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2024-02-28

「記憶した」だけの学習成果を「理解した」と誤認していないか

セミナーや研修・勉強会で人に教えてもらった、本で読んだ、検索したら書いてあったというので「新たに知ったこと」を何も見ずに言えるようになったら、それは確かに「一つの学習プロセス」だが、「一つ目の学習プロセス」に過ぎないとも言える。

それで何かできるようになったかというと、何もできるようになったことはないということが多いのではないだろうか。聞かれたら答えられるとか、「あぁ、聞いたことはあります」とは答えられても、それで人の役に立つことは難しい。概ね、仕事では役に立たない。キャリア上の戦力アップとも言いがたい。

アンミカさんのいう「白って、200色あんねんで」以上に、ブルームさんの「理解するって、7プロセスあんねんで」は、もっと理解されたい。図にしてみると、左から2番目のステップである(画像をクリック or タップすると拡大表示する)。

Photo_20240228092501

ブルームの教育目標のタキソノミー(改訂版)*はいろんな示唆を与えてくれるが、今回は上図の通り「認知プロセス次元」の2つ目「理解する」まわりに焦点を絞りこんで書いてみる。

これに関連した私の気がかりを挙げると、企業の人材育成施策で、多くの学習はせいぜい「記憶した」どまりになっているのを「理解した」と誤認されているのではないかということ。学んだことを「応用する」まで持っていけていないことを問題視する声はよく聞かれるが、そもそも「理解する」に至っていない事案が多いように思うのだ。

ブルームの分類体系に照らせば、研修や勉強会で学んだことをそのまま「思い出して言える」だとか、テストをやったら「選択肢から正解を選べた」だとかは、複雑さが一番低い「記憶する」どまりである。

じゃあ「記憶した」にとどまらず「理解した」状態に達したとはどういうことを言うのかというと、図に並べた「理解する」列の7項目ができるかどうかで検証できる。

解釈すること
例示すること
分類すること
要約すること
推測すること
比較すること
説明すること

といっても、こんな概念的な言葉の羅列では、まだまだ分かりづらく誤認を呼んでしまうこと請け合いなのだが、これを詳細に「理解する」となると、どうにも専門書をきちんと読む工程なしに難しいところがあるので、それは下の書籍紹介にとどめるとして。ここでは「理解する」1語を7項目で言い換えることで、いくらか詳細度をあげて「理解する」ことまでを目標としたい。かように「理解する」への到達は複雑なのだ。

「理解した」状態というのは、それを「自分の言葉で言い換えられる」とか「具体的な例を挙げられる」とか「その上位概念にあげて正しいカテゴリーに当てはめられる」とか「要約ができる」とか「それが該当するパターンを推測できる」とか「それの因果関係を説明できる」とかをもって、はじめて到達したことを検証できる。

はたして、こうした検証作業をもって「私は理解した」と言える学習者、「私は理解するレベルまで教えた」という指導者、「私は理解するレベルまでの育成施策を講じた」と言えるマネージャーや人事担当者は、なかなかいないのではないか。

私も1学習者の立場で、自分の学習の出来栄えを振り返ると、理解するまで到達できている学習プロセスなど、なかなか踏むのが難しいものだとため息が出る。

しかし企業が、一定の時間的・金銭的投資をして人材育成施策を講じるという場合、この辺の目標設定と到達度の検証、到達するための仕組みづくりをもう少ししっかり仕込む必要があると思うのだ。

「目標設定が重要だ」とはビジネスの現場でよく言われる。「SMARTの法則」(以前ここでも書いた)なんかもビジネス・リテラシー的によく知られているが、企業が社員研修するだとか人材育成施策を講じるだとかっていうときに、どこを到達点にするかという目標設定はひどく曖昧なまま実施されていることが多い気がする。

効果検証も、受講した人の満足度レベルの確認にとどまっていたり、記憶度を測っているのか理解度を測っているのか定まっていなかったり、現場でどれだけ応用できているかまで追わず、あとは本人次第になっていたり。

下記の書籍は私の大好物で、これを読みながら改めて、私はここんところの専門性をこそ発揮して人材開発の施策精度を上げるとか、現場貢献をしたいとかいう思いが強いんだなと染み入った。むちゃんこ分かりづらい専門性で、なかなか売り物としてメジャーにはならないけれども、活かせるところせっせと自分で発掘して、あらゆるところでこの知見は活かしていきたいと思った。これは人事評価制度の設計や運用においても、人材育成施策の設計や運用にも、水面下でむちゃんこ使えるノウハウである。

*ロリン・W・アンダーソン、デイビット・R・クラスウォール編著、中西穂高、中西千春、安藤香織訳「学習する、教える、評定するためのタキソノミー ブルームの『教育目標のタキソノミー』の改訂版」(東信堂)

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