他との対比で浮き彫りにする「カオス」の像
私たちが生きる世界を「Cynefin Framework(クネヴィン・フレームワーク)」(*1)として示した図がある。Cynefinとはウェールズ語で「生息地」を表す。1999年にIBM Global ServicesのDave Snowden(デイヴ・スノーデン)が考案した、意思決定に活かすための状況分析フレームワークだとか。
私たちが生きる環境の性質を5つに区分して図示。真ん中に、
無秩序(Disorder)
があって、その周りを4区分して取り囲んでいる。時計と逆まわりで、右下から
単純(Simple)
煩雑(Complicated)
複雑(Complex)
混沌(Chaotic)
と段階的に複雑さが増していく図だ。
この図はDave Snowden "Cynefin Framework" の2011年版(Wikipediaより)で、一番最初の図。同氏はSimpleを2014年にObviousに、今はClearに更新している。とりあえずざっくり「単純明快」から始まるということだ。
直面する環境の複雑さが増すほど、その状況の予測やコントロールは難しくなる。当然それぞれの現場で、人が取るべき行動、意味をもつ活動、求められる発揮能力も違ってくる。これをフレームワーク化した。
以下は、これを教えてくれた鈴木則夫さん著作「人が成長するとは、どういうことか」(*2)を読んだときの個人的なメモと、Wikipediaなどの情報を合わせて整理した私のメモ書きだが、こうやって段階を追っていくと「カオス」って言葉の状態、そこを主戦場(生息地)とする人の手腕が意味深長さをもって迫ってくる。
1つ目はSimple / Obvious / Clear(単純明快)
ここは比較的安定した世界。発生する問題は因果関係が明快で、「こういう原因でこの問題が起きているから、こうすれば解決する」という枠組みを用意して、問題に対処できる。
すでにルールやマニュアルがある現場も多いし、無い場合も一旦ベストプラクティスを形にして、それを習得する教育の仕組みを作ってしまえば、あとは運用とアップデートでまわせる。
Simple(単純)の推奨行動はBest Practice、踏むステップはSense(気づく)→Categorize(分類する)→Respond(対処する)
一度マニュアル化してしまえば、それを成した人間はここに定住したがらない、飽きが来て2つ目以上の世界に移住したがるのが常だろうと思ったりする。無理やり留まらせようとすると会社辞めちゃったり、居眠りしちゃったり、凡ミス多発しちゃったり、元気なくしちゃったり。適材適所。
2つ目はComplicated(煩雑)
ここでは発生する問題が「複雑性」をもつ。まだある程度の安定性は保たれているが、「なんでそういう状況になっているかという原因が複雑で、いくつかの要因が絡み合っている」状況。
だから表面化・顕在化している現象の背景を探って、問題は「複合的な影響の結果」としてみて問題構造を分析する必要が出てくる。その上で、どういう解決策を講じたら効果的かも複数の解決策を並べて比較・検討して、取捨選択や組み合わせ技で実行する必要がある。
Complicated(煩雑)の推奨行動はGood Practice、踏むステップはSense(気づく)→Analyze(分析する)→Respond(対処する)
この時点で、求められる仕事力はけっこう難度が高まるよな。思考を巡らす面白さがあるとも言える。わりと多くの人が、この段階での仕事クリエイティビティは楽しめるのではなかろうか。
3つ目はComplex(複雑)
ここで上乗せされるのは「流動性」だ。2つ目の複雑性に加えて、常に新しい状況が現出してきて、想定外のこともあれこれ起こる変化が特徴的。腰を据えて状況を分析して「よし、これだ」と練りに練った策を講じたときには、すでに状況が変わっている。そういう能力の高さだけでは太刀打ちできない。
状況が刻々と変わり、想定外のことも起こる前提で、大きくはずさず問題の因果関係をつかんで、暫定的な計画を立てて行動を起こして、その反応を洞察して次の策に展開するという循環をまわせることの価値が高くなる。自身が打った策がどう影響を及ぼすかも冷静に観察しながら状況認識をアップデート&軌道修正をかけ、その変更を関係者とも認識合わせしながら推進していける力が求められる。
Complex(複雑)の推奨行動はEmergent Practice、踏むステップはProbe(調査する)→Sense(気づく)→Respond(対処する)
IT寄り業界、と言わず現代の多くの業界では、ここのプレイヤーが求められそう。一家に一台ならぬ、組織に1~2割ほしいところか。「でも、お高いんでしょ」レベルの、かなり仕事できるリーダーを想起する。頭いいだけじゃなくて、瞬発力も高く、実践経験が豊富で、いろんなタイプの人を懐柔する手腕も身につけている感じの。採用市場にそんなたくさんいないから、自社で育てる施策が必要か。
と長々書き連ねての4つ目がChaotic(混沌)
ここでは3つ目までの複雑性、流動性が極まった状況で「想定外のことが次々と発生」する。
その対処に忙殺されながらも、なお状況を俯瞰して効果的な対応策を構想できる力が価値をもつ。混沌とした状況に「秩序」を持ち込んで、3つ目のComplexなり、2つ目のComplicatedまでもっていって事態を鎮める、治める力が求められる。次を預かってマネジメントできる人たちに、しっかりバトンを渡すコミュニケーションも大事だろうな。
Chaotic(混沌)の推奨行動はNovel Practice、踏むステップはAct(行動する)→Sense(気づく)→Respond(対処する)
ここでの頭脳戦が好きな人には、安定運用の世界は退屈だろうなぁとも。
対処するために踏むべきステップは、状況の複雑さに応じて違ってくる。そして大ざっぱに言えば、今の世の中は至るところに混沌としていた局面があって、そうそう腰を落ち着けて解決策をあーだこーだ思案してはいられない状況にある。私の現場は世の中の片隅にあれども今、自分の中にもどかしさが募っている背景の一つが、これだ。問題がすごく複雑で、表層的・顕在化した状況だけを見て「こうだからこうすべき」と実効性を見込める策に進められない。最近そういう「もどかしい」「もがく」「もやり」と、心が「も」っている。
*1: Dave Snowden "Cynefin Framework" (Wikipedia)
*2: 鈴木則夫著「人が成長するとは、どういうことか」(日本能率協会マネジメントセンター)
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