのに変えなきゃいけなくなってくんねん」
​​駒場「そやねんな」
内海「そういうカラクリやからあれ」
​​駒場「そやねんな」
​​内海「人間万事塞翁が馬ちゃうがな ほな もうちょっとなんか言ってなかったか?」
駒場「毎度思い出そうとする度 人が出てきて 馬が出てきて いい教えやってとこで止まってしまうらしいねん」
内海「人間万事塞翁が馬やないかい 若い時分にこれはいい言葉や これを自分の座右の銘にしようって思うのに毎度忘れてもうて 人が出てきて 馬が出てきて えぇ話やったなぁどまりや それで人と馬と中国の格言でぐぐって調べるの繰り返しや 人間万事塞翁が馬よ それは」
駒場「わからへんねんだから」
内海「わからへんことない オトンの好きな言葉は人間万事塞翁が馬 もぉ」
駒場「でもオトンが言うには 人間万事塞翁が馬ではないって言うねん」
内海「ほな人間万事塞翁が馬ちゃうやないかい オトンが人間万事塞翁が馬ではないと言うんやから 人間万事塞翁が馬ちゃうがな」
駒場「そやねん」
内海「先ゆえよ 俺がコピペサラリーマンdisってた時どう思っててんお前」
駒場「申し訳ないよだから」
内海「ホンマにわからへんがなこれ どうなってんねんもう」
駒場「んでオカンが言うにはな」
内海「オカン?」
駒場「馬子にも衣装ちゃうか?って言うねん」
内海「何の教えやねん もうええわー」
二人「ありがとうございましたー」


いやぁ、ぜいぜいしたわ。ミルクボーイのネタよりだいぶ短く締めに入ってしまっているけれども、笑えるかどうかなんてそっちのけ、辻褄あわせてこの辺まで話を運んでくるだけで息切れする。

プロの作り手のすごさを体感するぶんには十分であった。ミルクボーイが築いた生垣によじのぼらせてもらって、穴埋めするかたちで漫才師の創作のなんたるかを堪能した。

誰かが作ったものを「品評する」スキルと、品評される何かを「創作する」スキルというのは、まったく別物だ。この「品評」と「創作」の似て非なるスキルのちがいを体感的に分かっておくことって、現代人が養うべきメディア・リテラシーの一つじゃないかと思っていて、とりわけ「品評する側の、創作者に対する敬意」を育むことは、とても尊いことだと思うのだ。

そういうわけで、この違いを体感できる教材を作りたくて試作してみたのが、ミルクボーイ・フレームワークである。

1)まず、ミルクボーイの漫才ネタ「コーンフレーク」をテキストで読み込む。ネタを知らない人や、知らない人と一緒にネタ作りをしたい場合は、YouTubeにあがっている動画*を通して見てもらえば、わりとすっと参加できるんじゃないかと思うが、どうだろう。

Photo_20231121132701

2)これを手本として、ミルクボーイのネタのフレームワークをそのままに、下のかっこ内を埋めるようにして、ネタを自分たちで作ってみる。

Photo_20231121133001

シートの右下に記しているように、下の3つを押さえて「ミルクボーイの漫才フレームでネタを作ってみよう」というわけだ。

1.『      』と(     )内には同じ言葉を入れてください。
2.【      】にはコンビ名を入れてください。
3.下線部は自由記述です。また下線部以外も自由に変えてOKです。

カッコ内を埋めればいいんだなと思うと手を出しやすい。が、実際うまいことやってやろうと思うと、すごく難しくて、それが面白くもある。

その過程でどれくらい「あぁ、品評と創作は全然別物だ」と思い知れるかが、この教材の価値を決めるわけだが、試しうちしてみた感じ私にとってはしみじみ「ミルクボーイってすごい」「漫才作るって難しいんだなぁ、奥が深いんだなぁ」「実際作るにはこんなことをあれこれ考えるのかぁ」と体感できるものであった。

くどいようだが、これは私の作例の上手い下手、笑える笑えないは関係なくて。漫才ネタとしてではなく、メディア・リテラシー教材としての出来不出来が問われるものなのだが、伝わるだろうか(下手の言い訳っぽいが)。

なにか、どこかで使えそうな場があったら、カスタマイズしてでもお役立ていただければ幸い。授業での有効活用は無理でも、会社の忘年会の出し物とか、個人的な電車移動の時間つぶしとか(弱気)。品評と創作の違いを体感するにとどまらず、創作って難しいけど面白いなぁってところまで味わってもらえたら、この上ない幸いである。

*【完全版】ミルクボーイ、M-1ネタ「コーンフレーク」のノーカット版を披露「#Twitterトレンド大賞 2019」(マイナビニュース【エンタメ・ホビー】)

2023-03-23

「Web系キャリア探訪」最終回、いろんな人の生きざまに触れて

インタビュアを担当しているWeb担当者Forumの連載「Web系キャリア探訪」は、今回が最終回。今朝公開された総括編では、インタビュア2人でキャリアや人材育成について話しこみました。よろしければ、ぜひ読んでみてくださいませ。

「みんな違って、みんないい」総勢49人のキャリア探訪を通して見えたもの

気づけば月1連載を始めて、まる5年。いろんな人の仕事ぶり、キャリアの歩み方、仕事を通じて出会う人たちとの関わり方を垣間見せてもらえる貴重な機会でした。

やっぱり、あれですよ、キャリアというのは抽象化されたモデルを掲げて頭でっかちに己のキャリア観を固定化させてしまわずに、いろんな人の具体的な生きざまに触れて、惹かれて、それを自分に取り入れていって我が道を生きる。人が生きるって、そういうことですよって、そう思うですよ。

登場してくださった方、一度でも記事を読んでくださった方、インタビュアの森田雄さんはじめ記事作りに関わってくださった/私を関わらせ続けてくださった皆さまに、心から感謝です。

2023-03-07

Web人材育成は失敗していないか?

Web人材育成は失敗していないか?と問われたら、それに関わる人たちの頭にはどんな回答が浮かぶだろう。

いろんな現場の人の声を聴いてみたいなぁという情報収集のための問いかけなのだけど(何かを提言するものではなく)、下に書き連ねたような私なりの見立てやら私がやりたい仕事やらを伝えつつ身近で尋ね歩いたところ、そうすっとんきょうな仮説を述べているわけでもなさそうではある。

一方で、それがどれくらいそうなのかという比率はまったく読めない。比率というからには「どの範囲を100%として?」という問いも起こるが、それもいまいちわからない。「Web人材って?」って、その範囲すら私も訊きたいのが正直なところだ。

それに、どこもかしこも、ここに挙げる仮説を問題に抱えているわけでもないのだろう。きっと、うちは上手くやれているよ!思い込みで「Web人材」とか雑に括らないでくれ、心外だよ!という現場もあるだろう。どうやって上手くやっているのか、ぜひシェアしてほしい。つまり、そういう話題がもう少し組織をまたいで情報・意見交換されたらよいのではないか、そのきっかけともなれば本望なのだ。

スライド「Web人材育成は失敗していないか?」(SpeakerDeckはこちら)(Slideshareはこちら

とにかく、ものすごく曖昧な状態で書かれた文章とスライドであることを断って、しかしながらシェアしたい話題なのである。(スライド2)

スライドに展開したわりに、うまく図式化できていないのはご愛敬なのだが…。

私は1990年代から、Web人材(仮)が活躍する現場のそばでWeb人材育成に従事してきたが、この四半世紀でWeb人材に求められる職域はぐんぐん広範化・多様化し、職能もぐんぐん専門分化・高度化を遂げてきた。これからも、そういう流れは不可避なんだろうなぁと思う。(スライド3)

この変化に適応すべく、業界コミュニティではネット上のコミュニケーションツール、SNSやブログ、スライド投稿サイトなどなど駆使して情報交換やノウハウ共有が行われ、勉強会やネットワーキングを兼ねたオン・オフラインのイベントも活発に展開されてきた。入門書も、新しく出てきた学習テーマをとらえては、切り口を変えて数多く出版されてきた。本人にやる気さえあれば、いくらでも学ぶ機会はあふれているだろう。そんなふうに、よく語られる。(スライド4)

しかし、その豊富な「学ぶ機会」を仔細に観てみると、学習の入り口に偏っていないか?という疑念がわくのだ。新しい学習テーマの存在を知り、へぇ、最近注目されてきているんだぁとは、SNSでフォローしている人の投稿や、専門のWebメディア記事、社内や業界コミュニティの交流など通じて認知することができる。

それがどんなもので、どういう背景で注目されてきていて、どうやって取り扱うものかの概論も、もう一歩踏み込んで専門の解説ブログを読んだり、業界のセミナーに参加したり、オンライン講座を受講したり、入門書を読んだりすれば把握できる。会社で勉強会を開くところもあれば、もう少し改まった社員研修を開いて社内外のエキスパートに講義をお願いして丁寧に解説、事例紹介してもらう機会を設けるところもあるだろう。

だけど、それはやはり「学習の入り口」にすぎない。それを受けとった人の現場のパフォーマンスは、ここまでのステップを踏んだだけでは何ら変更加わらないことがほとんどだろう。

1.興味をもって、いつかやってみようとは思うが、そのまま忘れてしまう。

2.試してみたいけど、自分の職場・案件では無理だなと結論。そのままやらずじまいで、いつも通りに戻ってしまう。

3.試しにやってはみるものの、周囲に誰もサポートしてくれたり助言やフィードバックしてくれる人がいない。まともにできているのかどうか妥当な評価ができないまま悶々。あるいは、とりあえず形になっている、フローに組み込めているからと、できている気になってしまう。

4.やってみたものが現場で評価され、一定の意味は確認できた。しかし、いつも手がけている同じような案件タイプ、同じチームメンバー、慣れたクライアントや取引先との間でだけできているのであって、前提条件や人間関係などコンテキストが変わると途端に応用がきかず、できなくなってしまう。

こういうことで、「入門者」から先の様々な落とし穴にはまってしまい、個々が「一人前」まで到達できていない、チームとして、会社として、産業として、一人前の人材を増やせていないという実態がなかろうかと、そういう仮説をもって、ちょこまか人に尋ねてみている。(スライド5)

学ぶ機会は、「入門者を育てる」施策に偏っていないか?(スライド6)

一人前を育てる施策が手つかず、手薄になっていないか?(スライド7)

この問いを、各現場で(自分自身、自分のチーム、自分が育てているメンバー、あるいは産業として)身近な人と話し合ってみる。というのを有意義なことだと思う人は、どの辺にどれくらいいるものだろうか。それがわからないで書いているのだけど、どこかにいらしたら、ぜひ飲み屋でもお茶屋でもいいので、ちょっとネタにして話題にしてみてほしい。

ちなみに、入門者を一人前に育てる施策になかなか手が出ないで滞ってしまう背景要因には、これに手を出すと手間がかかるし、期間を要するし、単発・短期的にはこれというインパクトを得がたいというのがあるかなと。その他もろもろ。(スライド8)

けれど私は、ここの育成支援をこそやりたい。ここの「入門者を脱して、一人前に至る」フェーズに軸足をおいて、実務エキスパートが伝承するサポート、入門者がスキルを習得して実務に取り入れパフォーマンスを上げていくサポート、組織が確かな育成施策の手ごたえを覚えるサポートがしたい。(スライド9)

なので、この辺の自分の現状認識がどう合っていて、どうずれているか、どの辺に問題を共有できる相手がいて、どう自分が人材育成やインストラクショナルデザインの専門性を活かして貢献できるかを、一人で頭ひねったり、いろんな人と話しながら模索している。その時間を、素朴に、シンプルに、今楽しんでいる。

2023-01-26

「Web系キャリア探訪」第47回、自分の興味を仕事にする多層構造

インタビュアを担当しているWeb担当者Forumの連載「Web系キャリア探訪」第47回が公開されました。今回の取材先は、インフォバーンの取締役副社長、デザインストラテジストの井登友一さん。

これまでにない仕事を作る! UXデザインを事業化させた戦略家のキャリアとは

常に実務家・プラクティショナーとして成果を出す現場活動を重んじながら、しかして目の前の案件や顕在化された顧客ニーズに応えるだけに埋没しない。自分の興味が向くところに一歩踏み出して、「自分の興味を仕事にする」開拓者精神、キャリア選択指針を反映した30年の軌跡を辿りました。

しかも井登さんのキャリアは、「自分の仕事」開拓に留まらない。会社のサービス・事業として、さらには産業や職業として、どう成立・発展させていくかといったところまで射程に収めて、実に多層的&段階的に「興味を仕事にする」活動を展開しておられるのが印象的でした。

ユーザーリサーチやコンテンツマーケティング、UXデザインといった新しい領域で、それに対価を支払う商慣習がないところに市場価値を顕現していって(魔法)、段階的に新たな職業領域を開拓してゆく(脱魔法化)実践プロセス。

何年という単位で試行錯誤を重ね、「その仕事に意味があった」という確かな実績を作っては、それを根拠に新規案件を獲得、新しい仕事領域のサービス化、事業化、組織化を実直に図ってこられた。その知見を内に留めず体系立てて社外にシェアし、産業化を推進していくさまは圧巻。

産業化というと大きな話に聞こえるけれど、自分の手元の仕事でも「自分は大事だと思う業務プロセス」なんだけど「クライアントから価値を認めてもらうこと叶わず、それに対価を得られない」から「持ち出しでやっている」仕事って、各所、各人にままあると思っていて。私も過去に泣いたクチですが…。

そういう仕事領域を、信念もって実践して自身の専門性を磨きつつ、他所で商売化することをあきらめず段階的に別の顧客での案件化を企てる、そういう実直さと野心をあわせもった道筋をたどる尊さを、読んでくださる方と共有できたらなと思いました。

また井登さんと同じような射程で、自分の仕事領域、自社の事業領域に留まらずに産業化の具体プロセスを思案・試行している方も少なくないのでは、と思っていて。

そこに井登さんの提示する「脱魔法化」というキーワードが刺さるわけですが、この案配についてはなかなか私も自分の考えるところうまくまとまっておらず思案中、今後の課題として今も先々も少し腰据えて考えていきたいテーマだったりします。

すごくいろんな観点で考えどころの詰まったお話をうかがえたなぁと嬉しく思っています。お時間のあるとき、ぜひご一読いただければ幸いです。

2023-01-12

オウンドメディアで記事を書く第4弾、からの実務トレーニング課題に必須の「文脈」情報について

最近、勤め先の自社メディア「ToCreator」で読み切りの記事を書いているという話を以前ここにも公開録として残したが、その第4弾が新年早々にアップされた。

ゲーム業界の転職、応募先企業選びの落とし穴!選考がとおらない理由は、その一歩手前にあるのかも!?(2023/01/06)

求人サイトで検索して、出てきた結果から「気になる企業」「ピンと来た求人」に応募するも、選考がうまく通らず転職活動が行き詰まってしまったという方に、一つでも「おっ」という気づきがあればという思いで、応募先を選ぶときにはまりがちな落とし穴を掘り下げてみた記事。ゲーム業界に限らぬベーシックなポイントですが、ご関心ありましたらお目通しください。

それはそれとして、これら4つの記事を作成する仕事時間で、私が何をやってきたかをざっくり書き起こしてみると。


  1. 下ごしらえ:オウンドメディアの役割や編集方針を踏まえつつ、記事ネタを個人ブレスト。現場メンバーに具体的な聞き込み調査をできるようヒアリング項目や質問の仕方を整理
  2. 聞き込み調査:社内の現場の人たちに話を聴く会を設け、自分のネタ案を話の枕に(あくまで皆が案出ししやすくなる刺激として提示)、何が有効な記事ネタになりそうかヒアリング&相談
  3. 起案と合意形成:その場でオウンドメディアの役割や編集方針に照らし合わせつつ記事ネタを発掘し、「こういうネタで、こういう構成はどうか」と提案、テーマと構成を現場と合意形成
  4. 構成・執筆・図案作成:「オウンドメディアの役割や編集方針」「現場から得られたエッセンス」「想定読者に役立つ視点やノウハウ」を踏まえ、単発で成り立つ記事執筆&図案作成
  5. 制作依頼:テキスト原稿と図案を提出し、現場メンバーと、メディア制作側のメンバーに共有。意見をもらって手を加え、Webページ制作を依頼
  6. 校正・仕上げ:Webページ化されたものを確認して校正を入れて修正依頼をかけ、仕上げて公開してもらう

という感じなのだけど、これって1本書き上げるまでに、けっこういろんな種類の仕事力を組み合わせてやるものだった。仕事規模としてはコンパクトなのだけど、それだけに一連の工程に全部メインで入って動かしていくので、用いる仕事力のバラエティは豊か。

というのを通して、全部を「通し」でやるのでも、「部分」を取り出してやるのでも、実務トレーニング課題として使いやすそうだなぁって、あさって方向から感じ入ってしまった。

扱うオウンドメディアを自社で運用するそれに入れ替えれば、いろんな会社で、このトレーニング課題キットは使えそうである。ライターは外部委託して書いてもらっているというところでも、メディア運用のさまざまな能力開発の実務トレーニング課題を、このプロセスをシーン別なりスキル別なりで要素分解した素材から引き出せそう。

なぜ、そんなあさって方向に気がなびいたかと言えば、Off-JTの“実務トレーニング課題の出し方”でありがちな不備に「背景情報なさすぎ」問題があるからだろう。

例えばライティング能力を伸ばしたいというので「○○のWebメディアに載せる単発記事を一本書いてください」みたいなトレーニング課題を、ほとんど何の文脈情報も提示せずにやらせてしまう。

しかし、実務力を鍛えたいなら、どういうメディアで、どういう仕事現場でという「特定の文脈」というのがセットで情報提示される必要がある。文脈によって、より良いパフォーマンスも、気をつけるべきことも変わるからだ。仕事は高い文脈依存性を前提にしていて、固定ではないところにその特徴がある。

そのWebメディアは誰を読者として想定していて、アクセスしてくれた読者にどうなってもらう自社の目論見があり、その効果をみるのにどんなKPIを立てていて、年間いくらの予算で運用していて、どういうところに発信経路があって、広告予算はどうなっていて、どういう人員体制でやっていて。そういう特定の文脈・環境の中で意味ある試行錯誤は高密度に行われ、その過程で仕事能力というのは磨かれるわけなので、そこの文脈が「その辺は各々で自由に考えてやってみてください」というのでは、どうしてもおままごとになってしまう。

後で「若手の作ったアウトプットを評価してください」と言われたエキスパート陣だって、そういう特定の文脈なしにアウトプットを評価することはできない。だから実務エキスパートを評価者に召喚しても、ならではの評価フィードバックを得られずじまいである。

学習者本人にも、それを指導・評価する側にも、それを練り上げるための足場が整っていない。こういう実務トレーニング課題の出し方段階の手落ちは、わりと巷にある気がしている。

が、それでは「実務力」を鍛えるにあたって使い物にならないと思う一方で、その「背景情報」だとか「特定文脈」だとかいうのを、課題で使えるレベルまで言語化して提示するのは難しい。外部の何かを課題ネタに使おうとすると「内情」はよくわからないとなるし、それをリアリティをもって詳細に創作しようとすると、「記事を一本書いてください」というのの何十倍も、課題を出すまでの準備に手間がかかる。それをやるまでの工数は割けない、となる。

そういう意味で、上記のオウンドメディアをネタにしたトレーニング課題キットというのは、その辺の背景情報(思惑とか内情とか)がすでに社内資料として作られていたり、明文化されていなくても口頭で赤裸々に説明はできたりするから、背景文脈をセットでできる実務トレーニング課題のネタとして使えるんじゃないかなぁ、相性良さそうだなぁと思った次第だ。

話が長くなってしまった。が、実はこれに関して、あーだこーだ書いていたら手元で1万文字になってしまったので、それをバサバサと切って短くして、こうなった次第なのだった。後味として残るのは、あぁ私、書いても書いても全然文章がうまくならないなぁってことだった。

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