言葉による制限のくくり方
私が通っているフィットネスクラブは、携帯電話やスマホの利用場所をフロントに限定している。ジムやプール、お風呂はもちろんのこと、パウダールームや更衣室もダメよということになっており、ちょいちょい館内放送でも案内が流れている。
パウダールームには「ロッカー内での携帯電話のご利用はご遠慮下さい」という貼り紙がしてある。先日ドライヤーをかけながら、その貼り紙をぼーっと見ていて思った。なんとなくこのメッセージ、一昔前っぽさがあるなと。厳密にはいい得ていない感も漂うなと。じゃあ、どうしようか。
まず「携帯電話」というのが昔っぽいのかなと思い、「携帯電話やスマートフォン」に変えてみる。タブレットはどうしよう?電話機能がないWifiモデルだったらいいのかしら、いやカメラ機能があればNGでしょう。しかし「携帯電話やスマートフォン、タブレットを」となると野暮ったい。
デバイスで示すより、機能で表したほうがシンプルかつ適切に言い表せるのでは。「電話やカメラ機能をもった電子機器のご利用はご遠慮ください」って、やっぱり野暮ったい。それに厳密さを追い出すと、ぱっと見でわかりづらくなるのも難。2015年現在だと「携帯電話やスマートフォン」あたりが現実的な落とし所なのだろうか。
続いて気になるのが「ご利用」だ。実際にはパウダールームの場合、けっこうあられもない姿で鏡の前に座っている人も少なくないので、持ち込む時点でNGの感がある。「お持ち込みはご遠慮ください」のほうが適切ではなかろうか。
電車とかだと、持ち込みNGっていうのは無理な話で、電話機能の利用制限あたりが妥当だろうけれど、温泉施設やフィットネスクラブの更衣室なんかだと、「利用」よりもう少し範囲を拡大して「持ち込み」NGのほうが妥当だろう。
「機能」で制限するのか「物体」で制限するのか。「利用」で制限するのか「持ち込み」で制限するのか。「機能」はどこまでを制限して「物体」を何と指し示すのか。絶対的な悪というのは早々ないので、その場所・相手、その文脈において妥当な制限のくくり方を、言葉に展開しないといけない。
現実世界のあれこれが細分化・複雑化してくると、厳密かつ分かりやすい言い回しはけっこう難しい。それに、時が流れると妥当だった表現もそうでなくなるから、言葉のメンテナンスも大事だなと、ドライヤーをぶおんぶおんさせながら思った。
「インターネット利用」を制限するなどは、今やくくり方として雑すぎる場がほとんどだろう。あまりに日常インフラ化しているので、そこ制限しちゃうと影響範囲が大きすぎる。じゃあ、その上のどの階層まで引き上げて何の行為を制限するのかしないのか、慎重に階層と範囲を判断する必要がある。
言い回しも、常に厳密性が重視されるわけじゃなく、ゆるい言葉でいい場面はいくらでもある。私も「ネットで調べてみる」とか相変わらず使っていて、言葉にする度「またざっくりした物言いだな」と自分で脳内突っ込みしている。いずれ近未来人に「おばさん用語」認定されるのではないかとも思いつつ。
ただ、人に対して公的に注意をうながすような場面では、言葉の扱い方、範囲のくくり方に慎重でありたいもの。厳密さと、わかりやすさの間でバランスをとりながら。
まぁ発する側が言葉を厳密に選んだからといって、受け手に厳密に伝わるとは限らないのだけど。かくいう私も「ロッカー内での携帯電話のご利用はご遠慮下さい」と書かれているのを、ずっと「携帯電話やスマホの持ち込みはご遠慮下さい」と解釈していたし。受け手は勝手に、自分の感覚で読んじゃうものだなと思う。しかしまぁ、それはまた別の話。昨今こうした注意書きをどう表すかはけっこう難しいものだなというだけの話。
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