« 杖の手軽さは、比較すると見えてきた | トップページ | 「プロジェクトマネジメント基礎」プチ勉強会の編集後記 »

2026-08-22

岡村ちゃんと俵万智に学ぶ、現場の人材育成

岡村ちゃんこと音楽家の岡村靖幸が、歌人の俵万智に短歌を教わるやりとりが実に小気味いい。下のスライドは、岡村ちゃんが自作した一首を、俵先生に提出したところの一節(クリックすると拡大表示する)。

Talkingtankapoetry

上のやりとりを、数字を添えたところのポイントに沿って辿ってみる。

まず、岡村ちゃんの作品、

アミタイツすっかり見なくなったけど 都会のどこかでくしゃくしゃしてる

これに対して俵先生は、
1.本人の成長の足場を取り出して指摘&褒める
2.改良案を実際に作ってみせる

「けど」を「秋」に差し替えただけで、ぐっと洗練された感覚を覚えた岡村ちゃんは、
3.テンションが上がる!改良の糸口をつかむ。伸びたい欲求・伸ばせる期待感も高まる

しかし、ふと冷静になる岡村ちゃん、
4.自分が能力として獲得し、一人で作るときに発揮できるかというと見通しが立たない

そこの学び手の中の道筋ぼんやり感を、しっかりキャッチした俵先生は、
5.乗り越え方・テクニックを具体的に示す

これによって改良するための指針を具体的につかんだ岡村ちゃん、
6.何が野暮で、何が粋か、粋に転換するにはどうしたらいいのか理解を深める

それを受けとめた俵先生は、
7.粋に転換するアプローチの一つを着実に伝授する

なんという手さばき!

「けど」を「秋」にすることで洗練さを増し、「秋」にしたからといって季節の移り変わりに限定されることなく、読者によっては時代の移り変わりをも感じとる意味あいを残している、決して排除されることにはならない短歌の懐も染みわたる。

暴論を言えば、「若手が育たない、どう教えたら伸びるんだ?」と悩んでいるビジネスパーソンは、へたになんとかモデルだのZ世代の特徴だのを読みこんで型だけ取りこむより、俵万智に学んで「秋」を示してあげる手さばきを発揮したほうが話が早いのでは、と思ってしまう。「教える」って、こういうことだと思うんだなぁ。岡村ちゃんは若手じゃないけども。

厚生労働省の調べ(*1)で、「人材育成に関する問題がある事業所」の割合は8割超え(80.1%)。問題点の内訳をみると「指導する人材が不足している」が最も高くて6割近い(59.5%)が、この「指導する人材」って何なのかがぼんやりしていて具体策を見出すまでに至らない。

ただ労働者(学ぶ側)が「仕事を効果的に覚えるために、いまの会社で仕事をするなかで経験したことは?」という設問に、「仕事のやり方を実際に見せてもらった」と回答した人が3割程度(31.5%)に留まっている。という労働政策研究・研修機構の調査(*2)を合わせ読むと、「指導する人材」というのを、もう少し解体して見直すことで、打ち手はあれこれ見えてくるんじゃないかと思うのだ。

「指導する人材を採用しないことには」とか「指導できる人材が育ってくれないことには」とか大きく振りかぶって問題を棚上げせず、俵万智が岡村ちゃんの一首をみて「秋」と改良案を示して1分か2分かやりとりしたようなのが、現場の日常に一つでも二つでも増えていくことが、今の時代とても救いになる気がする。

それぞれの現場、現場で、「秋」を提示できる先輩はたくさんいるのではないかと思うのだ。万能でなくていい、人格者でなくていい。これでは無理でも、こっちでは改良案を示せるとか。改良案は示せないけど、考え方のアプローチなら助言できるとか。そういう若手と先輩のラフな日常の人間関係が現場にあること。

「仕事のやり方を実際に見せる」というのは、オーソドックスな教え方だと思うが、ここ10年だか20年だかは「頭脳労働だから、背中を見せても仕方ない」だの「若い人には若い人のやり方がある。古いやり方を教えてもかわいそうだし、合理性もない」だの、教えることを放棄する謙虚で尤もな理由が時代を席巻したが、だからといって一切合切を手放せばいいという話でもない。人間も組織活動も社会も、そんなに単純な作りではないわけで、オーソドックスのどこを残し、どこを変え、どこを排除するか、柔軟に考え直したいものと、あちこちにつまずいては思う。

* 岡村靖幸・俵万智「短歌ご一緒しませんか」(筑摩書房)
*1: 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年7月31日)P24
*2: 独立行政法人労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(労働者調査)」(2025年11月)P29

« 杖の手軽さは、比較すると見えてきた | トップページ | 「プロジェクトマネジメント基礎」プチ勉強会の編集後記 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 杖の手軽さは、比較すると見えてきた | トップページ | 「プロジェクトマネジメント基礎」プチ勉強会の編集後記 »