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2021-04-16

つまみとレバー、ひもの昭和

今40代の私の幼少期というと、昭和50年代。この頃は、まだ暮らしの中にボタンが少なかった。物心ついたくらいの私の家では、家電の調節ごとは大方つまみとレバーによってなされていた。

テレビのチャンネルまわしが代表例だ。テレビ本体の所まで歩いていって、画面の右上についたつまみをつかみ、がちゃがちゃ大きな音を立ててつまみを回していた。子どもがまわすには、親指と人差し指だけで事を成すのは困難で、いつも中指も参加させて3本指で握って回していた。

千葉では、1、3、4、6、8、10、12チャンがイキで、2、5、7、9、11チャンは映らなかった。9チャンとかでつまみを止めると、ジーっという音がして、ザーッという黒い画面が表示された。1チャンから8チャンにしたいときは、6チャンくらいで一休み入れて、つかみ直して8に合わせていた気がする。

洗濯機も、ガスコンロも、電子レンジも、全部つまみをまわして、加減やら時間やらをセットしていた。炊飯器は、たぶんレバーだったような。天井の電気は、ひもをひっぱって点灯→豆電球→消灯を切り替えていた。エレクトーンは、ストリングスの音を入れるのか入れないのか、フルートの音を入れるのか入れないのか、ONとOFFをレバーの上げ下げで切り替えていた。私はもっとボタンを押したかった。ボタンを求めていた。

そんな我が家にインターホンが導入されたときは、たいそう興奮した。家の建て替えに伴ってインターホンもついてきた次第なので、家が新築されたことがビッグな話なのだけど、私が新しいおうちに入って興奮した思い出と言えば初インターホンだ。

「インターホン押してくる!」と言って、いったん入ったおうちから表に出ていって、外の門のところからインターホンのボタンを押したときの快感。おー、もう、これで、ボタンを押したいときには心置きなく押す場所があるという充足感というか、すごいものを手に入れてしまったと気分が高揚したのを今でも覚えている。

もともとの家には確か、インターホンがついていなかった。昔は大人でも「ごめんくださーい」と門の手前から叫んだり、玄関の扉をノックして呼び出していた。私も小学1、2年くらいの頃は、友だちの家に遊びに行くと玄関の前に立って「○○ちゃーん、あそぼー」と大声はりあげて呼び出していた。昭和だ。

この頃に、おそらくラジカセやらゲームウォッチやらファミコンやらどんどこ家に入ってきて、私のボタン生活は一気に華やいだ。そこに突入する前までは、お菓子の缶についてくる梱包材のプチプチつぶしが極上の喜びだった。(私が触れる)世界にはボタンが本当に全然なかったのだ。

「ボタン押すのが好き」という感覚は、その後もけっこう長いこと、色濃く自分の中に残っていたように思う。平成も一桁くらいまでは「パソコンを使う仕事がしたい」「コンピューターを使う仕事に就きたい」という言い回しが、わりとよく聞かれたと思うけれど、私の中にいくらかあったそれは全く高尚さを欠いていて、「ボタンを押す仕事がしたい」ではなかったかと今にして思う。プログラミング楽しいとか、デジタル社会が到来するとか、工学的なり概念的なり社会的なりの意図をもっていたわけではなく、もっとフィジカルなものだったような。

なんで唐突にこんな話を?というのは、疲れた平日の晩につまみ読みしていた春風亭一之輔さんのエッセイまくらが来りて笛を吹くで、サザエさんて昔、日曜の晩だけじゃなくて火曜の晩もやってたよねって話を読んでのこと。

そうだった!そうだった!と興奮を覚えた勢いついで。オープニングは「まーどを開けーましょ、ルルール、呼んでみましょー、サザエさーん」、エンディングは「たらちゃん、ちょっとそれとってー、母さん、この味どうかしらー」。どうしても節を思い出せなくて、結局YouTubeで調べて聴いてみたら、ほんと押入れの奥のほうから記憶がずるずるずるーっと引っ張り出されて、そーだったーと心ふるえた。ちなみに、日曜のお隣りさんは小説家の伊佐坂さんだけど、火曜のお隣りさんは画家の浜さん。お隣さんのペットの犬はハチじゃなくてジュリー、三河屋さんは三郎さんじゃなくて三平さん。いやぁ、なんとなく違うよなぁってくらいの認識で、ずーっと見てたなぁ。懐かしい。ずいぶん遠くまで来たもんだ。

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