お客2.0
先日「Designship」 という大規模なデザインカンファレンスがあったようで、私は参加していないのだけど、参加した友人知人のツイート・リツイート・いいねしたものが、開催当日Twitter上に流れてきた。そのうちの一つ、2日目のとりを務められた長谷川敦士さんの発言らしきツイートが目にとまった。
もはやデザインはデザイナーが完成形を出してるのではなく、そこにユーザーが参加することで完成する。by 長谷川さん
これを見て、最近自分の身近にあった出来事が、ふと思い浮かんだ。客先で打ち合わせしていたときのことだ。
そのクライアントさんには今、月1回ペースで半年ほど実施する社内勉強会を提供中。先方の業務パフォーマンス上の課題を整理して、ひと連なりの勉強会を企画し、そのテーマを専門とする外部の実践家を講師に招いて、一緒にカリキュラム設計・教材開発しながら勉強会を提供している只中にある。1回開くごとにクライアントとはミーティングの場を設け、今回の振り返りと、次回の構成を認識合わせする。
裏方を担当する私は、今回のレポートとあわせて、次回カリキュラムの構成を詳細項目まで出して文書にまとめ、その日の打ち合わせに臨んだ。次回の構成案には後半に、こちらの講師ではなく、先方社内の熟練社員が、自社で手がけた案件を事例として解説いただく時間枠を設けて、提示した。
前にクライアントから挙がっていたアイディアを取り入れたものではあるものの、「外部委託した研修や勉強会では、委託先(私)がコーディネートした外部講師がその場の指導役を預かりきるのが基本(責務)」と考えるのがクライアントの常なので、私はすこし前置きをして、先方社員を一部分のスピーカーにおいた構成意図を説明した。
「私の立場でこんなことを言うと、責任逃れのように聞こえてしまうかもしれないのですが、御社の求める内容を講師が単独で完璧にパッケージ化して教えきることが、最も実施効果を上げるとは言えないと考えているんです。外部講師の話を受けて、うちでは実際こういうふうにやっているとか、こういう事例があるとかいうふうに御社内の熟練者が話をひきついで展開していくことで、参加者の頭の中に自分の仕事に取り入れていくイメージが具体的に広がっていく、それによって知識定着や現場活用が促進される効果ってあると思うので、講師が全部話しきることを大前提とせずに、御社が直接話す場も設けて一緒に作っていったほうが有意義かなと思うのですが、いかがでしょうか…」
クライアントさんの中には、大きなジェスチャーでうんうんとうなずきながら聴いてくださる方もいれば、ふむーと深く考え込むようにして聴いておられる方もいた。私はしばし、向かい合う4人の発言を待った。自分の意見が絶対とも思わないし、お客さん次第である。
すると、ふむーと考えていた方が口を開いた。「でも、そういう時間は社内で完結して実施できるものって考えると、研修時間にそれをあてるのはもったいない。研修の場はやっぱり外部講師が話す時間枠として使って、社内の人間が話すのは別の機会を設けてやればいいんじゃないですかね」
それは一理ある。私は静かに、その意見をうなずいて聴いた。が、他の意見も出そうだったので、間をおいた。すると別の方が「でも、別に機会を設けて実際やりますかね?人集まりますかね」と声を発した。
私は、これを後押しする何かうまい例えがないかと考えながら、先方のやりとりを静かに見守った。「チャーシューは、チャーシューだけで食べるより、チャーシュー麺として一緒に食べたほうが、よりおいしく食せるのと同じように…」というのを思いついたが、なんだこの「なんにも同じじゃない」感は、と思って口をつぐんだ。言わなくて良かった…。
結局その場は「確かに」ということで落ち着いて、この勉強会の起案者の一人である先方の熟練社員さんが事例解説と、用意できれば自社で導入しているツールを使って、サンプルデータを扱いながら実演してくださることになった。こうやって一緒に作れるのは、すごく有意義な展開で、とっても嬉しい。
客の立場からすると、自分たちが前に立って話す時間枠が、外部委託した研修の中に入り込むというのは、その時間ぶんの講師料を無駄に払っているような感覚になるかもしれないし、まぁそこを減額してくれと言われたら、厳密にはそういうことになるのかもしれない。
でも、先方が話す時間枠が有効に作用するように、メインをはる外部講師も、裏方の私も最善を尽くして、その場を取り回すのだし、いずれにせよ、その辺りは構成を練るにあたって本質的な話ではないと思う。
研修をパッケージではなくソリューションと考えて、どう機能させるために、どういう構成がベストなのかを考えるのが基本だ。課題解決に対して、より効果的な骨組み・肉づけは何なのかを練るのが、カリキュラム構成でやる仕事。
なんて、あれこれ考えたことを、冒頭のツイートをみて思い出した次第。いわゆるユーザー体験のデザインに限らず、B2Bのビジネスシーンでも、ユーザーたるクライアントと一緒に作るって流れはあるよな、と。
最近「お客1.0」に対して「お客2.0」とは…いうのをぼんやり考えていて、それで引っかかったのもあるかもしれない。お客1.0は、売り手に「完成度の高いプロダクトの納品」を求める。サービスであっても、プロダクト的にパッケージ化された完成度の高さを求めるきらいがあるのではないか。その完成度の高さは、見方を変えれば汎用的で、画一的で、一様で、標準化された完成品かもしれない。
一方お客2.0は、自分(たち)の参画で、その意味も価値も増幅・拡張できるし、パーソナライズもできる、介入余地が残されたサービスの提供を求める。ただし客がひっちゃかめっちゃかしても、一定条件にそって使うかぎりは基本的価値は損なわれず、想定リスクも回避されるようになっている。そうした「うまくいく」サービスを高く評価する感じかなぁと。プロダクトより1レイヤー抽象度の高い品質保証を預かるような、1レイヤー下の創作プラットフォームを提供するような、そういうサービスをイメージ。
まぁ、もやんとしたイメージを書き起こしたにすぎないのだけど。自分を客の立場とみても、こびりついた「お客1.0」脳だけで性急に新しいサービスをみて「なんだ、お任せできないのか」と低評価を下したくないし、お客さんに対応する売り手の立場としても、従来型の「お客1.0」的な価値基準にとらわれず、本質的に効果的な方法は何なのかを軸において策を練りたい。
それが従来のものさしでみると、サービス提供側の手抜きのように思われる提案になることもあるだろうけど、できるだけ率直に自分の考えを伝えて、何が本質的な効き目をもつのか、お客さんとすり合わせていくコミュニケーションを大事にして仕事をしたいと思った。
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