理論に順序あり、順序あると予測や計画に役立つ
この間ここに書いた「ブルームの教育目標のタキソノミー(改訂版)」の話を受けて、改めてマルザーノらの新提案*を読み直した。ブルームの分類体系の弱点を突いたもので、読み応えのある一冊。
マルザーノがブルームを突くところの一つが、ブルームのは「枠組み」やん、おいらのは「理論」やねん。自分は「人間の思考に対するモデル、あるいは理論」を提示しているという。
理論とかモデルというのは「現象を予測することができるもの」。一方で、枠組みっていうのは「現象を説明する原理をおおざっぱに整理したもの」と説く。
言い換えると、マルザーノが提唱しているのには順序がある。だから「こっちが先で、そっちはその後」という順番がつく。なので「これの後には、あれがやってくるぞ」という予測が立ったり、「それの前に、これをやらないと意味がないぞ」と計画立てるときに役立つ。そこに「枠組み」ではなく「理論」の価値を訴えているわけだ。
それでマルザーノが何の順序を説いているかというと、新しい課題に直面したときに人がどう思考して、やりだすか、やり遂げるかということについて。「3つのシステムとナレッジの相互作用で決まる」と説いているのが図にするとこんな感じ(クリック or タップすると拡大)。
「新しい課題に直面したとき」というのを、「新しいことを学ぶシーン」と言い換えて想像してみよう。
まずステップ1は、取り組むかどうかを決める。それを学ぶこと(覚えることとか、できるようになること)が「重要だ!」とか「自分にもできそうだ!」とか「できるようになりたい、やってみよう」という積極的な気持ちが持てないかぎり、取り組もうとは思わない。
取り組むと決めたらステップ2、目標と方法を決める。せっかくステップ1で興味や危機感をもって取り組む気になっても、具体的に目指すゴールと、それを達成するための方法がイメージできないと、何かをやり始めることはできない。
目標と方法が定まったらステップ3、具体的な行動に取りかかって、ようやく眼に見える学習活動へ。が、ここでも「やってみたが、うまくできない」「一向に効率も効果も上がらないよ」「できないのをできるようにするための克服課題がわからない」と足踏み状態をメタ認知すると、やる気はそがれていって新しい課題をやり遂げずじまいになってしまう。
自分の学習をセルフマネジメントする上でも、誰かに何かを教えたり、誰かの学びをサポートする役回りにおいても、どこで立ち止まっているのかを捉えて介入策を手立てするのは有効だ。
やる気にはなっているのに(ステップ1突破)、目標と方法が立たなくて(ステップ2の壁)足踏みしてるなって思ったら、とっかかり簡単めの目標と達成方法をアドバイスしてあげると、その人は学習を断念しないでチャレンジし続けられるかもしれない。
また、どのステップでも、その人がそのとき持っているナレッジ(知識、スキル、運動能力とよばれるようなもの)が影響を及ぼす。もっている知識が乏しければ、「これは重要だ、自分に深く関わってくる」と思える範囲はひどく狭くなるし、いろんな知識があれば、あれもこれも自分との関連づけが起きやすい。これは想像に難くないだろう。
そう考えてみると、何か一つ二つ知識を授けてあげるだけで、部下や後輩が次のステップに踏み出すことを後押しできるかもしれない。
って、2016年にもほぼ同じことをここに書いてスライドも起こしているのだけど、こうやって図を作りながら咀嚼し直す中で深く浸透していくところがあるのだ、私の頭は…。
この辺って、どうなるんだろう、どうするんだろうなぁ、今後の教育界は。世の中いろんなことが楽に作れるようになっていっているが、こうやって「作る過程」の試行錯誤やら手間暇かけた時間・経験のなかで、人間はナレッジを体になじませ体得してきたんだと思うんだな。
これが「作るのはポンとできるんです」って合理化されたとき、人間は「作る過程」が排除されたのと一緒に「体得過程」をなくしてOKなのか?というのが疑問なのだが。
作られた高度な道具を有効に使いこなす力を、ポンと体得できるわけじゃないのでしょう?別の経路をたどって、応用的に使ったり、部分的に使う選択をしたり、故障したのを作り替えたり、できるようになるのか。私のような頭だと、そこへの疑問がぬぐえないが、新人類はまた別のアプローチをつくっていくのかもしれない。少なくとも私の場合は、この地道なプロセスをたどって生涯を生きていくほかなさそうなのではあるが。この辺は決め込まず心を開いて関わっていきたいところ。
*Robert J. Marzano, John S. Kendall (原著), 黒上 晴夫, 泰山 裕 (翻訳) 「教育目標をデザインする: 授業設計のための新しい分類体系」(北大路書房)
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