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2022-02-01

「気持ち悪さ」を原動力にする

カリフォルニア大学バークレー校教授の村山斉さんが著した「宇宙はなぜ美しいのか」という新書を、きわめて文学的に読んだ。最初からその気だったわけじゃない。単に私の「理科を読む力」が乏しかったからにすぎないのだが、結果的に「物理学者ってこんなふうに宇宙を探究するのかぁ」という心もようをたどる読み方になった(なので細かいことは理解できていない、流し読んだと言わざるを得ない…)。

いちばん面白かったのは、“物理学者を驚かせた「気持ちの悪い」観測結果”という一節だ(宇宙をたしなむ人には、よく知られたことなのだろうが)。

宇宙は膨張している。その膨張速度はずっと「減速している」と考えられてきた。その減速の度合いを調べる目的で観測をしてみたら、なんと70億年ほど前から「加速している」ことがわかって、びっくり!という話である。わかったのは1998年だから、たかだか20年ちょい前のこと。

138億年前のビッグバン直後、膨張速度が少しずつ減速していたことは観測で確かめられていた。ところが70億年ほど前から、それが加速に転じているとわかった。物理学者の間では、なんで、なんで?と相なった。ここに添えられた著者の例えが秀逸。

空に向かって投げ上げたボールが、最初は徐々に減速したのに、途中からスピードを上げたのと同じことです。そんなことが起きたら、誰でも「気持ち悪い」と思うはずです。

そう、この本は著者の持ち出す例えが、一般の人にもわかりやすいよう練りに練られていて、その手腕にも、いちいち脱帽なのだ。

で、これは物理学者にとってもひどく気持ちの悪い観測結果だったそうで、

膨張速度は宇宙にある物質の重力によって決まるはずなので、減速することはあっても加速することなど考えられません。それが事実ならば、重力で引っ張られるよりも大きな力で、何かが宇宙膨張を後押ししていることになります。その「何か」の正体はまだまったくわかっていませんが(続く)

なので加速がそのまま続くのかどうかもわからないし、途中で減速に転じる可能性もある。わからん。そこに物理学者は「気持ち悪さ」を感じる。「気持ち悪さ」を解消すべく、仮説を立てて実証しようとする。

この「気持ち悪さ」の対極に、物理学者の「美意識」が見出せる。表裏一体と言ってもいいかもしれない。

物理学者は、別々に考えられていたものが「同じ」であるとわかったとき、一種の美しさを感じる。「一つの法則でたくさんの事象を説明できる理論」「一見すると無関係に思える現象が同じ法則にしたがっているということ」を美しいと感じ、そうした統一理論を追究する。「できることなら自然界の森羅万象をたったひとつの統一理論で説明したいと願っている」と言う。

物理学者が「美しい」と感じるのは、「高い対称性」「簡潔さ(統一理論)」「自然さ(安定感)」。多少の差はあれども、人はその美意識を共有しているようにも思う。

カラー写真で彩られる宇宙の美しさもさることながら、この美意識を腹にもちながら、さまざまな事象に出くわしては「なんか気持ち悪いよね」と感じることが、創造的な活動の原動力になっている人の尊さに、感じ入ってしまう読書体験だった。

「気持ち悪い」「わからない」と思うだけで止まっちゃうのって、もったいないよなと思わせてくれる。もう少し解釈を広げてみるなら、一見「負の感情」に思えるような、落ち込んだり凹んだり傷ついたりなんだりも、自分なりの創造活動のエネルギーに転じていける、転じていきたいよなって思わせてくれる本で、ちょっと元気ない1月を過ごしていた中で元気をもらった。「なるほど、わからん」な、私の理科を読む力の著しい欠如も、別のものをつかむ原動力に転じたと言えよう。

*村山斉「宇宙はなぜ美しいのか 究極の「宇宙の法則」を目指して」(幻冬舎)

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