父と母の結婚式会場を訪ねる
今年のゴールデンウィークのことだ。妹が久しぶりに帰省したので、レンタカーを借りて父と3人で都内へ出かけた。ドライバーは妹、ペーパードライバーの私は助手席、父は後部座席に陣取った。気持ちよい青空のもと高速道路に乗って久しぶりのドライブを楽しみ、目的地近くで首都高を降りると、都心のビル群に迎えられた。
ここで結婚したんだ。
帝国ホテルを目指して私と妹が、あそこから入るんじゃないか、こっちからは曲がれないんじゃないかとごちゃごちゃ言っていると後ろから、父の声がした。
いま通り過ぎた学士会館で、母と結婚式を挙げたんだという。へぇ!それは初耳だねぇと言って振り返るも、車なのであっという間に通り過ぎてしまった。
それでずっと、なにかのタイミングで父と一緒に学士会館を訪ねよう、館の中に入ってみようと時機をうかがっていたのだが、それが今日叶った。今年の父の誕生日会に、学士会館の中のレストランを手配したのだ。
考えてみると、父と母が結婚してちょうど50年(くらい)の節目でもある。自分が結婚式を挙げた場所に半世紀おいて再び訪れるというのがどんな気分なのか私には到底わかりようもないが、それなりに味わい深いものなのではないか。
そんな期待を胸に先日、父に電話をかけて食事会の場所を伝えると、改めて「俺はそこで結婚したんだ」と父は即答で返した。そうそう、そう言っていたから再訪してみるのもいいかなと思って。そう私が言うと、電話ごしに少しそわそわしたような気配を感じた。
このときは、都内の駅で待ち合わせて一緒に建物まで向かおうと話して電話をきったのだが、前日に父が電話をかけてきて、やっぱり一人で学士会館まで行ってみると言う。
近くを一人で歩いて時間を過ごしたいのかもしれない、亡き母との思い出もいろいろあろうかと思い、そう、じゃあ現地集合で、と応じた。
外で待ち合わせるとき、父はたいてい、だいぶ早くに到着して連絡をよこすのだが、今回は一向に連絡は入らず、待ち合わせ時刻の少し前に建物前で顔をあわせた。
「学士会館」と書かれた建物入り口で、父にひとり立ってもらって記念撮影をした。カメラごしに、母を連れて来られたら、よかったなぁと思った。
レストランの中に入っていくと、兄がすでに着いていて奥の席に腰をおろしていた。室内はとても品のあるしつらえで、おもてなしにも温かみがあり、ごちそうもワインも堪能。3人でゆっくりのんびりとおしゃべりをして、とても豊かな時間を過ごした。
父も、ここを訪れたのは結婚式以来とのことで実に50年ぶり。昨日は、昔のアルバムをめくって結婚式のときの写真を何枚か見てきたと言っていた。
学士会館は、自分が生まれるより、父が生まれるより前、1928年に建てられた歴史ある建造物。なんだろうな、この館の中で、長い歴史に包まれるようにして過ごす特有の安らかさ。こうした建物が大事に残されていることに、ありがたさを感じる。父も兄も終始ごきげんで嬉しかった。
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コメント
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学士会館は30年以上前ですが友人の結婚披露宴で訪れました。
何かとても落ち着く暖かさのある建物だなと感じたのを今も覚えています。
そのお食事会だけでなく、お父様に素敵な贈り物をされたんだなぁと拝読していてこちらまで心が温かくなりました。お父様はそのお食事会の場所を聞いてからずっと、そして当日の待ち合わせの前のお時間まで含めて、心の旅をしてその傍にはお母さまも一緒にいらしたのだろうと思いました。
投稿: ベル | 2022-12-11 08:31
ベルさん、コメントをありがとうございます。学士会館、訪れたことがあったのですねぇ。この館内、ほんとうに落ち着くのですよね。その印象を30年以上経た今も残しているとは素敵ですね。
父は、細かいことは忘れちゃったよと言っていましたが、感慨深い様子で、にこやかに過ごしていました。心の旅、そうですね、そんなひと時を過ごすきっかけをプレゼントできていたらなって思います。
投稿: hysmrk | 2022-12-11 11:36