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2023-04-06

1通のメールが冒険魂を灯した日のこと

3月の初旬、プライベートのメールアドレスに1通のメールが届いた。1行目に、hysmrk様とあった。主は、私の名前をご存知ないようだ。あるいは知っていたとしても、ここで本名を記す間柄ではないということだ。

しかし「どこそこ社のまるまると申します」という改まった書き出しは、襟を正して読むべき雰囲気をまとっていた。先を読み進めてみると、私が以前Slideshareというスライド共有サービスに上げたスライドを見て、それが分かりやすいので、うちのサービスの教材開発を依頼したいという、とある法人からの問い合わせだった。

驚いた。「そんなことは日常茶飯事さ」という御仁なら、それがどうしたという話だろうが、私はそんな問い合わせ日常的に受け取っちゃいない。Slideshareには数十スライドを上げてきたが、スライドを上げた直後に友人・知人から連絡をもらうことはあっても、見ず知らずの法人から、しかも教材開発の発注前提で問い合わせが入るなんて、ネット庶民の身にそうそうあることじゃないのだ。

しかし驚いた理由は、それだけじゃない。その問い合わせを受けたのが、まさに自分が翌月から個人事業主としてやっていこうというタイミングだったからだ。それどころか、今後やっていきたいところのドンピシャというか、むしろ私の活動フィールドを拡張してくれるような引き合いであった。

さらには、老舗の教育会社とかではなく、新進気鋭の研究者やAIエンジニアが結集する若き頭脳集団のスタートアップみたいな会社からの問い合わせだった。自分が一生つき合うことがなさそうだった人たちとの接触機会が、こんなタイミングで、ぽとりと落ちてきたのだ。驚かないではいられない。

会社を3月末で辞めることは公けにしていない時期だったし、後のやり取りからしても、向こうさんは一切ご存じなかった。なのに、どういうミラクルだ。神のしわざか、見えざる手のしわざか、AIの引き合わせなのか。これから盛大に私は騙されるのかもしれない。勉強代と思って初っぱな失敗しておけという神のお達しか、それとも真逆のビギナーズラックだろうか。

眉をひそめつつも、私が出す結論は一択である。Webサイトで拝見するかぎり、関われたら面白そうだなぁと思うドンピシャな事業展開をしていて、たとえ騙されても、初っぱな打ち合わせで先方の期待にあわずさらっと撤収されようとも、個人事業主ひよっこの私が今、この話に乗らない手はない。

そんなわけで、先方が私のことを実際より高く見積もっている可能性を十分に懸念しながら初回打ち合わせに臨んだ。後から振り返れば、私はけっこうな時間を割いて冒頭、挨拶もそこそこに、先方が自分を使うリスクについて熱心に話していた…。

もちろん、その会社のサイトを拝見して、自分がすごく関心をもつ領域で事業展開されていること、自分がそれに関わって貢献できたらすごくいいなぁと思っていることも率直に伝えたわけだが、それにあたって私はどういう人間だから、こういう形では役に立てるかもしれないが、こういう形では少なくとも単独では期待に沿えないのではないかと懸念している云々。冒頭何分使ったかわからないが、ひとしきり喋って、それが自己紹介となった。

すると、それが先方にとってはむしろ良かったみたいで、そのまま快く話し合いが展開した。こちらは今後の事業展開をこう考えているから、今回の案件に限らず、こういう組み方ができたら良さそうだとかいうふうに、話が広がっていった。

この案件がどう決着し、どう発展していくかは、これからの話だ。だけど、あのタイミングで受け取った1通のメールが、私の冒険魂をぽっと灯したことに間違いはない。個人でやっていこうと腕まくりした日。あの時期に、あのメールを受け取っていなかったら、今いる自分の場所(を見る私の目)は、もう少しぼんやりしたものだったかもしれない。ひと月を経て振り返って、そう思うのだ。あれは、誕生日の前夜だったな。

これって、いったい全体なんなんだろうな。絶妙なタイミングで届いた1通のメール、これも自然の摂理のうちなのか。「そういうことがあってさ」と、日頃から冒険魂を灯して生きている友人に話したら、「そういうことって、ほんと割りとあるんだよねぇ」と、さらり返ってきて、あぁ冒険している人にはあるんだなぁって思った。

日常の中で、冒険の選択をしていないと、ない世界の住人になっちゃうんだけど、冒険の選択をしていると、ある世界の住人になる。これなんだろうなぁ、クランボルツ博士が提唱する「計画的偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)というやつは。キャリアについて若人に話をするとき、これについて紹介することがあるのだけど、自分も実例をもつ人間になれて良かったな。

まぁまぁ、とにかく、冒険に出かけてからの道中は、やっぱり慎重に、浮足立たず、せっせと自分がなすべきこと、できるかぎりの精一杯を、丁寧にやることだ。これに尽きる。この性分をこそ大事にして、コツコツやっていこう。道は、そこに拓くのだろう。

あとあと、やっぱり、インターネットってすごいなぁと改めて感じ入るのだった。何度となく思ってきたけれど、いろんな劇的変化を与えてきたけれど、一介のサラリーマンの脱サラをも、こんなふうに彩ってくれるんだなぁ、インターネットって本当にすごいなぁって、また今回もこうべを垂れた。

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