母の命日、今年は職業人として思い出す
今日は母の命日、他界して15年になる。改めて、おぎゃーと生まれた赤ん坊を成人させるって偉業だよなぁと、こうべを垂れる。母は3人の子育てに加えて、生涯仕事もよくしていたなぁと今年は振り返った。
何かの専門職というわけじゃない。職場の事業内容も、彼女の仕事内容も、40年近い職業生活では時期ごとに様々だった。家の中で工業用ミシンをゴォゴォ鳴らしていた時期もあったが、たいていはマイカー通勤できる職場に出かけていた。新聞にはさまっている求人広告をよく見ていて、そこから平日日中の事務の仕事など、働きやすそうで通いやすそうなのを見つけているようだった。
家庭に入って専業主婦するのが性に合わないことを、はなから分かっていたんだろう。彼女は常に、自分個人としての職場コミュニティをもち、家庭外にも役割を作っていた。末期がんが見つかって亡くなるまで2ヶ月足らずだったから、この世を去る2ヶ月前までは普通に出勤していた。
お葬式には彼女の職場の人たちもたくさん来てくれて、おいおい泣いていた。私もおいおい泣き通しだったので、お礼も挨拶もそうしっかりできたわけではないけれど、親戚や近所の人ばかりでなく、私の知らないいろんな人がやってきて、若い人も年配の人もみんなして泣いている光景を目撃した。彼女は彼女の人生を生きていた、その証を最期に見せつけられたようだった。実にチャーミングだ。
女性が出産・育児期間をもつのを「キャリアの断絶」とか「ブランク期間」とかって呼ばない社会になるといいなぁと思う。親をする個人の側の意識もそうだし、雇用する企業の側も、私のように人のキャリアを支援する立場の人間はもちろん。育児期間をキャリアの「断絶」とも「ブランク」とも思わない、呼ばない、そういう言葉が口をついて出てこない社会が広がっていくといいなぁと。
べつに職場を離れた先で自分の好き勝手に遊びほうけているわけじゃない、むしろ職場以上に責任逃れできない環境で、自分だけでなく他人の生命存在を預かって、命懸けで親の役割を遂行している。それを今は、多くの人が職場の仕事と両立して果たしていたりするわけで、キャリア発達をさせないほうが難しいんじゃないかと思うくらいだ。
なんだけど、なんとなくビジネスと家庭で発揮する能力が縁遠いという思い込みだけで短絡的に解釈して「断絶」だの「ブランク」だの言っているだけなんじゃないか。少なからず、そこには解釈の余地があり、個人差があり、職場差があり、場合によっちゃ、ちょっと言葉をかませるだけで、けっこう簡単に接続できるのではないか、そうも思ってしまう。
岡本祐子さんの「中年からのアイデンティティ心理学」という本にある一節は、我が意を得たりの名文だった。
育児体験によって培われた他者への気配り、人ひとり(あるいは数人を)成人させるという体験によって養われた、あらゆる局面の物事に対する力は、子育てが終わった後、新たな役割を獲得する上で、重要な役割を果たすのではないだろうか。
子育てほど、人類が連綿と引き継いできた尊い営みもないだろうと思う。だから、出産・育児期間を本人が卑下したり負い目を感じてしまうことがない社会通念みたいなものが健全に育まれていくといい。
もうすこし気負いや不安なく、子育てを一段落した女性が職場に重心をおき直したり再就職を検討しやすくなるといい。これから子どもを産み育てたいと思っている人たちも、先々の職場復帰や仕事の両立にまで不安をおぼえずに、意気揚々とそれを選択できるようになったらなと思う。
下の表は、先ほどの本の中で紹介されていたもので、子育てを通じて親の側に成長・発達がみられる6因子だ。
まだ粗削りだけど、一応キャリアの棚卸しシートっぽくしてみた。項目(主なもの)をみながら、過去自分比で「自分は育児経験を通じて、こう変わったなぁ」と思うものに丸をつけて、関連する思い出をメモっていくと、ちょっとした「育児経験によるキャリアの棚卸し」に使えるかもしれない。
親となることによる成長・発達に関する6因子(画像をクリックすると拡大表示する)
これって、組織側の視点にまわってみると、中年期・ミドル層の社員らに発揮してほしい能力特性のド真ん中を突いている気もするのだ。となると、これは「育児経験で培われるポータブルスキル」の一覧とも言えようか。
ここには危機管理系の能力が明示はされていないけれど、その辺りもそんじょそこらの職業経験者には負けない研鑽を積んでいる猛者が、育児一段落した転職組にけっこう潜んでいるのではないかとも思う。
ともあれ、短絡的に「断絶」とか「ブランク」といったラベルを貼りつけずに、個人でも採用担当者でも行ける人から、新鮮な目をもって「育児経験を通して培った経験・スキル」を再解釈し、中年層のキャリアの道筋を開拓していけるといい。
ご近所での、「あの人はいい人、温厚な人、包容力がある、情深い、人間ができている」にとどめておかず、その評価を別の言葉で掘り下げ、ビジネスシーンに接続させ、往来して道を踏みならし、発揮どころを広げていく。その余地は大いに残されている気がする。
と、まぁ、こういうことをあーだこーだ考えているから話がとっ散らかるのだ。ともかく日常話に紛れこませて、しれっとごちゃっと、ここにまずは置いておく。
* 「親となることによる成長・発達に関する6因子」(柏木、1995)は、幼児をもつ親との面接および自由記述から具体化して作成した質問紙調査によって導き出したもの
* 岡本祐子「中年からのアイデンティティ心理学」(ナカニシヤ出版)
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