「デザイニングWebアクセシビリティ」の感想メモ
BAの太田良典さん、伊原力也さんが著した「デザイニングWebアクセシビリティ - アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ」、ご恵送いただいてからだいぶ日が経ってしまったのですが、大変良い&息の長い本だなと思ったので、遅ればせながら感想メモ。
印象を一文で表すと、アクセシビリティ本って感じじゃなく、実務者向けの「真っ当なWebサイトの作り方」が、プロジェクトの頭からお尻まで体系的に分かりやすくまとめられている本、という感じ。「本書の構成」に書かれている、
本書はアクセシビリティのガイドラインを解説した内容ではなく、サイトの制作プロセスに沿った実践的な内容となっています。それぞれのプロセスの概要と注意点、ユーザーにとって問題が起きるポイント、そして解決アプローチを紹介しています。
この通りなのですが、実務書の中には“コンセプト倒れ”していたり、“構成負け”していたりで、目次まではいいんだけど中身が伴っていない感を抱くものもあったりする中、この本は中身を読んでも、コンセプトがしっかり反映されていて大変読みごたえある本だなぁと思いました。
具体例がふんだんに挙げてあって、それも「現場あるある」感が満載。ネット黎明期から第一線で実践を積み上げてきたお二人ならでは。その「現場あるある」から、その際にどう太刀打ちしたらいいのかまで、奇をてらわず、実に真っ当なソリューションが分かりやすく示されていて、この丁寧な作り込みには脱帽。
構成も、実装フェイズに留まらず、「戦略策定」に始まり「要件定義」「ナビゲーション設計」「インタラクション設計」「システム設計」「コンテンツ設計」「ビジュアルデザイン」「実装」と網羅されていて、Webサイトを真っ当に作る上で、各フェイズで押さえるべき観点がワークフローに沿ってまとめられています。
また、それぞれの章は「概要と流れ」→「よく見られる問題」→「解決アプローチの例」と進み、これまた頭に入りやすいし、得たエッセンスを現場で持ち出しやすい。著者の知見や語り口をそのまま憑依させるようにして、クライアントに提示する自分の知見や語り口も拡げていける。
どう考えたらいいのか、どう対処したらいいのか、どういう小手先のテクニックは使わないほうがいいのか、それはなぜなのか、ロジカルで分かりやすい文章と、場面場面にフィットする図版がバランスよく展開されていて、300ページ近いボリュームながら(活字が苦手な私でも)読み進めるのが苦にならない。
考え方の指針が明快に示された後、脳裏に「例えば?」と浮かぶところには、たいてい気持ちよく「例えば…」と続いているのも、至れり尽くせり。なんだかべた褒めな感じで気持ち悪いかもしれませんが…、ほんとよくできた本だなぁと感服。
べた褒めだけで終わると、なんだか反発心をもたれそうでもったいないので、こういう人にはフィットしないかなというのを1つ挙げるとすれば、HTMLの知識がない方には分かりづらい本かなと思いました。その辺の基礎は習得した後に読んだほうが良い本だと思います。
あと最後に、ここまで自分が力入れて思っちゃう背景には、これを下支えしている日本語の美しさがあります。言葉選びや文章が真っ当で、スマート。
実務書系を読んでいて、途中で心折れる理由の一つは、誤脱字が多いとか、言葉のつながりがおかしくて何を言っているのかよくわからないとか、それで結局意味をなしていないどころか、誤解や混乱を生む内容になっているとかもあります。本でありながら、言葉選びや文章の品質がなおざりのケース。数十ページの中に50~60個の誤植を見つけたことも一度ではありません。
あんまり問題視されないので、「私の個人的な異常執着にすぎないのかも」とか「自分はメイン読者ターゲットじゃないため、その人たちほど中身に集中して読めていない」といった仮説を立ててバランスをとり、価値観を矯正しながら読むようにしていますが、なかなかけっこう精神が参るのです。
この本はそうした誤植がなく、言葉選びも的確で、話し運びもスムーズ、読んでいてつまずきがない。これは基本でありつつも、実にありがたい。
文字校正的には、これくらいしか今のところ気になったところなし。
P23:「知人に製品を勧めたり」→「~薦めたり」
P55:「130%程までしか拡大しか」→「130%程までしか拡大」
P76:「コンテンツと構造が合ってない」→「~合っていない」
P184:「セルを結合を解消した例」→「セルの結合を~」(2016.5.5追記)
先日ライティングのセミナーで登壇者が、「誤脱字があると、読者のテンションはダダ下がりする」という話をしていて、本当にそうなんだよなぁと思ったのですが、ほんとにそうなんだよなぁ。
この本の著者は、実務家として経験豊富なだけでなく、その要諦を読者層に分かりやすく伝えるという文章力の手腕が素晴らしい。事業者側、受託制作側の立場によらず、どちらの読者にも分かりやすく、実務に活かしやすいよう言葉や配慮が尽くされている点もいいなと思いました。
私は主に、デジタル×クリエイティブ系の実務者向けにオーダーメイドで研修プログラムを作る仕事をしていて、紙媒体専門でやってこられた方のWeb/デジタル化を図る研修プログラムを作る機会が結構あるのですが、これはそうした方々にもぜひお薦めしたい逸品。
この本を読んでいると、そうした方向けの研修での伝え方のアイディアもいろいろと浮かんできて、ちょいちょいノートに手が伸びてしまうので、結局まだ読了していないのですが…。でも、今お取引している企業さんにも、ぜひ継続学習の参考書籍として紹介したいですし、今作っている研修プログラムも、ここからの発想を取り入れながら設計してみようと思っています。というわけで、ものすごい役に立っています。料理でいったら舌鼓を打つ感じ。ほんと、いい本はいい。ありがたし。
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