読書メモ:「著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本」
これは買おう!と思っていた「著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本」*をご恵贈いただいてしまった。本の編集者が元上司なのだ。実際に手にとってみてもタイトルどおりにコンセプト立った良い本だと思ったし、クリエイター個々人が備えておくべき基礎知識だと思うので、私なりに本の中身と魅力を紹介してみます。自分は無問題という方も、部下や後輩にいいかも?ということで。
身近なところだと「フリー素材」の扱いとか。フリーといったって、なんでもかんでも無料で自由に使っていいわけじゃなくて、大方は使用許諾する範囲が設定されているから、それを守らないといけないよっていうのが具体的にどういうことかとか。主だったところだと、次のような制限があるなぁと読みながら整理。
●商用利用はNG
個人利用に限る。自社ビジネスの利用に限らず、デザイナーやライターとしてクライアントに制作物をおさめる場合も、お金を払って使ってねというもの
●使い方を制限
モデルの写真を何か特定の商品を試しているように見せて使ってはダメとか。あとはアダルト、公序良俗に反するものには使っちゃダメなど
●使用点数を制限
素材何個までは無料で使っていいというもの。何個を超えたら有料で使ってねというもの
●ロイヤリティフリー
最初に使用料を払うなどの使用許諾手続きをしたら、あとは何度でも使っていいよというもの
●ライツマネージド
使用媒体や期間を特定した使用許諾を受けたら、その範囲内で自由に使えるよというもの
結論、フリー素材を使うときは必ず利用規約を確認すること。
「あらゆる自由は制限の中に在る」という有名な言葉がありまして(今作った)、人間が認識しうる自由は常に何かしらの制限の中にあって、その不自由を知ってこそ自由を謳歌できるものだなぁなどと想いを馳せながら読みました。死という概念を知ってこその生を生き、使用制限を知ってこそフリー素材を活かせる私たち…。
さて、「転載」と「引用」の概念も、クリエイティブ職ならしっかり押さえておきたい基礎知識。
例えば、Webサイトやアプリのスクリーンショットとか、書籍の表紙や中身を撮影した写真をSNSにアップロードとかはよく見かける。けれど、こうした他媒体への「転載」は複製権を侵害しているので原則NG。でも、「引用」の範囲内ならOK。じゃあ、引用って何?どういう条件をクリアしたら引用扱いになるの?ということになる。
本を読みつつの私なりの整理だと、このあたりがポイントか。(以下は引用でも転載でもなく、読んで整理した個人的メモのつもり)
●引用部分と、オリジナルの文章を明確に区別してあるか(カギカッコとか斜体とかで)
●オリジナルの文章(主)と引用部分(従)の主従関係が逆転していないか(量的にも、質的にも)
●引用する必然性があるか(主となるオリジナルの文章を書くのに、そこを引用する必要が本当にある?必要最低限の量にとどめてある?)
●出典が明記されているか(タイトルとURL、著者と書籍名と出版社名など)
●引用部分を改変していないか(変えちゃだめ)
●そもそも公表された著作物か(メールとか手紙とかはそもそも未公表で対象外)
プレゼンや講演資料でも、出典名の抜け落ちなんかは結構ある。クリエイターとして人前で話すときに、他のクリエイターの権利を侵害するような落ち度は避けたいもの。「そんな法律知らなかった」もまずいし、「知っていたけど軽視してor不注意でやっちゃった」もまずい。どっちにしても、すごくまずい。
あと、街並みを撮った写真に道行く人が写り込んじゃったくらいは問題ないよね、ネットにあげても。も、ちょっと待った!人物が特定できる写真は肖像権を侵害する恐れがあるし、子どもの映り込みなんかは特に慎重に扱わないと大ごとになりかねない。写真だけじゃなくて、本人とわかる似顔絵も肖像権&著作権的にNGになる恐れがある。有名人だと、パブリシティ権も要配慮。
この辺も「法的にグレイでしょ」とか「みんなやってるでしょ」とかで軽視すると、静かにクリエイティブ職としての信用を失って、無言で周りから人と仕事が去っていくので自ら注意しておきたい職業倫理。
えー、じゃあフォントやレイアウト、配色に著作権はあるの?キャッチコピーは?写真のトレースは?Googleマップは自由に使っていいの?オープンソースは無料&自由なんでしょ?
などなどに一通り答えてくれる一冊。まえがきによると、イラストレーター、Webデザイナー、ブロガー、プログラマーあたりの職種の方を読者層にイメージしているもよう。章立ても「写真・イラスト・デザイン」「文章・コピー」「プログラマーコード・ライセンス」に分かれていて、ものすごく具体的で「あるある!」なシチュエーションを取り上げて、いいのか悪いのか、どういう著作権侵害の恐れがあるのか、実際どういう判例があるか、どう使えば侵害にあたらないのかなど、丁寧に解説されています。
クライアントさんから権利関係が怪しい素材を提供されて「これ使って」って言われたら、どう対応する?とかの実務ノウハウにも言及しているし、契約書や見積もりはどう作る?とかも解説とサンプルがそろっている。法的にどうこうだけじゃなくて、各社のサービスの利用規約上こういう制限がされていることがあるので注意!とかも記述あり。自分が権利を侵害されたときの対処法もあります。
こうした知識は、もっていないと悪意なく他人の著作権を侵害してしまうリスクがあり、訴えられれば損害賠償だったり、信用失墜だったり、会社やクライアントに大打撃を与えてしまう問題にも発展しうるから、職業上しっかり押さえておきたい基礎知識。
「現場あるある!」「そう、それどうなってるの?」な問いに対して2or4ページで答えていく構成なので、ざっと目を通した後は、都度「逆引き」的に使えそう。語り口も平易だし、かわいいイラストが随所に散りばめられているのも読みやすさを後押ししています。よろしければ手にとってみてくださいませ。
*: 木村 剛大 (共著、監修)、大串 肇、北村 崇、染谷 昌利、古賀 海人、齋木 弘樹、角田 綾佳(共著)、小関 匡 (編集)「著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本」(ボーンデジタル)
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