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2020-11-07

ガス抜きか、ストレッサーか

今年2月に叔父が亡くなったので、11月に入ったところで先週末、父に電話をかけた。前年に年賀状を出したのと同じ送り先に喪中はがきを送っていいか確認するためだ。

そこからあーだこーだ話が脱線するのはいつものことなのだけど、さまざまなループをくぐり抜けたところで、再び母が先立ってしまった話にたどり着く。父は言う。病気がわかって2ヶ月もしないうちに天国に行ってしまったと。私は天国だけど、あなたは天国には来られないからって母が言っているのだと。

そんなのは、父が勝手に作った母のセリフ、母はそんなこと言い遺してはいない。私は父の妄言を止めようとして、つい言葉が出る。

お母さんは、そんなこと言ってないでしょ。そんなの、自分で勝手に作ったお母さんの言葉じゃないの。

父は止まらない。いーや、涼しい顔して、さっさと風のように行っちゃって。

そんなふうに言い返してくるのを黙って聴いておれず、私はさらに突っかかる。お母さんはもっと生きたかったよ。もっと長く生きたかったんだよ。だから、泣いてたじゃない。

そう口にした途端、目頭が熱くなってくる。自分の発した言葉に泣かされる。人間て、そういうとこあるよなぁと思う。

あぁ、そんなことを父に言い放ちたいわけじゃないのだけどなぁ。これはもはや父の口癖。いつもはもっと穏やかに父の話を聴いて、気持ちを受け取ることに集中できるのに、今日の私はなんだ、体調が万全じゃないせいか。そんなことを思いながら黙る。

「あぁ、涙出てきたわ。おまえは○子(母の名)みたいな口をきくなぁ」と電話口で父が言う。そりゃあ娘だもの。

私は落ち着いた声で言い添える。「お母さんはそんなこと思ってないよ。自分がもっと生きたかった分、こっちにいる私たちに楽しく生きてほしいって思ってるよ、下ばっかり見てないでさ。お母さんは、そういう人だよ」と。

これだってずいぶんと勝手に、母の言葉を作り出している。父も私もどっこいどっこいなのだ。母が亡くなって10年近く経っても、こんなありさま。時々やってしまう。二人して母のことを想って、目に涙をためて、そらごとを口にして。

これは父と兄、父と妹との間ではしていなさそうな会話だ。兄と妹は聞き流せるのだろう。私はどうも時々、真正面から突撃してしまう。これが、いいことなのか悪いことなのか、父にとってガス抜きになっているのか、無用なストレスをかけているのか、よくわからない。

まぁそんなやりとりをしても、「それで、なんの電話だっけ?」と話は戻り、私がまた喪中はがきがどうだの、おせち料理は手配しただの、オレオレ詐欺に注意しろだの言って、父は「ありがとう。じゃーねー」と言って電話を切る。別れぎわが軽い挨拶なのがいい。つながり続けている確かさからくる軽い挨拶。

電話を切ると妹にLINEして、「お父さん気にしてたから、転送してもらった郵便届いたら、お父さんに無事届いたって連絡いれるんだよ」と一声かける。妹から「はいっ」と連絡が返ってきて、これで元気出るといいなぁと思う。

泣き虫と弱虫は別物。泣き虫なのは涙腺の、極めて身体的な問題だからいいんだ、弱虫じゃなきゃさ。そんな屁理屈を思いついて以来、自分が泣き虫なのは割り切って受け入れちゃってるんだけど、弱虫はしんどいので、やめときたい。

それで弱虫じゃなくする方法も考案したのだ。簡単じゃないけど単純な方法は、自分が守られる側ではなく、守る側に立つこと。弱虫のときは、どうも自分を前者と認識している甘えがあることに気づいたのだ。なので、この脳内転換をビシッと決めるだけで、わりといけるという解を見出したのだけど、時々よたついてしまう。

だけど、自分が強くなったり弱くなったり揺れ動くところには必ず、自分の大事にしたい人、大事にしたいことがあって、それのために強くなったり弱くなったりしているようなのだ。だから強さと弱さは表裏一体で、きっと心の持ちようで、大事にするって気持ちを強くもてば、もう少しよたつかずに強くなれそうな伸びしろは自分にもありそうなんである。

そっからだよな。そこに立ってからがほんとのスタートで、何が本当に大事にするってことになるのか。独りよがりでない、大事にするってことが、どんなことか、それを作り出したり探り当てたり見極めたり、それこそが本当に難しいところなんだ。まだまだ、先は長い。自分の会話がガス抜きとストレス、どっちに作用しているかも判断つかない未熟者の先は途方もなく長い。

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