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2018-02-23

研修の効果測定やら評価やら

私はクライアントに研修を提供する仕事を生業にしているけれども、研修本番が終えた直後「終わったー」という開放感に包まれることは、あまりない。まれに講師を引き受けると本番直後の安堵感が半端ないのだけど、裏方稼業をしていると、研修後のレビューまでが一連なりになっていて、そこを終えるまではなかなか気が抜けない。

研修後は諸々の材料から一人レビューを行い、それをレポートにしてクライアントに提出、それをもって振り返りの打ち合わせをもち、客先から帰ってくると、その内容を整理、近い未来の私に引継メモを残す。そこから請求書の発行手続きを行い、これを終えたあたりで「ふぃー」と声がもれる。今週はそんな「ふぃー」が一つあって、会社のデスクで地味にゴールテープを切った。

研修後のレビュー工程は、プロジェクト初期の「ヒアリングして提案書を出すまで」と同じくらい、裏方にとっては勝負どころだ。適当にやろうと思えば、オーソドックスな受講アンケートをこしらえて、その回答結果を集計してレポート提出するのでも格好はつく。手を緩めようと思えばいくらでも緩められる中、どう品質にこだわれるかという点では、まず自分の態度を試されている気もして、気が引き締まる。

なんて言いながら、以前の私はわりと甘かった。イレギュラー対応はあれど多くの案件では、研修直後に受講アンケートをとって集計と考察をレポートするに留まり、アンケートで何を問うか検討するのも、たいていは教材開発するタイミングでやっていた。今も、作り込みを受注後にやるのに変わりはないし、受講アンケートに留まることも少なくない。

ただ近年は、提案を出す段階で「どう効果を測定するのか」の見通しを立てるように改めた。ゴール設定とあわせて、それをどう効果測定しうるか/すべきか考えて、言語化して提案書に書きこむ。当たり前っちゃー当たり前の話だし、提案書に書きこむ量だって、その時点ではあくまで方針の提示なので、たいした量ではない。だけど、提案段階でゴール設定と効果測定を関連づけて考える習慣の有無は、私にとって確かな変化だ。

また簡易な受講アンケートをとるにしても、中身を以前より吟味するようになった。少ない設問数に留めつつ、どういう観点をどういう言葉で問いかけ、回答コメントから何を読み取って、何を改善点として抽出し、どうレポートで考察・提案を述べるかは、いくらでも創意工夫の余地があるし、洞察力や表現力によってレポートの中身も受け取られ方も変わる。集計結果だけでなく、骨のある解釈や考察、実効性ある提案を、どう簡潔に提示できるか。途方なく上には上があるけれども、だからこそ頑張りどころである。

効果測定の方法も、いろいろ。「受講アンケート」で満足度や理解度、感想を問うオーソドックスなものもあれば、研修前・後の「パフォーマンステスト」を用意して、仮想案件で個々に成果物を作ってもらい、それを個別に評価して研修前後の能力変化と今後の課題や学習方法を、本人とマネージャー別個にレポート作ってフィードバックするガッツリ系もある。研修内容をどれくらい理解しているか、知識習得度を測る「筆記テスト」を作って採点し、結果をレポートすることもあるし、受講者のパフォーマンスや態度を観察して「所見レポート」をテキストに起こすこともある。へろへろになるけれど、ウケは良い。

何をどう測るべきか、どういうフィードバックをすれば、「やっておしまい」でなく、うまく現場にバトンを引き渡せるかは、その案件のゴール設定や学習テーマによっても変わるし、お客さんによっても効果検証にどれだけのコストを割くのが妥当かは判断が異なる。実際、効果検証や評価って仕込めば仕込んだだけ良いというものでもないし、テストなど開発して実施・評価するとなると、作る側もやる側もけっこうな工数をとられることになる。

そんな諸事情をまるっと受け止めて、案件ごとに最もいい按配の、ゴールと中身と効果測定を構造だてて提案し、その整合性を保って現場をチューニングしながら走り抜き、その一貫した目をもって評価や効果検証をし、次の課題設定を示す。そこを頑張るのが裏方の役目だなと思う。

研修や勉強会の類いは、しっかり目的・ゴールからブレイクダウンして中身を構造化して、評価フィードバックを入れて、現場の行動変容につなげようとすれば、ずいぶんと手間がかかる。勢いだけではできないし、いくら気概があっても実務エキスパートが本業と並行して仕組みづくるには負荷が高すぎる。結果、多くの社内外イベントは開催するまでがゴールとなり、何かを伝えた後、それを持ち帰ってどれだけ活かせるかは参加者次第ということになる。

そこのサポートこそ仲介者たる自分の役目で、意図する目的や設定したゴールに向けて、しっかり中身を構造だてて、言葉でこそ伝えるべきものは能率よく講義し、それを使った練習機会を作り、それを評価し、本人やマネージャー層にフィードバックして、現場での発揮、定着、応用につなげられるよう、裏で構造を練りあげて場をつくる。そこを頑張りたい。

という話を、先日のUX JAMのライトニングトーク「UXデザイナーのUXデザイン学習のデザイン」で、新年の抱負として話したのだった。

今回のお客さんの総括レポートには、今後どう研修内容を実務活用につなげていくかの方向づけやアイディアも書き込んで提出しておいて、振り返りの打ち合わせではその辺りも話しこんだ。

振りを受けて、お客さんも「来期の研修体系をどう見直すか」という研修話の枠を超えて、今回の研修をやりっぱなしにせず今後どう実務活用につなげていくか、どう自分たちが仕掛け・環境づくりをしていったらいいかみたいな話を展開していって、私もしゃべれるところをしゃべって補完して、良い話し合いの場になった。

新しいお客さんだと、しばらく話しこんだ後、我に返ったように「あぁ、すみません。社内会議につきあわせちゃったみたいで」と気を遣われたりするけれど、いやいや、すごく嬉しいし、そんなこと言われないくらいのパートナーになっていきたいなぁと思う。

最近少しずつ、お客さんとの関係性に広がりが出てきている気がする。新しいところでは「研修の講師は社内で立てられるのだけど、どう研修を体系化して中身を作っていったらいいかとか、それをどう効果検証して改善していったらいいかとかの相談にのってほしい」という純粋なコンサルティング案件も舞い込んできた。このご縁もすごくありがたく、試行錯誤しながら楽しんでやっている。

私のやる仕事は手仕事が多く、横展開して大規模に展開するインパクトはもてないけれど、こんなふうに型にとらわれないやり方や組み方を手作りして働いていけたらいいなと思う。

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