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2026-03-07

提供された価値は「ものさしの測定結果」か「ものさし自体」か

AI開発企業のアンソロピックの報告書「AIによる労働市場への影響:新たな測定法と初期の実証」(*1)が話題になっているが、核心を突いて解きほぐしてくれていて有り難かったのが@finalventさんのnote(*2)だ。私は野生の勘で思っているだけだが、この手のものは核心をはずして読み取ると馬鹿をみるよなぁと思う。

ネット上を飛び交っているのは下のグラフで、「AIが労働市場にどのような影響を及ぼしているか」を職業カテゴリー別でマッピングしたもの。青い領域が理論値、赤い領域が実測値。

パッと見て、青の広がりに対して、赤の狭さが印象づけられる。つまり「理論上AIに代替される業務」は広く想定されているが、今のところ「実際にAIに移行している業務」は限定的だ、ということを示している。

職業カテゴリー別の理論的な能力と実測された露出度

Theoreticalcapabilityandobservedusagebyo

青と赤の隔たりを示したところに、この報告書の価値があるのは間違いないが、それが核心ではない。赤を測定する新しい「ものさし」を提案したことに核心がある。そこのところを分かりやすく示してくださったのが、@finalventさんの文章だった(ものさしの解説は文末のリンク先からどうぞ)。

赤い領域、つまり現時点ではまだ限定的な「実際AIに曝されている度合い」を測定する新しい「ものさし」自体を提案し、このものさしを使って今後の変化をできるだけ正しく定点観測していこうという野心的試み、そこに一番の価値がある。だからタイトルが「新たな測定法と初期の実証」となっているわけだ。

その上で、今回の観測においては次の辺りがポイントなのかなと。

●現状でAIの導入が進んでいるのは、「知的だがパターン化しやすいタスク」が業務の中核(文書作成、情報の要約・整理、定型的な分析)、かつ「業務フローの中に組み込むインセンティブが明確に存在する分野」

●AIの労働市場への浸透を決めるのは「AIに何ができるか」だけではなく、「現場がそれを使う動機と条件を持っているか」が同等以上に重要

●AIの影響が出ているのは、解雇の増加ではなく、若い世代の採用鈍化

それを踏まえつつ以降はただの呟きにすぎないのだが、私がどうにも気になってしまうのは、この「職業カテゴリー」という基盤の脆弱さだ。

AIによって職業がどうなる話が沸騰するたびに、私はどうしてもこの基盤の脆弱さにやきもきして、話半分に聞く姿勢になってしまう。

職業分類こそが、既成概念のかたまり。こんな変化の時代には、どろどろに溶解して実態を伴わず、言葉の有用性を著しく損なっているラベルだのに。そういう言葉を使ってものを考えることのリスク、本質に辿り着かぬ思考停止、中身のない議論、砂上の楼閣みたいなのが脳内に渦巻いてしまって、これで何かを得ようという思考の働かせ方そのものに軽薄さを覚えてしまう。

プログラマーは職を失うとか言うが、単純にいって「できるプログラマー」は別の職業名(役割)を作りだすだろう。「できるカスタマーサービス担当」だって、今はない別の職業名を作っていくだろう。需要高い特定分野に専門特化する方向、今はない高度レベルに市場開拓する方向、今はない産業で働く、いくらでも未開の地を開拓しうる。

調理師やライフガードは職を失わないとか言うが、「できない調理師」「できないライフガード」「できないバーテンダー」は、いま影響度ゼロでも生成AIに代替されるだろう。機械対応でOK、自動システムで十分になる。そういうことではないか。

そこに需要があれば、一人が担ってちょうどいいサイズ感や質感の役割の束を作って、新しい職業名になっていくし、新しい職業名にならずとも、ある職場の、ある職務を遂行してもらうための1雇用枠は成立する。

今後、それぞれの分野で、さほど固定的で汎用的で明確な職業名は作られなくなっていくかもしれない。そうそう人の仕事上の役割を「束」でラベルづけして何十年と、意味をもって流通・活用させられる言葉って、作りがたくなっていくのではないか。

というか今だって別に、便宜的に職業名を使い回しているだけで、実態は千差万別なのだ。職業名にとらわれすぎて中身が薄っぺらい議論など、ここ何十年かを振り返ってみても蔓延っているし、企業側も個人側も頭を悩ましてきた。

だから、下手に全乗っかりしてこういうのを見るのは馬鹿を見るだけだし、報告書の主だってきちんと核心をつかんで活用してくれよって思っているだろうと思うし、んー、やっぱり「職業」を解体的にみながら「意味ある仕事をできる」ようになる仕組みづくりのほうに主眼をおいていくことが大事だよなって思う。

*1 Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence┃Anthropic(2026年3月5日)
*2 AIは仕事をどう変えていくか?┃finalvent(2026年3月6日)

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