受託ビジネスの魅力 #websig
風邪っぴきでふらふらだったのだけど、以前より申し込んでいたWebSig会議にすごく行きたかったので、無理をおして参加。イベントタイトルは「2018年に向けたデジタル、Web受託企業の攻めどころ、守りどころ」。
2000年代のFlash全盛、Webプロダクションに有無を言わさぬ勢いがあった頃とは、明らかに時代が変わった感ある中、時代変化に応じて形を変えながら今なお発展し続ける10年、20年選手のWebプロダクションがある。こうした組織を率いてきた人たちのお話は、エネルギッシュで刺激的。どんなふうに、どんな想いで、というのを、すごく率直に、赤裸々に語ってくれて、興味深く拝聴した。
内容は、2011年と2017年を比べて案件タイプにどんな変化が見られるか(何が減って何が増えた?)とか、社内の職種構成がどう変わった?とか、制作に留まらぬ「戦略から」の仕事をどう実践しているかとか、どういうふうに契約・見積もりしているのかとか、若手育成、中堅育成、定年前のキャリア、女性の育休明けをどうするかなど、話は多岐にわたって時間ぎれ。
いくつかトピックスをメモに。
●ここ数年の案件の変化
中川さん(アンティー・ファクトリー)いわく、2010〜2011年あたりと、2016〜2017年を比較した案件の変化としては、2010年頃は「表現力を重視したリッチなプロモーションサイト制作」が多くて、Flash、動画、コピー開発、絵作り、インタラクティブ重視、SNS活用など、どうバズらせるかが花形だった。
一方、今はリブランディングして、Webサイトもちゃんと作り直しましょうみたいな案件が多いとか。大規模コーポレートサイトリニューアル、CMSを活用したオウンド運用など、クライアント側がしっかり腰をすえた予算を用意するようになったということかなと。
●市場動向を読んで、新しい領域に守備範囲を広げる
確かさのある成長分野には、人を採用して体制づくりしていく、こうして時代変化に対応している様子も窺えた。中川さん(アンティー・ファクトリー)が話していたことでは、ここ数年で映像ディレクターを1人採用したとか。で、クライアント先で「CMディレクターを採用したので、映像の仕事あったら声かけてください」って働きかけるそう。ちなみに、これを言うと今は十中八九、映像の仕事がとれるのだそうだ。阿部さん(ワンパク)も、映像の仕事は増えていて、Web制作とセットで、ブランドムービーなどをよく手がけていると話していた。
どこを広げて、どこには手を出さないかっていうのは、組織ごとに答えが違うと思うけど、アンティー・ファクトリーのように「1ストップでWeb制作全般、一通り引き受けます」という100人プロダクションとかだと、映像できる人を採るのは堅い選択だよなぁと思った。
あと、アンティー・ファクトリーがここ数年の変化として、純粋なコピーライターを採用したことを挙げていた。リブランディングという軸でWebサイトの大規模見直しをするような潮流から、コピー開発の力が大きな価値として評価されるようになってきているんだろう。
●広告代理店の仕事は、どこで誰が請けているんだろう
ちなみに今回の登壇者は大方、広告代理店を挟まずクライアントから直請けしていた。2011年は多少代理店仕事もあったけど、2017年はほぼほぼ直請けとか、代理店仕事はゼロになったとか。果たして今、広告代理店はどこに発注して、どこで誰がそれを請けているのだろうか。
私の周囲は広告代理店の仕事を請けている人ってあまりいないのだけど、代理店からの仕事も世の中にはたくさんあるに違いなく、そこのWebプロダクション事情も語られると、対比できて面白いのだろうなぁと思う。
登壇者の界隈で代理店仕事が減っていく背景としては、阿部さん(ワンパク)いわく、広告的なWeb制作だと、コンペで勝率2〜3割が普通では?4割だったらいいほう、とのこと。これでコンペ3〜4連敗すると、キャッシュフローが相当まずいことになって小さい会社は疲弊していく。それよりは同じWeb制作でもサービスに寄せて、腰をすえて成長させていくもののほうが良い。
クライアント直請けの仕事をしていくと、そっちが厚くなっていって、結果的に代理店仕事を請けられなくなっていくという流れもあるとは、村田さん(ソニックジャム)。
Webプロダクションによっては、チームで代理店に常駐するサービスを提供していたりするのだろうか。フリーランスで常駐している人はけっこういそう。代理店側で(系列グループ内での)内製化の動きもあるだろうし。最近は、どんなスタッフ構成比で対応しているのでしょうね。
クライアント側が、Web制作とか、広くはデジタルマーケティング領域を、どういう業態に発注しているのかも気になるところ。必ずしも広告代理店を挟まず、各パートナーを厳選して直接発注する企業って、中にキーマンがいないとそうならないと思うんだけど、何割くらいあるんだろう。1〜2割くらいか、それは増加傾向にあるのかどうなのか。それこそ、こちら側の頑張り次第か…。
●広告代理店抜きの受発注関係に、どうやって移行する?
それにしたって、広告代理店とやりとりしているクライアントに、いきなり営業かけて直請け体制に持ち込むのは難しいわけで、まずはしっかりWeb制作の実績を作って、エンドクライアントとの信頼関係を築く。そこで終わらせないで、一歩踏み出して直請けの流れに持っていくよう働きかけ続けるって開拓者精神が大事なんだろうなぁと、登壇者の熱量ある話を聴いていて思った。
阿部さん(ワンパク)が、戦略からやる必要性を骨のあるロジックをもって「ずっと言い続けてきた」という発信力ってすごく大事で、この言葉に宿る信念と力強さには心動かされるものがあった。そういう活動の地道な積み重ねによって、今のクライアントとの信頼関係を勝ち得てきたんだろうなぁと、この5年、10年の尺での確かな飛躍を感じて改めて敬服した。そうして多様なクライアントの実績が積み上がっていって、それがブランドになっていくんだろう。
●即戦力が採れない問題
Web制作会社が手がける領域を「戦略から」に上流化していくと、それができる即戦力は事業会社側でも欲しい人材とかぶり、取り合いになる。しかし上場している事業会社が提示するほどの給与額は、さすがに提示できない。
それで、ワンパクでは新卒を採用して育てるという選択に出た。といっても、ビジネス戦略のところから、クライアントに乗り込んでファシリテーションとかできるまで育てられるかっていうと、そりゃあ簡単じゃない。結果、大きな案件では役員クラス3人が担うことになり、スケールしない…と苦笑いしてお話しされていた。
でも、これはもしかすると、育てる期間をもう少し長期で捉えないと仕方ないって話かもしれない。阿部さん(ワンパク)もファシリテーションとかしているときは、おそらく20年以上のキャリアを総動員して、いわば総合格闘技しているような感じだろうし、そういう多様な蓄積をもってこそ成し得る仕事だろうな、とも。若手がそこを「やりたい」「できそう」と思うスタート地点に立つには、もう少し時間が必要なのかもしれない。
●受託ビジネスの魅力
あと思いついたこととしては、そもそもデザイナー、エンジニアといった、これまでとは異なる層にも、こちら業界に就職先として関心を向けてもらうことかなと。デジタルマーケティング周りの受託ビジネスならではの面白さを、どう伝えて、こっちに来てもらえるか、という切り口はあるかなと思った。
受託ビジネスって目立たない裏方なので、広告代理店でもないと、なかなか若い人に知られない&興味をもってもらえない働き方だけど、ここの立ち位置ならではの面白さってあるし、あぁ性に合うなぁっていう人も、そこそこいると思うんだよなぁ。
確かに、受託側から事業会社への転職話ってよく聞くけれど、出戻り組もいるって話は、村田さん(ソニックジャム)からも共有された。やっぱり受託のほうが、いろいろな案件に携われて性に合っているなとか、事業会社側に行ってできることが増えると思ったら、本人にとって「つまらない仕事」が思いのほか多かったとか、職場にデザインとか技術に詳しい人がいなくて、受託側なら隣の席の同僚に聞けばすぐ答えが返ってくるようなことがわからない、そこにやきもきして帰ってきたとかいう話が出ていた。
事業会社と同等にお金出せるように、どうステイタスを上げていくかって話は、長期的な課題としてあるとしても、もう少し手近なところで、受託ならではの環境・働き方の面白みが情報として発信されて、多様な専門職の中で味わえる化学反応とか、いろんな案件に携われて飽き性にはもってこいだとか、「作る」に照準をあわせて試行錯誤したり侃々諤々できる面白さとかが、熱をもって伝わるといいのかなぁなどと思った。
●私は受託の仕事が好き
私はWeb制作ではないんだけど、研修の受託ビジネスにずっと携わっていて、受託の働き方がすごく性に合うと思っている。
傭兵っぽさというか、手ぶら感というか。もちろん、いろんなツールは使っているんだけど、資本集約ではなく労働集約。基本は「中の人の腕」一本。それをクライアントに応じて個別最適化して価値化していく。自分たちの中から、どう価値を作りだしていけるか。製品ありきじゃない、箱物商売じゃない、手ぶらな状態で、人の内側から価値を創造していく感じが、なんだか好きだ。
※ちなみに私の傭兵像は、子供の頃に読んだ樹なつみの「OZ」のムトーで固定されており、だいぶ美しい感じに仕上がっております。
阿部さん(ワンパク)の話に、メソッド化する功罪(ノウハウをメソッド化して社内共有すると、案件ごとに最適化しないで、そのままメソッドを適用しちゃう負の面もあるという話)ってあったけど、ほんと受託ビジネスは、メソッド化しつつ、毎回それを疑ってかかって個別最適していくって両面を大事にする矛盾みたいなところがあって、そこも好きだ。
人間社会って矛盾を前提に成り立っているので、そこの矛盾を受け入れないほうが不自然で、そこを当たり前に許容して、メソッド化する基礎づくりと、案件ごとに個別最適の務めを果たしていくのと、両方走らせる感じが好き。すごく人間くさくて良いではないか。芯はどこにあって、どこははずさない、どこはこだわりなく変えてしまおうと分別することを、常に試されている感じ。よい、よい。
見ようによっちゃ、モノを抱え込むより、人のほうが柔軟性があって、変幻自在性が高い。時代変化に適応させるべく、どう自分たちの中身を変えていくかも一択ではなく、そこにもあの手この手と選択肢を作り出せる自在性がある。作っちゃった製品は、なかなか転用が難しかったりするけど、人は常に、いろんな方面に機会を見出して変われる可能性をもっている。そういうことを楽しめる若い人が、こういう働き方の魅力に触れる機会があったらいいんだろうか。伝えるのが難しいけど、一つにはそういうことを楽しんでいる人が、楽しんでるよーというのを生身の姿・声をもって伝えていくことなんだろうなと思う。
と、以上メモ書きでした。登壇者、主催者、参加者の皆さまに感謝。
途中でダメにならないように&人に風邪をうつさないように、マスクして言葉少なに終始省エネ状態だったけど、やっぱり行ってよかった。すごくいろんな実情や想いを聴かせてもらえて、それを受けて考える機会をもらえた。参加者も半分近く?が経営者で、濃厚な会だった。もっといろいろお話ししたかったなぁ。
ふらふらしながら電車に乗って帰宅。熱37度台で出かけたのに、帰ってきたら36度台に落ちていてほっと一息。一眠りすると35度台まで戻って、再び寝て今朝熱を測ってみたら、34度8分だった。下がりすぎだよ…。私、冬場は34度台をたたきだすのだった。一応、通常モードに戻ったということでいいのだろう、か。
« 組織のパフォーマンスが上がらない理由 | トップページ | スライド共有:クリエイティブの現場にひそむ、若手育成の落とし穴 »
« 組織のパフォーマンスが上がらない理由 | トップページ | スライド共有:クリエイティブの現場にひそむ、若手育成の落とし穴 »
コメント