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2020-03-12

「電話職人」なラジオリスナー

TBSラジオで日曜の朝10時からやっている「安住紳一郎の日曜天国」では、毎回テーマを掲げてリスナーからのメッセージを受け付けているのだけど、その受付方法の一つに電話がある。

「電話番号は~」と案内するアシスタント中澤さんの声が聞こえてくると、電話口でオペレーターにメッセージを語り聞かせるリスナーの様子を思い浮かべようとするも、なかなかイメージが定まらず、しばし固まってしまうというのを、私はこれまで何度となくやってきた。

ラジオ番組でメッセージを受け付けるというと、昔の定番はハガキ、封書、FAXとか。これに代わって最近はメール、番組サイトの入力フォームから送るとかが主流だろうか。簡単なものなら、Twitterで番組指定のハッシュタグをつけて投稿してもらうなんてやり方もある。

けれども、電話というのは、なかなかすごい。

いや、リスナーとの電話のやりとりを軸に据えて、子ども電話相談室をやる番組なんかはあるし、番組の中でリスナーさんに電話をかけて番組ナビゲーターとやりとりすることなんかも、さして珍しくはないんだけれども。

そうではなくて、ここではあくまで、メッセージを受け付ける手段の一つとして電話もOKですよという話。番組放送中に裏でオペレーターさんが話を聴いて、聞かせどころがあれば採用して放送に乗せるということになる。

これも、歌のリクエストとか、何かに賛成か反対か、局側で用意した選択肢の中から何を選ぶか、その理由は?とかなら、話はわかる。

うまく要領を得た話をできなくても全然構わないから、今回のテーマにまつわるあなたの率直な声、悩みを聴かせてもらえませんか?と、そういう趣向のものであれば、それもわかる。

でも、安住さんの番組で受け付けるメッセージテーマは、そういう生やさしい?ものではないのだ。「外食の話」とか「成人式の思い出」とか「寒さと私」とか「小さな幸せ」とか「私のオシャレ」とか「忘れられない友達」とか、このお題でひとネタお願いしますという、ハガキ職人が腕をふるうタイプのやつなのだ。それでいて、あくまで市井の人として、ちょうどいいエピソードがあったのでお送りしました、という風情が必要だ。

自分が何者で、どんな場面設定で、どんなことが起きて、どんなオチで、というのを程よい分量で順序立て、物語性を磨き上げて。文章を書くときの推敲プロセスなしに口頭で話すなんて、私からすれば至難の技である。

いや実は昨日起こったことなんですがね、私は郊外で花屋を営んでおりまして、昨日の夕暮れどきに店先で常連客の女性が通りがかったところ、立ち話になったんですよ、それで…

なんて、いや、どこまで具体的にして、どこまですると冗長になるかとか、何を先に行って、何を後にもってくるかとか、どんな言葉を選んだら小気味よいかとか、そんなの頭の中だけでやって電話口で語り聞かせるの、難しすぎるだろう。

ハガキ職人ならぬ、電話職人みたいな語り聞かせる系の玄人も、ラジオリスナー界隈にはいらっしゃるのだろうか。

あるいは、電話を選ぶ人は、手元の紙でじっくり構成や言葉のチョイスを推敲した上で、よしっと気合を入れて電話をかけているのだろうか。

本番は安住さんがプロの技でうまく語り聞かせてくれるにしても、電話の時点であんまり冗長に、あるいは自分で笑っちゃいながら話しては、いくら話のタネが良くても採用されないだろう。語りの手腕が欠かせず、文章を送るよりずっと難易度が高く感じる。

電話口でしゃべれれば、別に放送に乗らなくても良くって、そこで局と直接コミュニケーションすることに価値ありって捉え方もあるのかな。ラジオ局側にしても、番組や局のファンづくりの一環として働くって見方があるのかもな。そういうことも大事ってことでなければ、けっこうな予算をとって電話オペレーターを雇って、そういう設備を整えたりしないよな。

それはそれとしても、では電話オペレーターなる人たちは、どこまでを役割として働いているのだろう。どんなふうに話を聴いて、どんなふうに書き留めて、どんなふうに番組スタッフのところまであがってくるのか。話されたままを、できるだけ忠実に記しているのか。要領を得ない話は、いくらか整理してブラッシュアップしたりするのか。

それにしたって、この手のネタ系のは、語りによってだいぶクオリティが変わってしまうから、もしかしてオペレーターの人がうまいこと、それとなく話を編集していたりして。あるいは、この情報を後にまわしてこれを落ちにしたら、これはいけるかも!みたいな話し合いをリスナーさんとして、じゃあそういう展開に書き換えて出しておきますねぇなんてのもありとか。この人の話はおもしろかった!みたいなオペレーターお薦め☆マークの欄とかもあったりしてとか。

って妄想が膨らむが、これまで電話で受け付けて採用されたメッセージってあるのかな。あるなら、その人はどんなネタを、どんな用意を事前にした上で電話をして、どんなふうにオペレーターの人に語り聞かせたのだろう。オペレーターの方はどんなふうに書き留めて番組制作側に伝えたんだろうなぁというのは、ちょっと気になるところだ。

採用されないまでも、この手のネタ系メッセージ募集で電話をかける人っているのかなぁというのは気になる。テーマによってはいるのかな。電話が一番ラク、話して伝えるのが一番自然に表現できるんだよねって人もいるんだろうけど。

書き表すのと、語り聞かせるのは、共通するところもありつつ全然ちがう能力を用いる感覚があって、電話でもメールでも受け付けますっていうのは、ちょっとした異種格闘技戦みたいだなぁと思う。

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