「その仕事は自分の成長につながらないのでやりません」考
一般のクライアントからいただく研修案件だと、Web系の学習テーマを扱うことが多いのだけど、自社やグループ会社、あと友人知人の会社からもらう相談は、キャリア形成や若手育成に関するテーマのほうが多い。
ということで、とある案件の下調べがてら、新卒社員の育成とかメンター方面の本を数冊買ってきて読んでいるのだけど、そのうちの一冊がリクルートコミュニケーションエンジニアリングの船戸孝重氏、徳山求大氏の共著本「折れない新人の育て方 自分で動ける人材をつくる」(ダイヤモンド社)。
で、そこに出てくる話で、これはワークショップなどの意見交換ネタにいいんじゃないかと目に止まったのが、帯にもなっているこれ。
部下に仕事を頼んだら「嫌です。その仕事は自分の成長につながらないのでやりません」と返ってきました。どうする、なんて応える?
もちろん参加者をどう構成するかで、学びのほどは変わってくるんだけど、いろんな人の考えや仕事ぶりに触れられる問いかなぁと思う。酒の肴にして「自分だったら、どうします?」って話題にしてみるのも楽しそう。こういう意見交換で、淡々と神業を出してくる人っているしなぁ。
ちなみに、社内でワークショップ的にやってみようという場合は、自分のところの環境でありそうなシチュエーション、仕事内容を具体的に情報加えてお題を出すのをお勧めします(そういう前提情報がないと、深く思考を練ることができないので、なんとなくな考え方の交換に留まって中途半端に終わる可能性が高い)。
あと、そもそもそういう感じのことを言いそうな人は採用していないという会社は、もっと現実的に起こりそうなケースで意見交換したほうが有意義だと思う。
ちなみに、この本の中で紹介されたのは、こんなシチュエーションだ。
ある会社の営業セクションでのこと。営業部員の人事異動に伴い、顧客の担当替えが行われた。会議の席で、「Aさん、君はBさんから引き継いで、下期から大手のX社を担当してくれ。Bさんは新たにベンチャー系の中小企業を担当してほしい」と課長が指示した。すると、入社一年目のBさんは、「嫌です」と即答。課長が「何でだ?」と尋ねると、Bさんは悪びれることもなく答えた。「そのお客様を担当しても、私の成長につながらないからです」
これは実話で、当の上司は、あまりの驚きに声が出ず、二の句が継げなかったという。実際こういうシーンに突然直面した場合、すぐに気の利いた対応をするのは難しそうだ。
課長の立場で、人によってどんな展開が考えられるかなぁと、いろいろ考えてみた。
●絶句。静かに心のシャッターを下ろし、それ以降極力その人に関わらないようにして放置。頼みたかった仕事は別の人をアサイン
●激昂。怒りに身を任せて、つべこべ言わずにやれ!と怒鳴って従わせる
●情で押す。会社や世の中ってのはさ、自分がやりたくないことでもやらなきゃいけないこともあるしさ…と、会社や世の中を主語に説き伏せる
●論破。「おまえは自分の成長に何がつながって、何がつながらないかをすべて見通せているのか、じゃあ何はそれで何は一切成長につながらないか説明せよ、そう考える根拠も説明せよ」と理攻め・質問攻め。相手の死角や非合理的な信念をつき、息の根をとめる…
●淡々と事を進める。「じゃあ、やらなくてもいいから代案をくれるかな。この仕事を誰かがやらないと、うちもX社も困るのはわかるね。じゃあそれ、君じゃない誰がやるべきで、その根拠は何か、その人の了解と私の納得を得られるように論理立てて説明してくれるかな」など
自分がその人のメンターなりカウンセラーだったらどう関わるか考えてみると、やはりこの人の「成長志向」に機会を見出すのがいいか。そこに軸をたてて、まずはその人にとっての成長イメージを具体的に理解することに努め、そこから今回の仕事と、その成長イメージとの関連性を見いだして具体的に提示してあげられればベスト。
どうにもつながらなかった場合、それまでに聴かせてもらった話から他の機会を見出して、「この仕事を引き受ける」ことに「自分の成長につながらない無駄な仕事」以外の、どんなプラスの解釈がありうるかを一緒に考えて、思考を広げていく感じになるか。
(1)あなたは、どんな成長を希望しているのか
(2)どういう仕事だと、その成長につながって、どういう仕事だとつながらないと思うのか
(3)私は、あなたの望む成長に、今回の仕事経験がこういうふうに意味をもつと思うけど、それについてはどう思うか
(4)今は欲していないけど、経験を通じて得られれば、後から振り返って「やって良かった」と思えるタイプの成長もあるだろうし、あなたが今計画している成長ゴールと、その道筋だけにがんじがらめになるのはもったいないような気がするけど、それについてはどう思うか。そのゴールを急ぐ、あるいは経験の取捨選択にこだわる理由が何かあるのか
みたいな話をじっくり話しあってみて、一緒に考えの道筋を探っていく時間が大事な気がする。正解はない前提で。と、まぁいろいろ考えてみたけど、なかなか興味深い問いなので、とりあえず酒の肴にして話を聴いてみよう。
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