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2016-06-07

IA Summit 2016 Redux in Tokyoの参加メモ

6/6の晩に「IA Summit 2016 Redux in Tokyo」に参加してきたメモ。

IA Summitは、毎年北米で開催されている情報アーキテクチャに関する国際会議。今年のテーマは「A Broader Panorama」で、米国アトランタで開催。毎年、年度末の慌ただしい3月に開催されているものだけど、今年は5月6~8日とゴールデンウィーク中で、日本からも10数名が参加。全体での参加者は548名。

※参考:IA Summit 2016のプログラム

パラレルセッション(3つのセッションが同時間帯に別室で並行開催される)で、全部で84名のスピーカー。ほかに36のポスター(展示)セッションあり。

以前は一部のセッションに手話通訳があったが、今年はrealtime captioning(指定サイト?にアクセスすると、リアルタイムに講演内容が記述されているのを読める)があったそう。聴覚障害者にかぎらず、英語が母国語じゃない人にもありがたい。国際カンファレンスだと、もはや一般的なのか、これから一般的になっていくのか。

昨日の報告会では、日本から参加された方々が、今年のトピックやキーワードに関連するセッションを紹介、その後Q&A、ディスカッションを経て懇親会という流れ。以下、だいぶ走り書き(あと、私の関心に偏った部分的なメモ)だけど、大変有意義だったので取り急ぎ。

●今年注目のトピック、キーワード
・ダイバーシティ、インクルージョン、アクセシビリティ、ヒューマニティ
・オントロジー
・タクソノミー、フォークソノミー
・パーソナライズ
・コンテンツ/コンテキスト
・プロジェクト設計、合意形成、チームマネジメント
・持続性、メンテナビリティ

●今年のJob Board(求人票)の特徴
こうした国際カンファレンスには、テーマに関連した求人票の掲載スペースがよく設けられており、それを毎年眺めていると、そのテーマ関連の求人動向を追えたりする。今年は「メタデータ」「タキソノミスト」などのキーワードが目立ったとか。米国はやはり、専門職の細分化が特徴的だなと感じる。

●コンセント 長谷川敦士さん 「IAを3レイヤーで捉える」
情報アーキテクチャの専門家として、国内の第一人者的な存在。冒頭で解説してくださったIA、IA Summitのカバー領域の解説が大変わかりやすかった。

IAで扱うテーマは、この3つで捉えることができる。
1.オントロジー(存在論)は、ものや概念の意味の定義。情報の一番プリミティブな領域。
2.それをどう分類するかとか構造化するかといった領域が、タクソノミー(分類学)。
3.それを人に伝えるためにどう表現するかといった領域、ふるまいのデザインが、コレオグラフィ(舞踏術)。

(長谷川さんはもっと精緻に、もっと分かりやすい言葉で説明していた…)

IA Summitは、この3レイヤーに、メタ的な「組織・倫理・価値観」を加えた4領域をカバーしている。また、これらをそれぞれ独立的に究めていくというよりは、これらを掛け算してIAを考えていこうというスタンスで開催されている感じだと、お話しされていた。

※参考:スライド写真

※参考:長谷川さんのレポート記事(underconcept)
IAS16_Reframe IA Workshop
IAS16_Day1
IAS16_Day2

●サントリーシステムテクノロジー 黒沢征佑喜さん 「答えは一つじゃない」
サントリーのインハウスのシステム会社に所属、Web部門でグローバル含めサントリーのサイトを運営する立場から。

面白く聴いたのは、タクソノミーのセッション参加を受け黒沢さんご自身が考えた、サントリーのサイトの商品分類で「ハイボール」はどこにあるかという話。

サントリー ホームページ

「ハイボール」はウイスキー部門が担当しており、その組織体制に基づいてサイト上では「ウイスキー」に分類されている。「チューハイ・カクテル」の方にはない。

しかし、例えばお酒の通販サイト「カクヤス」では、「ハイボール」を「チューハイ・カクテル・ハイボール」というカテゴリーに入れて販売しており、売りの現場と合っていない。

店頭の配置と合わせて分類したほうがユーザーが探しやすいのでは?と考えたが、サントリーのサイトで「チューハイ・カクテル」のほうにも「ハイボール」を入れるのは、継続的なサイト運用を考えると事業部門的に難しいとの判断あり。

それであればと、サイトのほうを「ウイスキー」→「ウイスキー・ハイボール」とラベリング変更する策を講じようかと考えている、といった話をされていた。

「組織の事業部門前提で分類するのはやめようよ、ユーザー視点で分類しようよ」というのは簡単だけど、組織的な視点でもって運用を考えたときに無理があるようであれば、そこを押し通すことにこだわり、その案が通らなければ立ち往生(会社はわかってくれない…と泣き寝入り)するのではなく、視野を広げて他にアプローチしやすい打開策を検討し、方向転換して再提案する実践例として興味深く拝聴した。

●ミツエーリンクス 前島大さん 「VRをどう活かすかは模索中か」
国内大手のWeb制作会社(現在従業員数は300~350名ほど)で、IAとして活動。ミツエーリンクスには、5年前にIAの専門部署ができたそう。

前島さんが参加されたセッションから「VRの進展が、どうIAに関わってくるか」を紹介。VRは、医療分野でのリハビリ、危険なタスクを学ぶレクチャー、ワークアウト、教育分野などで活用されており、活用分野が多様化している。

ユーザーのインターフェイスは必ずしもGUIでなくなる。ユーザーが、指なり腕なりで、欲しいものを引き寄せるような動きが出てくる。

とすると、デザイナーは、もっとフィジカルに(物理空間的に)UXデザインを考える必要が出てくる。

IAは、サイトのナビゲーション、サイトマップ、ワイヤーフレームなどの設計、ページやスクリーンという概念、四隅があるインターフェイスのデザイン、メニューの配置が、必ずしも絶対でない前提に立つ必要が出てくる。

事例として、エンタメソフトか何かを売るVR空間を、3次元で表現しながら「ページ」として見せているものを挙げて、これは「店舗」のように見せたほうがいいのかもしれないし、といった話があったそう。

私はこれを聴いて、「店舗を再現して3D空間を歩かせるって、セカンドライフ的に数年前に逆戻りするだけで進歩感ないよなぁ?」と思いながら聴いた。

もっと現実世界・物理空間から解放されて、脳内の動き、認知的な動きに直接接続するような新たなナビゲーションの仕方なり表現の仕方なりを、今後は追究していくんじゃないかなぁと、答えないくせに違和感だけは一丁前に感じた…(後で前島さんに伺ったら、必ずしも「3D店舗」表現が正しいという言い方でもなかったそう)。

だけど、今回のSummitでは多く「physical」(肉体的というよりは、物理空間的というニュアンス)というキーワードが聴かれたようで、後で長谷川さんや前島さんにもお話を伺ったのだけど、やっぱり何も触るものがなく、抽象的・概念的になるばかりだと、捉えどころを失ってしまうんだよね、という話に納得。

「それ」をみんなと、どう指さしながら共有して話すかとか、いろいろ見回しながら回遊するかとか、そういうことを考えてみると、3D表現じゃないにせよphysicalな手がかりは必要で、それを今後どう表していくべきかって難しいし、今まさに模索している最中なんだろうなぁと思った。

あるいは、人間自体が変態していって、physicalに認知したい人間は淘汰され、新しいタイプの人間の形態が出てくるのか…。

※参考:前島さんのレポート記事
IA Summit 2016 参加報告│ミツエーリンクス

●インフォバーン 井登友一さん 「建築設計と情報設計の親和性ありよう変化」
インフォバーン京都支社長の井登さん、お話しするポイントが面白くて、ぐいっと引き込まれた。

「Architecture & IA」というセッションで、「IA100人に訊きました」的なアンケート結果を発表していて、「IAを説明するときに、建築をメタファーとして使うか」という問いに、そうだと答えた人が3割を切っていたという話からスタート。

10年前とかだと、リアルな建築設計をメタファーとして、WebのIAを説明するのってすごくしっくりいく感じがあったけど、そのときの感覚と比べると確かに今って、当時の親和性の高さを感じないという話。確かに、と思った。

IAに期待される価値が変わっていっているということで、登壇者の発表の54スライド目の対比がキーワードとして興味深かった。

※参考:Jessica DuVerneay│Architecture & IA: Expanding the Metaphor

これと別に、タクソノミーに関して、Etsy(クラフトのC2Cサービス)の例を挙げたお話が面白かった。EtsyのようなDIY的なニッチな作り手・買い手が客相手だと、事業主側が中央集権的に、厳密に(漏れなく重複なく)情報を分類しようとするのではなくて、現場の実際の売られ方、買われ方からピンとくる分類で、柔軟に対応していくほうがいい。というので、Etsyはタクソノミーに完璧さを求めるのをやめたのだとか。

井登さんが「タクソノミーの民主化」と表現されていた。タクソノミーとフォークソノミーのいいとこどりするような考え方とか、コントロールするだけでなく受け容れていくinclusivenessという言葉も、今回のIA Summitのキーワードとしてよく聴かれたといった話もあり、興味深く聴いた。

※参考:井登さんのレポート記事
”IA Summit2016”出席なかばの所感(たぶん、前編)
”IA Summit2016”帰国前の所感(実質後編)
“IA Summit2016” 出席レポート丨インフォバーン総研

●まとめと感謝
登壇者のお話の後は、Q&Aのようなディスカッションのような時間に流れ、軽食をいただきながら参加者同士で談話。私は例によって…会場後方で数名の方と長く話しこむ感じになったけれど、いろいろとお話ができて、たいへん面白かった。ありがとうございました。

ずっと話をしていて、あまり食べられなかったけど、かわいらしいお食事も目で楽しませていただいた。サントリーさんには「ザ・プレミアム・モルツ」を提供いただいたそう。会費1000円で至れりつくせりのおもてなし。相変わらずコンセント河内尚子さんの、冒頭IA Summitの概要や雰囲気を紹介しつつの場づくりも素敵で、進行の中垣美香さんのマイクさばきも面白かった。登壇、運営、参加者の皆さまに感謝。ありがとうございました。

●おまけ「夜更けのAI話、3体とは何か」
あと、帰り際の立ち話で「AI」(人工知能)について話していて、「一人がたくさんのAIを所有する」って現実的じゃなくて、裏では複数とつながっていたとしても、一人の人間の窓口としては一つのAIに統合されるものじゃないかってな話が展開されて。

そこで私が思い出したのが、この間Amazonのジェフ・ベゾスが、人工知能は家庭に3つは必要になるって言っていた記事。3つが何かって話は記事に載っていなかったんだけど、それを読んだときに、3つって何かなぁって考えた。

私がイメージしたのは、「家事系/育児系/家計系」の3種とかかなぁ。あるいは、「体育会系(体力使う系のことを一手に引き受けてくれる)/頭脳派文化系(知識豊富で、いろいろ教えてくれる)/頭脳派理系(数字や金勘定に強く、賢い世渡り上手)」みたいなの?

だったんだけど、そういう話をしたら、「いやいや、そういう分類の仕方じゃなくてさー」と全然違う見解が出てきて、こういうの他の人がどんな発想するのか聞くの、面白いなぁと思った。たしか、「対自己(内面・内省的な相手)、対社会(父親っぽい存在)、対同士(兄弟っぽい存在)とか、そういう分け方するんじゃないかなぁみたいな話だったかな。とにかく全然違う分け方が出てきて面白かった。

そんなこんなで夜更けまで、小学生が夜祭りの後の別れ際にだらだらおしゃべりを続けるように、AI話に花が咲いて、なかなか楽しいしめくくりだった。

ちなみに、その記事はこちら。
人工知能アシスタント「Alexa」はAmazon第四の収益の柱になりうるーーベゾス氏が語る│THE BRIDGE

ベゾスの語ったのを要約すると、「世界は腐るほどの人工知能エージェントで溢れかえるようになると思う。さらに得意分野が出てくるようになると思っている。あらゆることを同じ人工知能に依頼するわけにはいかないから。賭けてもいい。平均的な世帯は3台使うようになる」という話。どんな未来になるのやら。

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