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2021-04-30

映画ポスター伝説の職人・檜垣紀六が語る

TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の特集コーナー「映画ポスター伝説の職人・檜垣紀六が語る~」が面白かった。デザインに通じた映画好きの方なら、めちゃめちゃ楽しめそう。私はどっちも素人だけど、平易な言葉で話してくれているし、玄人がきゃっきゃとおしゃべりしているのを聴くのが大好きなので、たまらなかった。

今はSpotifyでアーカイブが聴ける。登録とか無しで、このコーナーだけ切り出したのを聴けるので、ゴールデンウィーク中によろしければ。いつでもどこでも非同期で聴けるポッドキャスト、最高である。

映画ポスター伝説の職人・檜垣紀六が語る映画広告・ランボーの夕日は熱海だった?!その真相とは?

檜垣紀六(ひがき きろく)さんは映画デザイナー。「時計じかけのオレンジ」「燃えよドラゴン」「ダーティハリー」「ランボー」「ターミネーター」「ダイハード」「スーパーマン」「プリティ・ウーマン」「ゴジラ」「ルパン三世 カリオストロの城」など、誰もが知る名作映画の広告デザインを、洋画だけでも600点以上手がけてこられた今年81歳。昨年でデザイナー生活60年。30、40年じゃない、60年である。すごいっ。

このたび作品の数々をまとめ、自ら解説した『映画広告図案士 檜垣紀六 洋画デザインの軌跡』(*)が出版され、編集を担当した桜井雄一郎さんとともに番組にゲスト出演した。

「ランボー」のポスターで、マシンガンを持つシルベスタ・スタローンの背景の夕日は、檜垣さんが会社の社員旅行で熱海に行ったときに撮った写真だったという話に始まり。

Amazonにある「ランボー」のポスター画像

50分ほどのお話が頭からお尻まで、ものすごい楽しかった。柔和な語り口、ロジカルな分析と、分析に基づく創意工夫の種明かし。映画に造詣が深い宇多丸さんが手際よく話を引き出していくのも心地良い。

1枚の絵(ポスター)でどう劇場に誘うか、横並びで同時公開する映画とどう差別化するか。幼少期の戦艦大和、防空壕の話も出てくれば、スピルバーグ監督の先々のキャリアも見据えてデザインを考える話なども出てきて、いやぁなんかもうほんとに、この1本聴くだけで仕事人としての生きざまに敬服しちゃう。

制約ってどんな仕事にもありますけど、それを乗り越えていくのってけっこう楽しいですよ

って、にこやかにはさんでくるのも、60年やってきた人の言葉の力は、ちょっとありがたみが違う。

でも何より心に残ったのは、檜垣さんが終盤に口にした「ありがとうございます」と「ありがとね」って言葉だ。番組パーソナリティの宇多丸さんとは初対面だから、宇多丸さんの賞賛の言葉には「ありがとうございます」って、また本を一緒に作ってきた編集者の桜井さんの賞賛の言葉には「ありがとね」って返すんだけど、その声がすごーく染み入った。

褒め言葉って、受け取る側に立つと、照れが入ったり、お世辞だろうって思ったりで、せっかく相手が贈ってくれた言葉を真正面から受け取るのを拒んでしまう、はいはいって受け流しちゃったりする。でも自分が本当に気持ちをこめて、素晴らしいって思ったって気持ちを言葉にしてご本人に伝えたときのことを思い起こすと、こんなふうに正面から言葉を受けとめて「ありがとう」って言ってもらえるのが一番うれしいかもなぁって。

檜垣さんは、ものすごく正面から宇多丸さんや桜井さんの言葉を受け取って、ありがとうって言うんだ。その声が、ものすごく温もりがあって、いいんだなぁ。もちろん、この「ありがとう」は、宇多丸さんや桜井さんの言葉が、深い洞察と敬意に満ち満ちたメッセージだったからこそってものなんだけど。いやぁ、実に豊かなおしゃべりを聴かせてもらいました。

*檜垣 紀六 (著), 桜井 雄一郎 (著, 編集), 佐々木 淳 (著, 編集)「映画広告図案士 檜垣紀六 洋画デザインの軌跡: 題字・ポスター・チラシ・新聞広告 集成」(スティングレイ)

2021-04-28

YouTube「キャリアデザイン講座」第13回を公開(キャリアの市場価値)

勤め先のYouTube公式チャンネルで「キャリアデザイン講座」第13回を公開しました。今回のテーマは「キャリアの市場価値」について。

【クリエイターのためのキャリアデザイン講座13】(キャリアの市場価値)

いくら鮮明に自分のやりたいこと、できること、譲れないことを分析できても、それが労働市場で求められるものでなければ仕事として成立しない。ということで、市場価値の探り方などご紹介しています。ご興味ありましたら覗いてみてくださいませ。

なんというか、ここまで作ってきて改めて、台本づくりの奮闘に対して、絵づくりがひ弱すぎるなと痛感するわけですけれども、ともかくここまでやってきまして、次回で最終回とします。

「キャリアデザイン」という抽象度をテーマにずーっと続けていくことには意味を感じないので、これはこれでおしまいにして、また別のコンテンツづくりとか、組織内のナレッジマネジメント推進的なこと、会社内の編集業や構成作家的な役まわりを果たせるように縁の下で頑張りたいなと思います。今後とも、ごひいきに。

2021-04-16

つまみとレバー、ひもの昭和

今40代の私の幼少期というと、昭和50年代。この頃は、まだ暮らしの中にボタンが少なかった。物心ついたくらいの私の家では、家電の調節ごとは大方つまみとレバーによってなされていた。

テレビのチャンネルまわしが代表例だ。テレビ本体の所まで歩いていって、画面の右上についたつまみをつかみ、がちゃがちゃ大きな音を立ててつまみを回していた。子どもがまわすには、親指と人差し指だけで事を成すのは困難で、いつも中指も参加させて3本指で握って回していた。

千葉では、1、3、4、6、8、10、12チャンがイキで、2、5、7、9、11チャンは映らなかった。9チャンとかでつまみを止めると、ジーっという音がして、ザーッという黒い画面が表示された。1チャンから8チャンにしたいときは、6チャンくらいで一休み入れて、つかみ直して8に合わせていた気がする。

洗濯機も、ガスコンロも、電子レンジも、全部つまみをまわして、加減やら時間やらをセットしていた。炊飯器は、たぶんレバーだったような。天井の電気は、ひもをひっぱって点灯→豆電球→消灯を切り替えていた。エレクトーンは、ストリングスの音を入れるのか入れないのか、フルートの音を入れるのか入れないのか、ONとOFFをレバーの上げ下げで切り替えていた。私はもっとボタンを押したかった。ボタンを求めていた。

そんな我が家にインターホンが導入されたときは、たいそう興奮した。家の建て替えに伴ってインターホンもついてきた次第なので、家が新築されたことがビッグな話なのだけど、私が新しいおうちに入って興奮した思い出と言えば初インターホンだ。

「インターホン押してくる!」と言って、いったん入ったおうちから表に出ていって、外の門のところからインターホンのボタンを押したときの快感。おー、もう、これで、ボタンを押したいときには心置きなく押す場所があるという充足感というか、すごいものを手に入れてしまったと気分が高揚したのを今でも覚えている。

もともとの家には確か、インターホンがついていなかった。昔は大人でも「ごめんくださーい」と門の手前から叫んだり、玄関の扉をノックして呼び出していた。私も小学1、2年くらいの頃は、友だちの家に遊びに行くと玄関の前に立って「○○ちゃーん、あそぼー」と大声はりあげて呼び出していた。昭和だ。

この頃に、おそらくラジカセやらゲームウォッチやらファミコンやらどんどこ家に入ってきて、私のボタン生活は一気に華やいだ。そこに突入する前までは、お菓子の缶についてくる梱包材のプチプチつぶしが極上の喜びだった。(私が触れる)世界にはボタンが本当に全然なかったのだ。

「ボタン押すのが好き」という感覚は、その後もけっこう長いこと、色濃く自分の中に残っていたように思う。平成も一桁くらいまでは「パソコンを使う仕事がしたい」「コンピューターを使う仕事に就きたい」という言い回しが、わりとよく聞かれたと思うけれど、私の中にいくらかあったそれは全く高尚さを欠いていて、「ボタンを押す仕事がしたい」ではなかったかと今にして思う。プログラミング楽しいとか、デジタル社会が到来するとか、工学的なり概念的なり社会的なりの意図をもっていたわけではなく、もっとフィジカルなものだったような。

なんで唐突にこんな話を?というのは、疲れた平日の晩につまみ読みしていた春風亭一之輔さんのエッセイまくらが来りて笛を吹くで、サザエさんて昔、日曜の晩だけじゃなくて火曜の晩もやってたよねって話を読んでのこと。

そうだった!そうだった!と興奮を覚えた勢いついで。オープニングは「まーどを開けーましょ、ルルール、呼んでみましょー、サザエさーん」、エンディングは「たらちゃん、ちょっとそれとってー、母さん、この味どうかしらー」。どうしても節を思い出せなくて、結局YouTubeで調べて聴いてみたら、ほんと押入れの奥のほうから記憶がずるずるずるーっと引っ張り出されて、そーだったーと心ふるえた。ちなみに、日曜のお隣りさんは小説家の伊佐坂さんだけど、火曜のお隣りさんは画家の浜さん。お隣さんのペットの犬はハチじゃなくてジュリー、三河屋さんは三郎さんじゃなくて三平さん。いやぁ、なんとなく違うよなぁってくらいの認識で、ずーっと見てたなぁ。懐かしい。ずいぶん遠くまで来たもんだ。

2021-04-14

YouTube「キャリアデザイン講座」第12回を公開(キャリアの棚卸し)

勤め先のYouTube公式チャンネルで「キャリアデザイン講座」第12回を公開しました。今回のテーマは「キャリアの棚卸し」について。

【クリエイターのためのキャリアデザイン講座12】(キャリアの棚卸し)

自分の好きなこと、嫌いなこと、やりたいこと、やりたくないこと、得意なこと、苦手なこととかって、なかなかズバリとは言えないし、全容を把握しきれていないもの。また実際の自分というより、こうありたいという理想の自分像にゆがめられて認識しているケースも少なくありません。

そこで自分の実像に迫る自己分析アプローチとしてご紹介するのが、今回のキャリアの棚卸し。過去の自分の経験を振り返って、どんなときにどう思ったか、何を好み何を嫌ったか、何を楽しみ何にうんざりしたか、何を選んで何を選ばなかったか。何を身につけて、どんなふうに自分は変わったか。そうした自己理解を掘り下げていく段取りをご紹介しています。

会社で新卒5年目向けとか30歳向けとかでキャリア研修を行っている場合、キャリアの棚卸しがプログラムに組み込まれていたりするんじゃないかと思いますが、そういう機会なかったな、ちょっとここらで振り返ってみようかなという方は、転職するしないとかに関わらず、ぜひ活用いただければ幸いです。

ちなみに私は、キャリアカウンセラー資格をとるときに受講した講座の中で1回(20代半ば)、あと親会社主催でグループ各社の30歳社員を集めて行うキャリア研修みたいなので1回(30歳)、わりとがっつりやる機会がありました。個人的には去年も結果的に近いことをやった感あり(44歳)。それぞれに発見がありました。

が、真剣にやると疲れるし、やり始めるの億劫だし、時間もとるのは確か。会社の仲間でとか、同業者の寄り合いでとか、数人で集まって半強制的にやらねばな場を設えてやるのもありかと。ご興味あれば、ぜひ覗いてみてください。

中身はオーソドックスなキャリアデザインの基礎知識ですが、今の時代感をつかみながら、クリエイターの皆さんにできるだけ親しみやすく、1本10分程度で気軽に見られるものを念頭において作っています。2週間おきで更新していますので、どうぞ、ごひいきに。

2021-04-13

日常生活に変更を加える

4月に入って水泳を再開し、足元はニューバランスのスニーカーを常用しだし、食事は自炊を中心にし、ラジオは若干控えめ、ポッドキャスト番組を若干増し、本は仕事もの・エッセイ・自伝・小説と雑食して半月ほど過ぎた。あれこれ日常生活に変更を加えて歩みだした新年度。

キョンキョンが最近始めたポッドキャスト番組*で、ポール・ギャリコの「雪のひとひら」という小説の名を挙げているのを聴いて、興味をもって読んでみた。

擬人化された雪の誕生は、人が生まれる神秘と重なり合う。上空で雪が生まれて、ひとひらが地上へと一方向に向かって降りていく様子は、人が死に向かって直進しているのと重なる。でも、それが物語の始まりでもある。

そういえば人間は、こういう世界もイマジネーションを働かせて創作することができたんだったと、久しぶりに思い出させてもらったというかな。なんだかんだいって自分の想像領域、ずいぶんせせこましいことになっていたかもなぁと頭の中の境界線を融かしてもらった感じ。

この間、友人とのおしゃべりで、まりこさんは生きる意味をどうとらえているか聞いてみたいと言われて、マクロとミクロで率直に思っていることを話す機会があったんだけど、なんかシンクロニシティを感じたりもしたな。豊かなおしゃべりだった。さぁ新年度を歩もう。

*ホントのコイズミさん「#1本にわくわくした⻘春時代、時を経て今思うこと。」

2021-04-01

「Web系キャリア探訪」第29回、上司の器が規定するもの

インタビュアを担当しているWeb担当者Forumの連載「Web系キャリア探訪」第29回が公開されました。今回は、リーガルテック分野で急成長中のスタートアップ、LegalForceのマーケティング責任者、高品美紀さんを取材しました。

20代 キャリアに迷ったどうすべき?――急成長のスタートアップでマーケティング責任者の仕事観

マーケティング専任として入社して、わずか1年半の間に、マーケティング担当者が1名→10名に拡大、その責任者としてチームを率いています。

高品さんは30代で、たぶん私と一回りくらい年齢差あると思うんですが、なんともしっかりした歩みと志しで、以前ラジオで久米宏さんが言っていたけど「30過ぎたら関係ない」って、改めて本当だよなぁって思いました。

あと、なんとなく後引いたのが、社長から「上司の器がチームの成長上限」と言われているというお話。本編で述べたとおり、高品さんへの社長の期待が伝わってくるなぁというのが第一に思ったことなんだけど。おまけで考えたのが「上司の器が、部下個人の成長上限にならないようにマネジメントする」って上司の立ち回りも、けっこう大事かなぁなんて。チームの成長上限が、必ずしも部下個人の成長上限とイコールではないかとも、もにょっと考え転がしたりしました。

閑話休題、高品さんの今後のキャリアデザイン。自分で自分のキャリアの行く末を描くより、会社の成長に応えて自分のやるべきことをやっていくことで、自分の想像を超えたキャリアを実現したいというお考え、とっても素敵だなって思いました。ご興味ある方は、ぜひ読んでみてくださいませ。

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