巷は我がふり直す機会にあふれている
先月のこと、ある朝うちのインターネットが急につながらなくなった。パソコンもスマホも、Wi-Fiにつながらない。部屋のWi-Fiルーターに問題が?それともマンション全体がネット不通?(いや、マンション外も?日本中?世界中?を押し留め)、ざっくり2方向で考えてみる。私の住んでいるマンションはインターネット完備というやつで、部屋まではネット回線が用意されている。
前者か後者かの分岐点がさくっと解せれば進展は早いが、隣り近所とつきあいがなく「そちらさんどうですか?」と気軽に尋ねることができない。マンションの管理会社に電話する前に、とりあえず自室でできる検証作業をするとしよう。ということで、部屋のWi-Fiルーターのコンセントを挿し直して再起動してみたり、LANケーブルの断線を疑ってみたりするが、なんら変化なし。有線LANの変換ケーブルが手元にないので、そこは検証ならず。
買い物ついでに部屋を出て、1階エレベーター脇の住人向け掲示板に目をやってみたが、通達は見当たらない。
んー、どうしようかなぁ。今日明日はまだスマホのテザリングでもしのげるが、明後日はお客さんとのオンラインミーティングがある。そこまでにはちゃんとしておかないといけない。
そこで管理会社に電話をかければ良いものを、せっかちが私を隣町の家電量販店にいざなってしまった。ここまでの室内検証作業をやった上であれば、管理会社も「自室だけの問題を、マンション全体のせいにする輩」とは思わなかっただろう、話し方ひとつだろうよと、後から振り返ればそう思うのだが。
ネットで調べるとWi-Fiルーターの寿命は4年ほどと書いてある。私のは使い始めて3年程度。でもまぁ、2台持っておくと、今度また同じ問題が起きた時にも付け替えてみて検証器に使えるだろう、新調することでいくらか性能の良いものにグレードアップもあろうと、今すぐ買う理由に満たない理由をかき集めて家を出る。ともかく、今のWi-Fiルーターに問題があるのかないのかはっきりさせたいだけだ。
店に着くや、さっさとこれと決めて、5千円ほどのWi-Fiルーターを新調。レジを済ませるや、すぐさま帰宅、接続を試みる。それで早々に、原因はWi-Fiルーターでないことが確認された…。
そこでようやく、そこまでしたんだからと腹を決めて、心置きなくマンションの管理会社に電話を入れた。すると「今朝8時頃からつながらなくなっているようでして、どうも現地調査が必要だということでマンションのほうまで行って確認したところ、NTTの機材に問題があることが確認されまして、11時半頃に委託先の業者さんのほうに修理依頼をお願いしたところです」と。
そこで話が途絶えてしまったので、「見通しのほうは?」と先を促すと。「あぁ、見通しですか。それは委託先のサポートセンターに電話をしていただいて、物件名を言えば随時更新された情報をご確認いただけます」と。
で話が終わってしまったので、「では、お電話番号をお伺いできますか」と尋ねて、教えてもらった。先方「先ほど手配を終えたところなので、すぐだと、まだ見通しが立っていないかもしれませんが」というので、それは夕方に電話することにする。それはいい。
しかし今後も同じようなことがあった場合、何が私のふるまいとして最善策なのかを見定めたい。私からすると「電気・水道・ガス」と同等レベルで「情報」のインフラ断絶は問題大なのだが、あまりそういう認識は先方になさそう。不動産業でも、そういうものなのだろうか。その辺の按配を、このやりとりを通じて承知しておきたいところ。
それで「今後もこのようなことが起こりうると思うのですが、1階エレベーターの掲示板のところに一枚掲示物を貼っておくとかしていただけると、マンション全体の問題なのか自室だけの問題なのかすぐに切り分けられると思うんですが、掲示して伝えるとかはなかなか難しいんでしょうかね」など、しどろもどろ口にしてみたが、「んー、そうですね」と、あっさりNG回答だった。
私のバカバカ。「難しいんでしょうかね」と言ったら、相手は「そうですね」と、なんとなく返して終わってしまうの請け合いじゃないか。出だしからして、実にだらだらしていて要領を得ない。もっと、ぱきっぱきっと一文を区切って提案するように話せれば答えは違っていたかもしれない。
「1階エレベーター脇の掲示板に一枚案内を出してくださると助かるんですが、いかがかしら」という提案モード。譲歩的なニュアンスを醸し出して「全戸数分を印刷してポスト投函するなんて、そんなことしなくていいと思うんですよ。みんな毎日ポストをチェックするとも限らないし。状況と進捗確認先の電場番号を手書きして1枚掲示板に貼ってくださったら、それでみんなに周知できると思うんですよ。そちらの電話問い合わせのご負担も減るでしょうし。一度社内で話題にあげてもらって、検討願えないかしら」くらい詰め寄ってみる手もあった。
そしたら先方も勢い「今後は善処します」とか「社内で検討してみます」くらい口にしていたかもしれない。
いや、しかし「みんな、そう思っているはず」とうそぶくのに私はひどくためらいを覚えるようになって久しい。もはや使えなくなってしまったと言っても差し支えない程度に、みんなそう思ってるふうの言葉をあやつるのに抵抗がある。「みんなって誰やねん。おまえの思っていることを、おまえの思いとして語れ」という自己ツッコミが自動で入る仕様になっているので、こういったセリフを流暢に展開できない。そういう役柄を憑依させてしゃべるとしても、瞬発的にここまでのセリフを紡ぎ出せる手腕もない。暮らしを営むって難しい。
で、ここからだ。その日の夕方まで待って、委託業者のサポートセンターに電話してみた。機器を交換する必要があり、翌日の13時から17時の間に行う予定なので、翌日17時には修復見通しだというのを確認した。ここから後のほうが、本件で私に残した反省は大きい。
この情報を得た私には、自分でお手製の掲示物を1枚作って、マンションの掲示板に「一住人からの共有事項」として貼り出しする選択肢があった。思いついた。が、結局やらなかった。でしゃばりかな、1日だしなぁ、みんなは私ほど困っていないのかもしれないしなぁと思って、結局やらずじまいにしてしまった。
でも、別にその掲示が1枚あることで人に迷惑をかけることはなし、1日足らず勝手に掲示を貼っても管理会社が見つけて気を悪くすることもなかったろう。助かる人が1、2人でも見込めるなら、ちょいミニッツ、ほぼノーコストを自身が請け負うべきだったろう。それをずっと引きずり、ネットが復旧した後もずるずるとあれやこれや考えふけり、その割りにまったく役立たずに終わってしまって、本当に情けない。
何が仕事か、職業的に何の仕事に就いているかなんて小さな枠組みに、結局とらわれている自分のふるまいにゲンナリした。仕事じゃなくて生業だよ、自分をどう生きるかだよ、まったく、いい歳してなんなんだ。人のふり見て、我がふり直せ。ほんとに、まったくだ。人のなりふり見て気になるところ、自分もだいたい足らぬところあるからこそ気になっているのだ。我が足元を見て、我がふるまいを直せ。世の中は我がふり直す機会にあふれている。
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