移行するのか、共存するのか
先日ここに書いた「働き方を考えるカンファレンス2018」では、スマイルズの遠山正道さんのお話も面白かった。
株式会社スマイルズは、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を運営する会社として知られるが、自社事業のほかコンサルティング&プロデュース、出資・インキュベートという形で、いろんな事業を手がけている。遠山さんは三菱商事の社内ベンチャーから同社を起こして独立、2000年の設立以来、代表取締役社長を務めている方。
今「Soup Stock Tokyo」は50数店あるらしいけれど、さらに店舗を倍増とかしていく気はさらさらないそうで、スタッフからもそうした声はあがらないという。2018年に2〜3店舗出す予定はあるものの、あくまで面白いパートナーや場所があれば出店するとのこと。「私、スープ売るために生まれてきたわけじゃないからね」と笑って話していらした。
こうした拡大路線に乗らない事業のあり方を私はすごく自然に感じるし、時代に合っている気もするのだけど、違和感なり「王道ではない」感覚を覚える層もある気がする。
バブル期と一線をひく、今のアラフォー世代以下にはわりと自然に感じられるのでは?とも思ったけど、はたして世代差なのか、あるいは業界によって差があるのか、大企業と中小企業に勤める人の価値観に違いがあるのか、そうした分かりやすい集団の考え方の違いとして分けられるものなのか、考えてみると、よくわからない。
スマイルズは他にもユニークな事業をいろいろ手がけていて、四国に出している「檸檬ホテル」は1日1組だけ泊める宿、「森岡書店」は1冊の本を売る5坪の本屋さんだとか。
規模が小さいほうがリスクが少なくて、いろいろチャレンジができる。チャレンジするとユニークなことができるので、その情報が遠くまで届く。それで、きちんと利益を出しているのだという。「森岡書店は、この間いちおう株主総会もやったんですよ、喫茶店で」と、壇上でにこやかに笑う。順調なので、この度エアコンを買ったのだとか。
大きな会社だと、どうしてもスケールさせたくなる。ユニークなチャレンジを許容できなくなる。100ブランドやるなら、大きな会社1社でやるより、小さな会社100社でやったほうがいいと説く。
スマイルズのあり方を「新しい」とするなら、これまで王道とされた「従来の」やり方や価値観は、今後廃れてゆくのか、それとも時代に適応しながら併存してゆくのか。
そもそも従来型って、なんだろうな。規模の拡大を狙うこと、売上や粗利、店舗数や販売エリア、販路の拡大を狙うこと。こうした拡大路線を、他の選択肢を検討する余地なく盲目的に狙うことだろうか。
時代が進んで、規模拡大の一択ではない、多様な狙いの置き方、ゴールの目指し方が台頭してきたってことか。事業をスケールさせずにチャレンジしやすい状態を維持して、ユニークな価値を社会に送り出すことに専念する、という企業としての立ち方が、この情報化社会には成り立ちやすくもなったし、ポピュラーにもなったということなのか。
背景として、人の暮らしぶりが豊かになって、人の幸せのあり方、事業を通じて追求したいことも多様になったって語れるものか。
そうして人の価値観が多様になったと考えるなら、事業をスケールさせようとすることでドライブがかかる人もいれば、ユニークな価値を生み出そうとすることに専念したい人もいるのでは。とすると、どっちを狙う組織もあったほうが豊かで、多様性ある社会ということになるんじゃないか。とすると、ここは一つ、移行ではなく共存の方向で、スケールさせたいもあり、スケールさせないもありってのがよろしいのでは。
例によって別にこれという結論のないメモなのだけど…、何か新しいものが出てきたとき、それが従来のものから移行していく流れにあるのか、共存していく流れにあるのか(なんて真っ只中ではわからないのが常なので)、早計に決めつけずに観察し続けたい。どちらに向かっているかというと、自由、合理化、多様化、個別化、いくつかキーワードになる道標はあると思うんだけど、新旧フラットに観察して、双方を尊重して、活かす道を探る受容性を大事にしたいところ。
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