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2023-11-10

役職と職種、役職と等級、役職と職位を使い分けたい

「職種」のことを「役職」と呼んでいる文章をよく見かける。この言葉の混乱を整理したい。そんな難しいことはなく、いったん覚えてしまえば、もう迷わずに済む。迷ったとしても「どっちがどっちだっけな」と思いつくことさえできれば、迷ってぐぐって迷いから解放されるまで30秒とかからない。その一助になったらと思って、ここに残しておこうと書き出したら、30秒じゃない文章になってしまった。先を急ごう。

とりあえず「役職」と「職種」を使い分けたい。

役職というのは、上下の格付けがある世界だ。本部長とか部長とか課長とか係長とかだ。

職種というのは、上下の格付けがない世界だ。デザイナーとかディレクターとかプロデューサーとか営業とか人事とか経理とかだ。レベルの違いではなく、タイプの違いを表したいときに使うものだ。

だから、職種という水平線が横たわる世界に、役職という垂直線を縦に引かれると、脳内が困惑するのだ。図にしてみたが、下手だ(クリックかタップすると拡大表示する)。

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「役職と職種の使い分け?そんな細かいこと言うなよ。人事関係の仕事でもないかぎり、そんなこと気にならないだろ、実害ないだろ」と思う人もあるかもしれない。そういう話題のときもあるだろう。しかし実害があるときもあるだろう。と思うので、慎重でありたいシーンに慎重に言葉を選べるように、頭の隅に置いておいてほしいのだ。

たとえばデザイナーとディレクター、プロデューサーと営業というのは「職種」区分であって、そこに上下関係はない。そこで、それを「役職」と呼び間違えてしまうと、その言葉が上下の格付けをまとってしまい、話し手と聞き手の認識がずれたり、伝えたいことと伝わることの混乱が生じたり、誰かの心がざわついたりするのだ。

「うちの会社では上下関係あるよ、デザイナーよりプロデューサーのほうが偉いんだ」ということもあるかもしれないが、それは一般名詞としての「職種」の管轄からはずれている。その社内だけの意味づけだ。それに、もしかすると「組織的に上」なんじゃなくて、「実質的に強い」だけの話かもしれない。場合によっちゃ単にプロデューサーの「何某さんが強い」だけかもしれない。敏腕デザイナーからすると「自分は何某プロデューサーの部下じゃない」と腹を立てたり気分を害するかもしれない。そういう個別具体は、別の話だ。

「職種」という言葉はあくまで、個々人が担当する仕事タイプを類型的に分類して表す言葉であって、組織の中の上下を格付ける「役職」とは使い分けたい。

実は「役職」と「等級」も使い分けたい。

もうすこし細かくみていくなら、会社で扱う格付けというのは一般に、2つに分けられる。人事制度上は「役職」の他に「等級」の世界が存在しているのだが、これを混同しているケースが少なくない。役職は「組織上の格付け」、等級のほうは「人事上の格付け」だ。図にすると、こんな感じだ(クリックかタップすると拡大表示する)。

役職と等級の使い分け

「役職」は一般に社内外に公表されるものだが、「等級」は必ずしも公表されていないものだろう。「等級」は、その会社の中で、その社員がどのレベルに格付けられているかを示すもので、その人が基本給いくらかの根拠になっているものだ。

名刺の肩書きは、ここでの話と別だ。名刺に「シニアデザイナー」か「デザイナー」か「アシスタントデザイナー」かを書き分けている会社もあれば、等級上はアシスタントレベルのスタッフでも名刺に「アシスタント」とつけず「デザイナー」で統一している会社もあるだろう。名刺にどう書くかは広報的な用途もあいまって各社の方針次第なので、ここで話している論とは別である。

「役職」は、(部とか課とかで括った)ある組織の責任者として、責任と権限を与えられていることを示す。その組織内に所属している部下のマネジメント業務(勤怠管理や評価・育成など)も含む。

「職位」と「役職」も使い分けたいことがある。

「担当部長」「次長」「エグゼクティブプロデューサー」というように、会社によっては、組織の長としての責任を負わない・権限をもたない肩書きを作っていることがある。これらを含めた場合に「役職」と呼び、(これらを含めず)明確な責任と権限、部下をもつ「本部長」や「部長」だけを指したい場合は「職位」と呼び分けることもある。

基本的に「職位」は、一組織に一人だ。「本部長」は◯◯本部に一人しか配置しないし、「部長」は◯◯部に一人しかいない。そうしないと責任の所在が曖昧になってしまう。

「役職」と「等級」の違いに話を戻して、「等級」というのは、2等級だったら何々ができるレベル、3等級だったら何々ができるレベルというふうに、等級ごとの要件定義書を作って、それに照らし合わせて各人を格付けするものだ。これは、その人がもっている能力、発揮した行動・パフォーマンス、今後期待できる伸びしろなどを反映して付けられるもの。各社ごとに人事制度を作って運用しているので、何をもって格付け・序列化しているかは社ごとに異なるが、先に述べたとおり「等級」を基本給の根拠としていることが多い。

「役職」は任命するか解任するか、「等級」は昇格するか降格するかだ。

「役職」と「等級」を分けて制度化しておくと何が良いのか。役職者の処遇にとらわれず、柔軟に組織改編しやすくなる。

組織改編によって、ある部署が統廃合されたりして、ある人が役職(部長職)からはずれても、等級(部長クラス)はそのまま維持することができる。部長クラスに求められる要件を満たしてくれれば、組織改編の都合で等級(基本給)が大ブレすることなく処遇できる。「誰それさんを部長職からはずすわけにはいかないから、簡単には組織改編できない」といった本末転倒を回避できる。

なんて、ごにょごにょした人事制度の話を掘り出したらキリはないが、とにかく最初の「役職」と「職種」を使い分ける世界の一助になったらいい。いつか、どこかで、誰かがぐぐったときに、これがひとつまみでも役に立ったらなと思う。ぐぐって来て、ここまで読む方はほぼいないだろうけれども。

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