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2019-06-16

粗ではなく意図を探ること

とあるHR系のイベントで、「Newsweek」最新号のリーダー論に関する記事の紹介(*1) があった。「リーダー候補の8つの目標」というリストが興味深かったと言う。

その場で8つの目標を読み上げてくださったのだが、次のように始まる。

1. 毎週、最低3冊の本を読む努力をすること。1冊は伝記もの。1冊は小説や詩など。もう1冊は、あなたが何も知らない分野に関するものであること。
2. できるだけネットではなく紙に書かれた情報源を使うこと。新聞や雑誌、そして書籍などだ。タブレットやスマホなどから離れることは、記憶力や想像力を高める上で有効だ。
3. スマホの使用時間を1日20分以下にすること。意識を分散させてしまうデジタル端末から離れれば集中力を高めることができる。

8まで続くのだが、2で一線を引き、3でドン引いた。第一印象として抱いたのは、今どきデバイスの種類で情報の質の良し悪しを語るのって古くないか?だった。

この後にも、旅先として躊躇しがちな場所を年に2か所訪問するとか、仕事上の人的ネットワークは150人を維持とか、そのうち半分は年1で直接会うとか、最低30人の知人を新しく出会った人に紹介とか、6人の世代が異なるメンターを持てとか、8つの目標が続き、うひゃーと気圧された。

これを全部して成功したリーダーの研究実績が十分あるんだとしても、これをしないで失敗したリーダーの失敗実績はどれくらいあるんだろう…とか。過去の実績上は、それが言えたとしても、紙→デジタルに媒体が移行している現代において、今&これからの若い人たちにもそれが有効だと言うのは、なかなか微妙な提言なのではないか…とか。たたみかけるように反発の声が、私の脳内を駆け巡っていった。

が、待て、待てと。この教授が、どう言うことを言いたくて、結果この具体的なリストになったのかを深掘って、まずは全容を見てみようよと、脳内で別のほうから物言いがついた。

きっと、この8つの目標の根拠が、地の文には書かれているのだろう。根拠となっている情報が何なのかとか、そもそもこの教授が何を意図してこういう発信をしているのかを汲み取ること、そこを受け取ることこそが本質じゃないかと、私の中で私が私をたしなめる。粗ではなく、意図を探ること。

それで「Newsweek」を買ってみた(電子版はたいそう読みづらいが…)。地の文を読んでみると、この8つの目標が、こういう構造で提示されていることがわかる(表をクリック or タップすると読めます)。

8

つまり、「人間の脳がもつ弱点・欠点」は〜で、「放置すると懸念される問題」が〜なので、「リーダーとして克服すべき課題」は〜で、「処方箋」としては〜があります、というふうに、地の文が構成されている。その「処方箋」に基づいて、具体策として提示されたものが、最も目を引く中央においてある図版で、ちょっと眉唾感が漂う「リーダー候補の8つの目標」 なのである。

デバイス関連の話でいうと、私たち人間は新しい刺激に弱いので、スマホの新着メッセージやニュースのアラートなどに注意を奪われがち。一日の長い時間をスマホ接触にあてて、それが習慣化しちゃうと、まとまった時間にわたって集中力を維持することが難しくなり、仕事効率が落ち、大きな問題を解決したり、自分のポテンシャルを発揮したりするのが難しくなる。創造的な仕事は、集中力が持続した結果として生まれるものだから、集中力を低下させる習慣をもつのは回避すべきだと、そういう話のようである。

集中力を低下させない使い方ができれば、スマホの接触時間が一日20分を越えようと、まぁ問題はない、とも言えるのだろう。

人の話の粗探しに意識を奪われて、そこにエネルギーと時間を割いていくのではなくて、その人が何を意図してそれを発信しているのか、そこに力点を置いて向き合っていく基本姿勢を大事にしたいと反省した一件。

とかく、最終コーナーの具体策(ここで言う「リーダー候補の8つの目標」)だけが切り出されて目に飛び込んできやすい世の中では、発信する人の意図するところ、問題視していることは何で、その根拠は何で、だからどういう課題を提示しているのか、全容を丁寧に汲み取る姿勢を大事にしたいもの。

具体策だけ目に入ってきたとき、「私は今、一部だけを摂取していて、全容を捉えきれていない」と認識し、「全容を把握しにでかけていく」行動をとるのが大事な時代なのだ。そういうことをわきまえておかないと、危ない。あっち側に、魂を売り飛ばしてはいけないのだ。

あと、一番キャッチーな具体策は、有効性が人によりけりな気がするので、提示されるものを参考程度に受け取るのが良さそうだ。実際、この8つの目標を読んで全部やり出す人がいるとしたら、その真面目さゆえに窮屈な暮らしを営んで精神をつぶしてしまわないか心配になってしまう。とりあえずやってみる素直さは、それはそれでグッドなのかもしれないが、話半分に聞いて受け取り方を自分でコントロールしたり、具体策は自分で作り出すというスタンスもグッドだと思う。

リーダーシップに長けた人にこの話をしたら、このリストを守るより、意図を汲み取るとか、あなたが反省したことの方がリーダーに必要なことだよねと笑われた。まったくだ…と思った。

*1: 「Newsweek」(2019/6/18号)「特集:米ジョージタウン大学 世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」:29歳のときに「全米最高の教授」の1人に選ばれた気鋭の学者、米国ジョージタウン大学教授サム・ポトリッキオ(現在37歳)の講義を再現した記事

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