人材開発から組織開発への一歩
2年ほど前から、ホールディングス傘下のグループ会社で「組織開発」に一歩ふみだす感じの仕事をさせてもらっている。私は通常のクライアント案件だと、社員研修を中心とした「人材開発」領域を提案・提供するのが常なんだけど、社内やグループ会社からの相談だと、直接の業務実績がなくても「この辺もイケんでしょ」的に普段の職務範囲を広げて仕事機会をもらえるのがありがたい。
組織からすれば、外部委託しなくて済むならコスト的にも助かるし、その経験をもって内部人材の能力アップが図れるなら、それに越したことはない。という意味で、サラリーマンは新しい領域への機会を得やすい身の上だと思うのだけど、何事もひとくくりには語れぬ世の中なので、ひとくくりには語らないほうがいいのかもしれない…。
とにかく、この件については私はどっぷりサラリーマン的美味しみをありがたく頂戴しており、組織開発寄りの仕事にチャレンジさせてもらっている(あくまで自分の中ではそういう認識という話だけど)。まだまだ端っこで局所的にサポートしているにすぎないけれど、現場に立って試行錯誤しながら、できることを増やしていっている。
そんな今さらだけど、つい最近「入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる」を読んで、これまで自分が「こうしたらいいんじゃないか」「ああしたらいいんじゃないか」と現場で試行錯誤しながら提案したり対処したりしてきたことが、人材開発から組織開発のほうへ広がっていっているのを事後的に確認した次第。 ちょっと改まって、これまでの現場経験と、その過程で考えたこと、今回得た知識体系を頭の中で関連づけて整理ができた。
個人的には、「知識習得→経験」の順で知識体系にならって実践するよりも、「経験→知識習得」の順でいくらかでも実践してから事後的に知識体系を整理するほうが、野生的で性に合っている気がする…。
以下は、先の書籍ベース(*1)で「組織開発」について整理したことの一部をメモがてら。
人材開発は「個人」の知識・スキル・態度変容に向き合うのに対して、組織開発は「個人」に留まらないいろんなレベルの諸課題に向き合う。組織開発の対象は、個人、個人対個人、部署内・部門内、部署間・部門間、組織全体のシステムと、必要に応じ組織内の多様なレベルに働きかける。
諸課題を、組織のマネジメント課題6つに分けて考えてみると。
- 目的・戦略…
目的・戦略・理念の立案→明確化→浸透
- 構造…
仕事の分類、部門・部署の構成、人の配置、役割の割り当て
- 業務の手順・技術…
業務の手順化→明確化→共有、効率的な技術の採用、業務プロセスの改善
- 制度(施策)…
人のモチベーションアップやキャリア発達のための制度構築、施策実行(評価制度・報酬制度・目標管理・キャリア開発・メンタルヘルスなど)
- 人(タレント)…
個人の能力、スキル、リーダーシップ、意識やモチベーション、感情や満足度(適切な人を採用し、能力を高め、リーダーとして養成する)
- 関係性…
部署内のコミュニケーションの仕方・お互いの協働性やチームワーク・リーダーシップのありよう、部署間のコミュニケーションの仕方や連携、組織の文化や風土
マネジメント課題というと、ハードな側面(上4つ)に目が向けられがちだけど、ソフトな側面(下2つ)も結果の質に影響を及ぼす。
コミュニケーションが不活性なら、会議に出てくるアイディアの数も少なくなるし、モチベーションが高い低いで真逆の判断を導くこともあるし、結論を先延ばしにすることにもなる。チームワークの良し悪しで仕事効率は大いに影響を受け、かかる時間・期間も大きく変わってくる。
ハードな側面(コンテント)も大事だけど、ソフトな側面(プロセス)も軽視してはダメ。 「お互いの関係性が企業の成果や収益に影響する」ことを認識して対処することが重要。組織開発は、ハードな側面を無視したり軽視するものでもなく、ハードな側面もソフトな側面も6点包括して、ハードとソフトの同時最適解を探る。このように、働きかける「対象」、取り組む「課題」を捉えるなら、人材開発は組織開発に内包されると言える。
組織を相手にして問題解決に関わっていくと、「個人」への短期的な介入策だけでは解決に至らない領域を必ず確認することになる。「個人の能力・スキル・態度変容」だけでは終わらないケースに直面する。クライアント主体でその問題解決にあたっていくのは当然なのだけど、自分の仕事として、もう一歩深く掘り下げて、中長期的に、組織の内側から、広範囲を扱って変わっていくのをサポートするのは、独特の有意義さがある。
学ばないと伸びないし、やらないと伸びない。きちんとインプットして、しっかりアウトプットして、自分が力になれることを増やしていきたい。そうして組織開発に及ぶところでももっと豊かな経験を積めれば、一般のクライアント案件でできることも増やしていけるだろう。それが人材開発の案件でも、見える視界、捉えられる課題、提案・提供できることの厚みは変わっていくはず、という希望的観測。
*1:中村 和彦「入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる」(光文社新書)
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