教えるとき「基礎を取り出す」構成の妙(ソロ タキソノミーのメモ)
これは本当に分かりやすい!思った「ChatGPTを使い尽くす!深津式プロンプト読本」。重たい腰をあげて生成AI、LLM、ChatGPTの基礎知識を、と手に取ったが、ビジネスパーソンの入門書に最適だった。著者2人の掛け合いでテンポよく解説する小気味よさ、シチュエーションや活用例の巧さも然ることながら、本の構成が見事だなと感服。
「ビジネスシナリオでのChatGPT」を一章にまとめず、
第3章 ビジネスシナリオでのChatGPT(基礎)
第5章 ビジネスシナリオでのChatGPT
と、2つに分けられている構成の妙に、うなった。
第3章は「サマリーを作って」「FAQを作って」「検索して」の3本立て。「汎用的で(誰でも)、ライトで(すぐ)、ビジネスで役立つ(使える)」基礎をコンセプト立て、具体例を示しながら紹介している。これによって、第1章から第3章までの前半部で読者を小気味よく虜にして、後半に送り出す手さばきが見事なのだ。
すでに学習内容を熟知している著者の立場(先生として物事を教えるとき)って、無意識でいると、この分割になかなか頭がまわらない。無意識に教えるべきことを構成だてていくと、(ごく概念的な知識は別としても)「ビジネスシナリオでの〜」みたいな実践の件(くだり)で基礎部分だけを取り出して一章を立てることに、なかなか思い至らない。
思い至っても、その基礎部分を、この範囲とスコープ立て、これとコンセプト立て、一章として独立的に機能する構成内容を作っていくことが、かなり創造的な、ひと仕事となる。それに価値を見出さないと、やっていられない。これをしっかりやってのけているところに、巧いなぁ!とうなったのだ。
ここに意識が及ばないと、「第3章」に全部入りになっちゃうか「第5章」に全部入りになっちゃうかで、一章に束ねられる。こうなると「目次」として眺める分には、きれいですっきりしているんだけど、学習の実効性としては落ちる。しかし熟知している著者側は、それに気づかぬことも、ままあるだろう。
これは本にかぎらず、講義、授業、セミナー講演などで人に教える場の構成・時間割でも、言えることだ。
「初学者にとっての学びやすさ」という構成指針を取り入れると、どういうふうに学習範囲を絞り、構成要素を分割し、順序立てると良いかの答えが変わってくる。
演習課題を取り入れよう、ワークショップ形式にしようだとかの趣向を凝らすより前に、もっと基本的な骨格づくりの甘さをどうにかするほうが先決では?という現場は少なくない気がする。「実務者による、実務者のための、実践的な講座にすべく、ワークショップ形式」という話し運びだけで基本構成を固めてしまうのは、ちょっと安直である。
人の理解は「浅い理解から、深い理解へ」と段々に進むし、人の思考は「単純な思考から、複雑な思考へ」と段階を踏んで学習していく。
「人の学習段階」を5つにレベル分けして示したソロ・タキソノミー(SOLO taxonomy)は、概念的だが、良い道標になる。
「浅い理解」ステップを踏まずして「深い理解」には至れない。「単純な思考」を踏まずして「複雑な思考」へはなかなか至れないのが、アナログな人間の学習プロセス。
実践的だというだけで、ハイコンテキストな事例そのままに演習課題を与えて「複雑な思考」を求めても、初学者には考える足場がなく学習なしえないのだ(興味をもつことには貢献する場合もあるが)。
一足飛びに「深い理解」「複雑な思考」を求める育成イベントをしかけて、学習効果ゼロに終わることがないように歩みを企てよ!という示唆を、ソロタキソノミーは与えてくれる。
ソロタキソノミー(SOLO taxonomy):参考までに私のメモ的スライド(クリックすると拡大表示)
それにとどまらず、その段階の踏み方を、どう組んだらいいかを考える道標としても使える分類表である。
一方、あくまで道標でしかないという認識も極めて重要だ。実際には「どこまでがレベル1なのか、どこからがレベル2になるか」は各現場で考えなくては仕方ない。実際には、その学習テーマ、その学習者次第ということになるから、仮説立てて、やってみて、検証してみて、手直ししてってサイクルを自分の手元でまわすしかない。
どちらかといえば「どこまでをレベル1と見立て、どこからをレベル2と見立てるか」という表現のほうが、実際的だ。決めの問題なのだ。違ったら直せばいい。
「急いては事を仕損じる」というのは学習においても言えること、急いては学習を仕損じる。最近、人間のアナログ性について、よく思いふけっている。
*深津貴之、岩元直久「ChatGPTを使い尽くす!深津式プロンプト読本」(日経BP)
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