遷宮20年おきの「技術継承説」
BtoB広告協会が主催する「BtoB企業におけるWeb人材の教育」というセミナーに参加した。といっても、急きょ大事な客先訪問の予定が入って、第3部のパネルディスカッションだけ拝聴したのだけど。
印象に残ったのが、伊勢神宮が20年おきに遷宮を行うのには「技能継承」の意味があるらしいという、イントリックスの気賀崇さん(モデレーター)のお話。帰って調べてみると、「国土交通白書 2014」中のコラムに、こんな記述が見つかった。
遷宮がなぜ20年に一度と定められたか、その理由には諸説ありますが、その説の一つに「技術継承説」があります。20年という期間は、当時の寿命でも2度は遷宮に携わることができ、初めて遷宮を経験する次世代の技術者へ技術を継承していくのに合理的であるという理由です。(*1)
これを知って、数年前ある企業から相談に呼ばれたときのことを思い出した。その相談ごとをそのままリアルに書くわけじゃないけど、ここ数年で類似の問題に直面した(直面している)企業は多いのではないかという想定で、私の妄想をたぶんに含んで仮想のお話を少し綴ってみる。
わが社は、インターネット黎明期にネット事業を立ち上げて、ここ十数年で急拡大した。前にWebサイトを全面リニューアルしたのは、もうだいぶ前のことで、その後はサービスを拡充したり、問題箇所を改修したりのプロジェクトを何年も重ねてきた。そのうちにWebサイトも事業もぐんぐん成長し、前に全面リニューアルしたときとは比べ物にならないほど大規模で複雑になった。
ふとサイト全体を見渡してみると、さまざまな要素のつけたしで、コンテンツの重複も見られれば、いらなくなったものの残骸もあちらこちらに。混沌としていて、何がどこにあるのやら、操作性にも一貫性がなく、ユーザーに使いづらさを強いてしまっている。
ここはいっちょ、しっかりと予算をとって、抜本的なサイトの作り直しにかかろうじゃないかという話になった。それで久方ぶりの全面リニューアルプロジェクトにとりかかったはいいが、前に全面リニューアルプロジェクトを推進した社員はもう残っておらず、今いる現場の社員はさほど大きくない拡充・改修プロジェクトしか経験していない。サイトも、前回リニューアル時とは比べ物にならないほど大きく複雑になっている。多くの既存顧客を抱えている状態なので、そちらの運用に支障をきたすことも決して許されない。あらゆる面で、全面リニューアルを完遂する難しさは、前回の比ではない。とはいえ、やらないわけにはいかないので、やると決済。予算もとったし、人員も割り当てた。それでしばらく現場に任せていたら、問題が水面下で膨らむだけ膨らんだ状態で、全然うまいこといっていないことが発覚。←今ここ。
こうした問題に多くの企業が直面した(している)とすれば、遷宮に学び、(20年単位というんじゃ長すぎるけれど)技能継承の観点から、サイト全面リニューアルプロジェクトの意義やタイミングを捉え直してみるのも面白いかもしれない。
中途採用で、その規模感のリニューアルプロジェクトを経験した・成功させたという人を採用すればうまくいくってものでもない。それよりは、全員が未経験のことに挑戦するのは避けられない前提で、組織でどう力をあわせて成し遂げるかって方向で考えたほうが、全うに策を講じられる気がする。プロジェクトを走らせながら、それを達成する力をつけていくほかない部分もたぶんにある、そういうもんだろうなと。
*1:「国土交通白書 2014」第I部 第2章 第3節内のコラム「式年遷宮に見る技術継承と技術者確保」より
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