専門技能の高さをどうやって見抜くか問題
自分のチームに実務経験者を中途採用したいとして、選考を受けにきた人が特定の専門技能に長けているかどうかを、何によって明らかにできると思いますか。次から最もふさわしいものを一つ選んでください。
1.世の評判
2.実務経験年数
3.パフォーマンス
とあったら、どれを選ぶか。加えて、いま実際に選考を行っているとしたら、このうち何によって評価を行っているか。って尋ねたら、1〜3以外にあれやこれや出てくると思うので、そうとう荒削りの文章なのは初めに断っておくとして…。
1.世の評判
今どきはSNSなどのネットを駆使して特定分野の評判を得るのが容易になったし、探さずとも情報がなだれ込んでくるようになったが、そこで評判を作り出している人の多くは、その人と直接仕事をしたことがなかったりするから、表層的な評判を評価材料に用いるのは危なっかしい。
その分野で著書を持っているとか、ネット上で記事を書いたり講演したり活発に発信をしているとか、その界隈ではよく知られた名前だとしても、活動の活発さや業界の知名度が実質的な仕事の評価とリンクしているわけではない。
ネット上の発信、あるいは講演などの体外的活動には熱心だが、社内の評価はいまいちという人だっている。著書をもっていても、編集者や周囲のサポーターが泣きながら手直ししているケースもあれば、本人の手腕そのままに世には出ているものの実際ページをめくってみると目を覆いたくなる仕上がりの本も少なからずある。本のコンセプトに惹かれて手にしてみたものの中身が伴っていなさすぎて驚いたことも少なからずあった。それでもAmazonのレビューは★5つってこともあるので、私の評価の妥当性もどうみていいかにんともかんともだけど。
一方で、著作の中身の洗練さをもって、この人は間違いなく仕事がめちゃめちゃできる人だとうっとりしてしまうような人もあるし、著名かつ敏腕な熟達者ももちろんいる。しかし無名かつ敏腕な熟達者だっている(社内や、直接の顧客の評価がすこぶる高い)。
少なくとも著書の有る無し、世の知名度の高い低いと、仕事のできるできないは実質的なつながりをもたないと私は考えている。ちなみに、その人の知名度や人脈の広さこそが、わが社の欲するところなのだということであれば、また話は違ってくる。
2.経験年数
経験の長さで言えば、実務経験がゼロあるいは半年程度というよりは、3年とか5年あったほうが実務的な経験値は高いだろうという一旦の見立てに異論はない。けれど、職業上のスキルに関する研究では、仕事の
パフォーマンスと働いた年数の測定結果の間には、実質的な関係がない*
ことが明らかになっている。漫然と仕事経験を年数重ねただけではスキルは向上しない。高みを目指し、目標とフィードバックが組み込まれて高度に組織化された経験学習を積んでいかないことには、スキルは停滞するか衰退していくことさえ、ままある。
3.パフォーマンス
上記を踏まえると、そりゃあ、その専門的技能を発揮したパフォーマンスそのもので評価して採否を判断できれば、それに越したことはないという話になる。
けれど、実際のパフォーマンス、あるいはそれに限りなく近しいものを採用選考のプロセスに組み込めるのかというと、ここの難易度が高いのがパフォーマンス評価の、いけずなところだ。
例えば、長期におよぶ大規模なプロジェクトを、プロジェクトマネージャーとしてまわせるかどうかは、短い選考プロセスの中でパフォーマンスしてもらうわけにいかない。かといって選考プロセスを長引かせれば、優秀な人ほど愛想を尽かして別の企業に行ってしまうだろう。
とはいえ、現状がもし「実際のパフォーマンスレベルは、結局入社して一緒に仕事してみないとわからないからなぁ」にとどまって実質、中途採用の判断を経験年数や評判に頼っている職場があるとすれば、今よりは精度の高い選考の仕組みを企てうるんじゃないかという気がする。その人が今持っているパフォーマンス能力自体を評価する、あるいは経験は浅いが潜在能力の高い若手を検出して採用・育成する機会を創出する創意工夫。
手がけている会社は、んなのもうやっているよって話だとは思うんだけど、職種によってはそこまで手がまわっていない職場も多いんじゃないかなぁと推察。
私は採用支援の会社に身をおいていながら、実のところ採用ビジネスにはあまり興味がないのだけど(興味の軸は人材育成にある)、選考プロセスの適正化(現状の採用ミスマッチの解消、未経験者の就業機会の創出)という観点で創意工夫の余地を掘っていくテーマには、有意義さや面白みのようなものを感じる。そこら辺はちょっと掘り下げていきたいなぁと思った週末。
*ジョン・ハッティ、グレゴリー・イエーツ著「教育効果を可視化する学習科学」(北大路書房)
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