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2021-05-18

元号、西暦より、その人の年齢で歴史を読む

昨日は、ひさびさに会社に出勤した。だだっ広い部屋をとって5人で2時間ミーティング。べらべらしゃべって話し合って、直接コミュニケーションとれるこぎみよさを満喫しつつ、声がかすれず最後までもったことにほっとしつつ。

その後も、あれこれの打合せやら、お久しぶりですーやら、べらべらしゃべって4時間くらいしゃべり続けていたが、夕刻まで声がもったことに感動すら覚えて帰途についた。

ここしばらく出勤もしていなかったし、私はオンラインミーティングも少ないので、発声する機会がほとんどなく、声帯がだいぶ弱っている感じ。店のレジとかで、ちょっと「ありがとうございます」と言おうとしても声がかすれてしまうとか、ラジオを聞いていて思わず声立てて笑いそうになるも声にならず、みたいな…。

それで、このままだとまずいなぁと思い、手元の本を声に出して読んでみることに。たまたま今読んでいるのが堀田善衞の「方丈記私記」*で、鴨長明の「方丈記」の引用も多いので、現代文と古文を行ったり来たりするのが変化に富んで好ましい。が、文庫本1ページも読むと声がかすれてくるのだった…。

この本、作家の堀田善衞が1971年に出した初エッセイで、著者が四半世紀前に体験した1945年3月10日の東京大空襲の日のことを、「方丈記」と重ね味わうように書いているもの。

鴨長明は、25歳で京都の大火災、28歳で大風、福原遷都、29~30歳のときに養和の大飢饉・悪疫流行、33歳で3か月にわたる連続大地震を経験し、この様子を58歳のときに「方丈記」としてまとめている。60歳目前というところで、自分がアラサーの頃に立て続けに体験した大事件の数々を思い起こし、ていねいに描写しているわけだ。

安元3年、治承4年、養和元年などと言われても、なかなかイメージが定まらず漠としてしまうんだけれど(歴史に弱いので…)、私のような「人」に関心が向く人間はとりわけ、元号や西暦ではなく、この人が何歳のときに、こういう事件を起きたのを、何歳のときどうとらえてそれを描写したのか、何を見出したのかという目線で書物を読むと、おもしろみが変わってくるものだなと思う。

もっと若い時分に気づいていればよかったのだけど、私はいい大人になってから、これに思い至った。紀元前の人物となると、なかなか年齢まではわからないところがあるけれど(実在した人物かどうかすら…)、年齢がわかっているかぎりは、この人はこれを言っているとき何歳なんだ?うぉー、私よりずっと年下じゃないか、とか、年齢を目盛りにして読むと、親近感が増して味わい深くなるのだった。

著者も、そのようなことを述べている。

おそらく私は鴨長明という人を、別して歴史的人物、歴史上の人物ーに違いもないのだがーと思っていない、あるいは歴史的人物として扱っていないということを意味するであろう。彼は、要するにいまも私に近く存在している作家である。私はそう思っている。

“歴史上の人物”とひとくくりにする紐をほどいて、現代にもごく身近に似たような人がいるかもしれないなどと思いめぐらせながら、その人を一人の人間として性格やら志しやら眼差しやら想像していくと、とても豊かに読める。

著者は、“歴史上の書物”めいた「方丈記」も、ルポルタージュのようだと言っている。

意外に精確にして徹底的な観察に基づいた、事実認識においてもプラグマティクなまでに卓抜な文章、ルポルタージュとしてもきわめて傑出したものであることに、思いあたった

また鴨長明を、こう評している。

この人は、何かがあると、ともあれ自分で見に出掛けて行く人である。いわば、きわめてプラクティカルな、観念性とは縁遠い人であり

京の大火事も、ある書物には数万人、「平家物語」には数千人の死者が出たと書いてあるが、鴨長明は数十人と書いていて、こちらのほうがきちんと現地取材をして冷静に述べている感がある、などと言っている。どの時代にも物語をつくる人もいれば、ルポルタージュをつくる人もいるとみたほうが自然である。

と、まだ読み途中なのに、なんとなくここまで走り書いてしまった。しばらくの間、これを読みながら5つの時代を行ったり来たりして、自分をほぐしたい。声帯も筋トレしたい…。

▼12世紀:鴨長明が「方丈記」に書く立て続けの災禍
1177年4月28日:京都の大火災[鴨長明25歳]
1180年4月:大風、6月の福原遷都[鴨長明28歳]
1181-1182年:養和の大飢饉・悪疫流行[鴨長明29-30歳]
1185年:3ヶ月にわたる連続大地震[鴨長明33歳]

▼1210年頃:鴨長明が「方丈記」を書く
1212年:四半世紀前を振り返り「方丈記」を書く[鴨長明58歳]

▼1945年:堀田善衞が「方丈記私記」に書く戦時下
1945年3月10日東京大空襲[堀田善衞27歳]

▼1970年頃:堀田善衞が「方丈記私記」を書く
1971年:四半世紀前を振り返り「方丈記私記」を書く[堀田善衞53歳?]

▼2021年:私が「方丈記私記」を読んでいるコロナ禍
2021年5月:「方丈記私記」を手にして読んでいる[私45歳]

*堀田善衞「方丈記私記」(ちくま文庫)

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