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2019-03-13

研修の時間配分「90/20/8」の法則

研修プログラムの時間割を考えるとき、「90/20/8」の法則というのが使えそうだ。「研修デザインハンドブック」というノウハウ本で紹介されているものなんだけど、なかなか実践的で面白い。研修に限らず、いろんな時間配分にも応用できそう。

一般に、研修の時間割が「教える側の都合」で組まれがちなところを突いている。

もちろん、参加者側の都合をまったく考えていない研修も、そうそうない。受講対象者が業務時間内に一堂に会せるのは水曜日の午前2時間だけとか、ひと月前から予告したとしても丸一日確保するのがせいぜいとか、時短勤務の人も参加できるように16時までに終えたいとか、実施時期や時間数を「参加者都合」で条件づけることは少なくないだろう。

ただ、「参加者の体があくかどうか」という最低限の条件ではなく、「参加者が集中して確かなインプットをして、研修で得たものを持ち帰って実務に活かせるかどうか」という実施効果に即した面で見直してみると、学習者中心設計には、まだ工夫の余地があるかもしれない。

例えば「10:00-16:00の、昼休憩を除いておおよそ5時間枠」で研修をやるとなったとき、教え手はどのように時間配分を考えるだろう。

この研修でまず教えなきゃいけない概念知識は、説明に2時間はかかる。そうすると10時に始めて12時までは講義をやるでしょ。昼休憩を1時間入れて、午後はグループワークで課題に取り組んでもらおう。そこで、午前中の講義の理解を深めてもらう。このワークショップを、発表やフィードバックも含めて、午後の3時間でやるイメージ。

そんなふうに、大まかな構成と時間配分を考えてブレイクダウンしていく人が多いのではないか。ここに潜む「教え手都合」を指摘し、「人間の脳がどう学習に対応するかの原理原則に基づいて時間配分を決定してい」くよう、先の本は提案している。

その原理原則を、まずは列挙しちゃうと、次の3つ。

●脳が集中をキープできるのは「90分」まで
●大人が記憶を保持しながら話を聞くことができるのは「20分」
●人間の脳は受け身な状態が「10分」続くと興味を失い始める

そこから導き出したのが「90/20/8」の法則である。上の原理原則を踏まえて、ではどうすればいいかを考えていくと、研修時間をこんな感じで組み立てたらどうかという提案が導き出される。

●脳が集中をキープできるのは「90分」まで
→90分ごとに10〜15分間の休憩を入れよう

●大人が記憶を保持しながら話を聞くことができるのは「20分」
→20分おきにペースを変えたり、明らかに異なった形式にしよう。例えば、この20分の間に話した重要な点を繰り返して確認し、長期記憶への移行を促すなど

●人間の脳は受け身な状態が「10分」続くと興味を失い始める
→情報提供(いわゆる講義)は、8分を一区切りとして話を組み立てよう。8分ごとに参加者が主体的に考えたり話したりする時間を設けるなど

厳密にやろうとして、講師のほうがガチガチに縛られた状態になっても良くないので、あくまで目安として、視点として取り入れればいい話だとは思う。

ただ、話し手は頭フル回転でしゃべっていたりするので、気がつくとあっという間に一人語りが10分、20分、30分続いてしまうことってある。そうなったとしても、自分はフル回転ってことだと、聞き手に退屈を与えている感覚をもちづらい。

が、話し手と聞き手では、まったく脳の状態が違う。聞き手に、自分(話し手)と同じ熱量&集中力をもって話を聞き続けなさいというのは、時間が長くなればなるほど酷な話。それはやる気の問題とか、努力すればとか、興味をもって聴けばとかいうことではなくて、人の脳の作り的に無理があるんだなって話にして、研修の構造を見直したほうが能率が良いのでは、という話である。

では、10分を超える一人語りは、聞き手の主体性をしぼませていく働きももつという認識をもって、研修時間の組み立てを再考してみたい。

とりあえず、10分話したくらいで、「参加者へのちょっとした問いかけを挟む」とか、「これまでのおさらいを挟んで一呼吸つく」という一工夫でも、取り入れるといいと思う。

全体の構造を見直すとすれば、ひとまとまりを90分枠として、オープニングに5分、クロージングに5分とり、残り80分。これをざっくり4等分して、各20分の構成を、

【導入ワーク】学習テーマに関連する、参加者のこれまでの経験や既有知識を振り返ってもらって共有するワークで足場づくり(20分)
【講義】過去の経験や既有知識に関連づけながら、新しい概念知識のインプット(20分)
【実践ワーク】新しい概念知識を活用して、実践的な課題に取り組んでもらう(20分)
【発表】演習の発表、質疑応答、講評(20分)

としてみるとか。もちろん、学習テーマやその複雑性、学習者のレベルやタイプによっても、何を何時間かけてどんなふうに学習してもらうと効果的かはまったく変わってくるので、上のようにきれいに20分でまとまったりはしないだろう。上のはあくまで一例に過ぎない。

でも例えば、これまでは「講義2時間でまるっとインプット、ワーク3時間でまるっとアウトプット」みたいに大雑把に区切っていたものを、もう少しテーマを小分けにしたり、基礎と応用でレベル分けして段階的に学べるようにするなどして、それを90分ごとに割り当てていくようにするとか、上のような原理原則を知ると、いろいろ構成・時間の組み方にも広がりやアイディアが出てくる。

「とにかく最初は講義。知らなきゃ始まらないことを講義して話しきって、もの考えさせるのはそれからだ」とかにこだわらないで、90/20/8の法則の揺さぶりを受けながら、話す順番とか、話すことの区切り方とか、講義と演習の組み合わせ方とか、レベルの段階分けとか、それぞれの時間配分とか、いろいろゆさゆさと再考してみると良さそう、という共有でした。

ご紹介の本は、中村 文子&ボブ・パイク共著「研修デザインハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター)。実践的なノウハウ本ゆえに、「言い切っちゃってるけど、常にこれが最適解というわけじゃないだろう」と思う記述もあるけれど、それゆえ具体的に「こういうやり方もあるんだな」と自分のやり方を見直すネタを拾えて、そういう使い方にとても有用な一冊。

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