「AとB、あなたはどっち?」のAとBは、対等な意見が用意されているか問題
「AとB、あなたはどっち?」というアンケート調査で、選択肢に「A」「どちらかといえばA」「どちらかといえばB」「B」の4つを並べて1つ選んでもらって、「A」「どちらかといえばA」の回答数を一つに束ね、「B」「どちらかといえばB」も同じように回答数を一つに束ねて、「A寄りの人が◯人、B寄りの人が◯人」と発表しているレポートがたくさん出回っている。「どちらとも言えない」という中立の選択肢を設けないことで、回答者は強制的にA・Bどっちか寄りに振り分けられ、傾向がはっきり示せるので世間の耳目を集めやすい。それ自体は別にいいのだが。
この「AとB、あなたはどっち?」と問うとき、「AとBが対等」な意見を用意できているか?が気になる。
個人的には「いやぁ、これ、明らかにAに回答を集めようとしてるでしょう?」と思っちゃう、時に悪どさすら覚えてしまうAとB設定というのがあって閉口する。それが世に「優良な調査」「役立つレポート」として受け入れられ、そこから何か見解が導き出されているのをみると、引っかかっている自分のほうがおかしいのかもしれない、とも思う。しかし、なかなか検証することもできない。
なので今回は、ちょっと時間を使って、自分は「何に、どういうふうに」対等でないと思うのか、「どう改めたら」自分的には対等な感じがしてくるのかを考えてみた。
下で取り上げたのは、私のような小人につっつかれてもダメージないだろう「リクルート就職みらい研究所」の調査レポートから一部抜粋したもの。2025年3月卒業予定の大学生・大学院生に対して、2024年4、5月時点で「働きたい組織について」実施したアンケート調査だ。
「大学生・大学院生の働きたい組織の特徴 2025年卒」調査レポート*には、こんな説明がある。
大学・大学院生の『働きたい組織の特徴』について、「経営スタイル」「貢献と報酬の関係」「成長スタイル」「ワークスタイル」「コミュニケーションスタイル」5つの観点で、29項目を挙げて、各項目について、A/Bの対立意見を、「A」「どちらかといえばA」「B」「どちらかといえばB」の4つの選択肢の中から自身の考えとして、当てはまるものを1つ回答する形式で聞いた。
まさに、である。下のA・B文は、その29項目のA/Bの対立意見で、私が違和感を覚えたもの(画像をクリックすると拡大表示する)。
どうだろう、自分が働きたい組織を問われたとして、「対等な意見AとBから、自分の志向性をどっちか選ぶ」という感覚がもてるだろうか。
※この一覧は、今興味深く読み進めている金間大介「無敵化する若者たち」*内の図表からの一部抜粋なので、原典リクルートのアンケートとはAとB入れ替わっているものがある。
上から、どどっと見ていこう。1つ目は「貢献と報酬の関係」という観点から、自分が働きたい組織をA、Bから選ぶ。2025年卒予定の大学生・院生ともA寄りの回答結果になっている。でも、このAとBって対等な対立意見が用意されているか?というのが私の論点だ。
私にはAの「制度を充実させる」に対して、Bが「制度はない」というのが腑に落ちない。「ない」なの?と思っちゃう。じゃあ、どう改めたら腑に落ちるというのかという話になるわけだが、自分なりの代案は「制度が手厚い代わりに」と「制度は手薄な代わりに」でA、Bを対応させるという按配だ。
これだと個人的には、だいぶ対等感を覚える。こんな具合いなのだが、人にとってこれは瑣末なことなのだろうか?
数打ちゃ、分かってもらえるかもしれない。2つ目に行こう。こちらも「貢献と報酬の関係」という観点から、どっちが自分が働きたい組織かを選ぶもの。
Aが「年功主義」を採用している組織を表しているのはわかるが、Bは単にAの出来損ないを置いてあるだけのように私には見える。もしかすると一定数Bに入れている人はいるので、私のつかめていない意図が成立しているのかもしれない。でも私の脳内には「Bのほうも、何によって高い給与がもらえるようになるかを示さないと対等じゃなくない?」というツッコミが駆け巡って冷静にみられない。
修正案を考えてみる。例えばAの年功主義に対して、Bは成果主義か能力主義かを置いて「仕事の成果や発揮した能力次第で高い給与がもらえるようになる」とかになっていれば納得感がある。報酬制度の主義を対立させて選択させるなら、わかるんだが。
3つ目は「成長スタイル」の観点から、自分が働きたい組織を選ぶもの。
これもAは「会社のもつノウハウや型を学べる」とあって、会社が与えてくれるものが明らか。 AとBで対等な意見を並べるなら、Bも「会社としては、何を提供するのか」という観点で文を作るべきではないのか。「個人が試行錯誤を行うことで」では、そこが欠落しているので、そりゃAに回答が流れるのも当然では、と作り手の誘導的作為を疑ってしまう。
私なりに考えてみた修正案は、Aの「教育機会を充実」に対して、Bは「挑戦機会を充実」を置くアプローチ。言葉の表現は、ちょっと洗練さに欠けるかもしれないが、アプローチとしては、こういう対立軸が良いのでは?と思った。
最後まで駆け抜けよう。4つ目も「成長スタイル」だ。
これも、Aが「どこの会社に行っても通用する」に対して、Bが「その会社でしか役に立たない」感を醸し出している気がしてならないんだが、私の思い過ごしなのか。私にはBって「つぶしの効かなさ」が強調されている文にしか読めない。
Aに対応させて、対等なBの修正案を作るなら、「その会社に属していてこそ獲得・修練できる、企業独自の特殊な能力が身につく」あたりになろうか。この設問を作った人が、どういうAとBを対置させたかったのか、汲み取れていない修正案かもしれないが。
あと2つ、次は「ワークスタイル」の観点で、自分の働きたい組織を選ぶものだ。
これも素朴に思うのが、なぜAの「個人の裁量権は小さいが」に対応させて、シンプルにBは「個人の裁量権が大きい仕事ができる」としないのか。なぜBにわざわざ「主役感のある仕事ができる」というズレた表現を置くのか、わからない。
というわけで、私の修正案はBを「個人が大きな裁量をもって仕事できる」というふうに、シンプルにAとBを対置させる表現を選んでみた。
最後は「経営スタイル」の観点で、自分の働きたい組織を選ぶもの。
経営の意思決定、どっちの会社で働きたいって話だが、いやぁ、どうにも「対等なAとBの対立意見」を用意して、今の若者の志向・傾向を分析しようという設問には思えないんだよなぁ。「正確性に致命的な欠陥があったら取り返しつかなさすぎない?」って思うのは、私が私の志向性に取り込まれているからなのか。
自分だったら、もう少し緩めて「Aを重視し、Bは段階的に高める」みたいにするか、「正確性と迅速性」を同格におくのをやめて「クオリティとスピード」の対立軸に置き換えるのはどうかと思案した。
私がこの調査レポートを知った、今読みかけの金間大介「無敵化する若者たち」では、
本調査が優れているのは、すべての設問においてAまたはBの対立意見を用意し、「A」「どちらかといえばA」「どちらかといえばB」「B」の4つの選択肢の中から、自身の考えとして当てはまるものを解凍してもらっている点だ。
と前置きして、この調査結果を紹介している。この「対立意見」というところに引っかかってしまったわけだが。
最後の6つ目「意思決定の際は」を取り上げて、金間さんは「正確性重視が8割、迅速性重視が2割」という結果を引き合いに、
昨今の経営環境、特にイノベーション創出を巡る競争環境下では、いかに迅速に実行サイクルを回すかが問われる。(中略)正確性や完全性が担保されるまで意思決定できないというのであれば、どんどん国際競争から遅れてしまう。だが、迅速性を志向する若者がこんなにも少ないとは。イノベーション論を専門としている身としては、とても不安になる。
と関連づけているが、ここを紐づけられちゃうのは回答者的には不本意というか、心外な気がしてしまった。この回答をもって「完全性が担保されるまで意思決定できない」志向だとまで持っていかれちゃうのは、ちょっと強引すぎるというか。
問いかけの些細な言い回しによって、回答ってすごく変わっちゃうので、言葉選びは慎重にって思うんだな。「科目でいったら国語が得意なほうでした」という人間のたわごとかもしれないけど。
* リクルート就職みらい研究所「大学生・大学院生の働きたい組織の特徴 2025年卒」(2024.07.23)
* 金間大介「無敵化する若者たち」(東洋経済新報社)
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