期をまたぐ前に
この4月から、いちおう部署が変わることになっている。といっても事業部は同じだし、最小単位のグループも変わらない。「事業部」と「グループ」の間に挟まっている「部」というのが、この春に新設される事業推進部に変わるという次第で、体感する震度は1に満たない。
なんて書くと、組織改編しているのに自分の役割を見直そうとしない意識低い系社員に思われるかもしれないが、ちがうのだ。すでにこの一年でやってきた仕事の体感7〜8割が、所属グループの枠をはみ出した事業推進としかくくりようがない仕事領域で占められていたのだ。なので感覚的にはこれまでと地続きの期初を、明日迎えることになる。気がつけば、また春到来だ。
私はこの一年、会社の人と新たな仕事を始める入り口でよく、自分が役立てる能力は「国語力」だと冗談まじりに伝えていたのだが、この何か言っているようで何も言えていないワードが、わりとうまく働いてくれたかもなぁと振り返る。
しょっぱな相手が「ふはっ?」という顔をするのだけど、「とりあえず、この辺相談してみっかな」と相手がイメージする領域をわりと広くとれる。曖昧だけど間口の広い言葉を採用するのも、ときには有効なのだなぁと思い新たにする今日このごろだ。
言葉選びひとつで、相手のうちで引き出される考えや感情は多いに変わってくる。無意識に「これは違うな」と思われて、想起されない領域も作り出してしまう。言葉は人を規定する力をもっているし、潜在的な何かを人のうちから引き出す力ももっているので、よい加減の言葉を選ぶことには慎重を期したい。
そうして、相手が何かやりたいことなり解決したい問題を抱えていて、私がもたない専門性や考え・思いをもっているのを、対面して話を聴いて、引き出す。それを読み解いて構造だててシナリオだてて、前に推し進めたり、形に起こして皆で共有できるようにしたり、価値ある実体に変える。
そういう推進力ひっくるめて、私は国語力というか「編集力」を主力に働いている感覚があり、これの動力となっているのが気合いと献身。編集力と気合いと献身、これで自分が働いている感覚を覚えることが多い一年だった。
そうやって来るボール、来るボール、とにかく自分なりに知恵をしぼって丁寧に打ち返していると、人づてに仕事の依頼主が広がっていって、依頼主が広がると、扱うテーマも広がっていく。アウトプットとしてどういう形に落とし込むのか、スライド、提案書、記事原稿、スピーチ原稿、動画、ナレーション、デリバリーの方法もバラエティに富んでいく。
社内仕事をするようになってから、扱うテーマもずいぶんと広域になった。クライアント仕事をしていると、ある程度先方が依頼してくるテーマも特定分野に絞られるのが常だけど、会社であれこれの依頼に応えていくと、依頼主も上司の上司、隣りの部署、経営企画、経営者、親会社と広がっていくし、あわせて扱うテーマもマーケティング、事業戦略、会社のビジョン、SDGsなど、いろんなテーマに広がりを帯びていく。この広がっていく幅とスピードが、社内仕事ならではという気がする。
お客さん仕事で私にそんなことを頼んでくる人はいないし、私もお客さんの仕事でそんな専門外は預かれない。しかし社内のこととなると、とにかくやれるところまでやってみるということになる。いろんな領域がいい意味で見境なく、タッチャブルである。いちいち営業しなくても、いちいち契約しなくても、自分の仕事領域が広がる機会にありつけるというのは、ありがたい環境だ。
なんといっても、これまで触れていなかった領域の人の想いとか考えとか、見ている景色とか、こういう視点でものを見ているんだなぁとかいうのに、一人ひとり直接触れられるのがいい。いろんな人の頭の中、心の中にふれて、理解を深められたり、気持ちを寄せられるのが味わいぶかい。
理解が深まると、その人のためにどう自分が動けるか具体的に考えられる。気持ちを寄せられると、その人のために自分が動けるかぎり動きたいという動力を得る。考えたことを「こう考えてみたんですけど、どう思いますか」「そういうことじゃなくて、こういうことが求められていると私は思うんですが、どう思いますか」と、社内だとかなり率直に訊きやすいし、こっちが率直だと、向こうも率直になってくれて、そういうやりとりから信頼関係も、話の濃度も深まっていく。そうやって、その人の中にあるものを汲んで何かに展開していくのは、とても創造的な仕事だ。
一方で、それがやはり一つの小さな村の中の依頼主に限定しているという意識も、欠いてはならないなぁと思う。扱うテーマは多方面に広がれど、社外に目を向けてみれば、どの領域にもすごいレベルというのがあって、その外のレベルを自分のモノサシとしてもって、自分のパフォーマンスを絶対評価していかないと、実はなんでもない無価値な仕事をして自己満足している状態に陥りかねない。そこのところの基準をしっかり自分で洗練させながら、今はここでいろんなバッターボックスに立ってバットをふらせてもらえる機会を大事にして、楽しみながら、この一年もしっかり役立てるといいなと思う。
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