「Web系キャリア探訪」第21回、事例からの学び方
インタビュアを担当しているWeb担当者Forumの連載「Web系キャリア探訪」第21回が公開されました。今回はマネックス証券で、ロボットアドバイザーなど個人投資家の支援ツールを開発しているマネックス・ラボ長、斎藤翔太さんを取材しました。
マネックス・ラボを率いる若手マネージャー。テレワーク時代の新しいマネージャーの役割を模索中
新卒で入社した証券会社を1年で退職し、勃興するソーシャルゲーム業界へ転職、3社目のマネックス証券でラボを率いる32歳。
最後の編集後記(二人の帰り道)にも書いたのですが、「それぞれのお客さんに合ったものを個別最適で提供したいという斎藤さんの思いを形にする上で、インターネットというフィールドは非常に相性がよかったのだろうなぁ」という印象が強く残りました。
また「外から日常的にどう学びを得るか」という観点で、ぜひ共有したいと思ったのは、次のくだり。
ゲームに限らず世の中に出ている他のサービスは、「なぜこういう仕組みになっているのか」、「なぜこの機能が追加されたのか」を、自分で仮説を立てて考えることをしていました
「換骨奪胎」みたいな感じで、他社事例から学ぶときって、何のエッセンスを取り出して、何は捨て去って、自分の手元でそれをどう咀嚼して取り入れるのかしっかり見定めて応用プロセスをデザインしていくことが必要不可欠、そのままスライドするように持ってきてもうまくいかないし血肉にもならない。
そう言われりゃ、そんなの当たり前ってたいていの人が思うわけだけど、そうした一手間かかる外部からのインプットをどれだけ当たり前のこととして習慣的にやり続けられるか、そして本質的にやり遂げられるかというのが至難の業な気がします。
今ものすごいお気に入りで読んでいるのが、村上春樹の「騎士団長殺し」なんですが、その上巻「第1部 顕れるイデア編」の中に、ちょっと重なるシーンがあります。
洋画を専門とする絵かきの主人公が、著名な日本画家が描いた絵を見ながら、そこに描かれた人物を自分の筆致でデッサンするシーンがあるのです。5人の人物、一人ひとりの表情を精密に読みとって描いていくのだけど、そこのくだりがなかなかの読みごたえ。
「日本画はもともと線が中心になっている絵画」で、「その表現法は立体性より平面性に傾いている」、「リアリティーよりも象徴性や記号性が重視される」と。
そのような視線で描かれた画面を、そのままいわゆる「洋画」の語法に移し替えるのは本来的に無理がある
と主人公。それでも何度かの試行錯誤の末に、それなりにうまくこなせるようになったというのだけど、そのためにはどういうプロセスが必要なのか。
そのような作業には「換骨奪胎」とまではいかずとも、自分なりに画面を解釈し「翻訳」することが必要とされるし、そのためには原画の中にある意図をまず把握しなくてはならない。言い換えるなら、私はーーあくまで多かれ少なかれではあるけれどーー雨田具彦という画家の視点を、あるいは人間のあり方を理解しなくてはならない。比喩的に言うなら、彼の履いている靴に自分の足を入れてみる必要がある。
「他社事例に学ぶ」みたいなシチュエーションにも同じようなことが言えて、つまり相当に綿密な、この丁寧なプロセスを踏んでこそ、よその事例から学び得るんだろうなって思うのです。日本画はこうなのに対して、洋画はこうっていうのをしっかり意識した上で、実際に手を動かして洋画としてその人物を成立させる試行錯誤が必要なのと同じように、よその事例はどうなのに対して、自分とこはこうであるっていうのをしっかり整理つけて、何をどう取り入れていくのか見定め、自分とこに有用な形にリデザインする。
こういう学び取り方を修練しないと、よその事例に学ぶことはできないし、逆にいえば、こういう学び方を修練すると、あらゆる外の事柄が学習教材になるとも言える。そんなことを、インタビューと小説とを重ね合わせながら、じんわり考えました。
話を今回のインタビューに戻して…、「入社したときは、ロボットアドバイザーやツールのアドバイス通りに購入して頂ければいいというサービスだとイメージしていたのですが、それだけではうまくいかない〜」というのも、すごくいい転職をしたってことだなぁと勝手に思いながら、お話を伺っていました。
「お客さん」と一括りにみていた像が、入社後に洞察を深めていく中で、もっとずっと多様な像として見えてきた。それによって、入社時点で思い描いていたより一層掘りがいのある、広がりのあるサービス開発に従事する可能性を帯びていったわけですよね。
ただ役立つツールを一方向に磨き上げて優秀な頭脳を提供していくって追求の仕方ではなくて、多様なユーザー像を視野におさめながら、彼・彼女たちの伴走者としてどう長く有効に関わっていけるのかを探求・模索していく、そういう仕事との巡り合いによって、斎藤さんがさらにパワーアップして、創造的に、楽しく仕事に励んでいるように感じられて、画面ごしながら素敵なインタビュー時間を過ごすことができました。
自分を1市民としてみても、提供されるサービス単体の価値だけではなくて、こういう「中の人」がいる企業と長くつきあっていきたいという感覚が、ここ10年くらいで高まっていっているように感じています。というわけで、ぜひ一息入れたいときなどに、上のリンクからインタビュー記事をご一読いただければ嬉しいです。
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