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2021-05-27

地球の温暖化と、哲学の起こり

いま読んでいる出口治明さんの「哲学と宗教全史」が、実におもしろい。出口さんはライフネット生命保険の創業者、現在は立命館アジア太平洋大学の学長。「哲学史の研究者」然とした文章ではなく、哲学にも造詣が深い実業家の長老が語り聞かせてくれる物語のように読めて、ずっと哲学入門者な普通の企業人である私には、たいそう読みやすく意味深い一冊。

450ページくらいある分厚い本で、まだ4分の1しか読んでいないのだけど、哲学史の中でもとりわけ「紀元前」が好きな私は、今ちょうど楽しい真っただ中にいる。

この本は、西洋も東洋もひっくるめて書いてあるのが、ありがたい。「全史」といったって西洋哲学と東洋思想は分けて扱われたりするものだけど、この本は「ソクラテスよりも孔子のほうが80歳ちょい上の年長」みたいな話もあって、洋の東西を横断して哲学がどう起こってきたのか語り聞かせてくれるところが魅力的だ。

また哲学、宗教、当時の政治情勢もくみながら、どういう時代背景にあって、それがどう当時の哲学者や思想家に影響を与えたかに思いをはせ、想像を巡らせながら、読み解いていく文章も楽しい。

紀元前5世紀の前後というのは、著者いわく「草木が一斉に芽吹くように」知が爆誕した時期。それまでは長く、神話や伝説でとらえていた世界の成り立ちを、んなことあるかいな!と言ったかどうかはしらないが、この世界ってなんなんだろう、世界は何でできているのだろう?と、当時の人が論理的に考え出した。

それも洋の東西を問わず、ギリシャに始まって、ほぼ同じ時期にインドでも、中国でも、この動きがみられる。

アフリカから人類が世界各地に散らばって何万年も経ったところで、いっせいのせい!って声かけたみたいに、古代ギリシャでタレスが、インドでブッダが、中国で孔子が同時代に生まれて、紀元前5世紀あたりに集中して知を爆誕させる。

それがなんでかって、地球の温暖化に関係するという。紀元前5世紀の頃、地球の温暖化が始まる。あわせて、この頃までにちょうど鉄器が、世界中に普及していたのだという。鉄器というのは、つまり鉄製の農機具を手にしたということ。

この鉄製の農機具と、地球温暖化による太陽の恵みを受けて、このころ一気に

1. 農業の生産性が高まる
2. 人口が増える
3. 階級分化が激しくなって、貧富の差が拡がる
4. 金持ちは、使用人に農作業をやらせるようになる
5. 金持ちの家は、学者や芸術家のような人たちに食事を与えて遊ばせておくようになる
6. 知識人や芸術家が登場する

こうした流れが、紀元前5世紀の頃に、ギリシャでも中国でも「知の爆発」を起こしたという話だ。一大スペクタクル!

で実際、この紀元前5世紀のあたりにいろんな哲学者、思想家が確認されるので、気になる人たちをざっくり一覧にしてみた。以前から西洋と東洋を丸ごと並べて、生没年をグラフで見られる一覧が欲しかったのだ。没年齢もざっくり出してみた。

Photo_20210529130701

この表、せっせと数字を埋めて作っていくと、「デモクリトス、90歳ってあなた、いくらなんでも長生きしすぎじゃない?」とか、「っていうか、紀元前にして、この人たちの平均年齢71歳っていったい…」とか、いろいろ楽しい。

ちなみに、この表では一列10年単位でざっくり区切っちゃっているのだけど、同著によればプラトンはソクラテスが42歳のときに生まれ、アリストテレスはプラトンの43歳年下、こういう感覚をもてると、「ちょい上」の先輩って感じじゃないんだなぁとか、よりリアルに2者間の人間関係をイメージできて、これまた楽しい。

ヘーゲルが「弁証法」と名づけるよりずっと前、万物の根源は何だ?水か、火か、と言っている古代ギリシャで、エンペドクレスが「万物の根源は1つじゃなくて、火、空気、水、土の4元素からなる」とか弁証法やってのけているくだりとか、もう最高である。

シチリア島の彼が、「この4元素を愛が結合させ、憎が分離させる働きによって4元素は集合と離散を繰り返す」と言うのと、ほとんど時を同じくして、インドでアジタ・ケーサカンバリンが「地、水、火、風の4要素の離合集散によって説明する四元素還元説」を説き、中国でも「陰陽の交わりによって木・火・土・金・水の5元素が生まれ、この構成要素が同調・反撥しながら世界を循環させていく」とする陰陽五行説が台頭する。 一大スペクタクル!

科学はここから現代にいたるまでに目覚ましい発展をしてきているわけだけど、人が生きる上で大事な心のもちようについては、紀元前のうちに彼ら賢者が言葉を作って言い尽くしてくれていると思われてならない私には、実に味わい深い物語が詰まっている本。久しぶりにとっぷりとつかって読みたい。

*出口治明「哲学と宗教全史」(ダイヤモンド社)

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