旅する気になる
妹が九州に引っ越したので、父があちらに様子を見に行きたい&せっかく行くんなら湯布院に行きたいと私にほのめかす。そう言っておけばあとはおまえがきっと全部やってくれるだろう…という一言を放って、父はその話を切り上げる。というのを何度かやる。もはや慣れているので私も動じないが、といって動かないわけじゃない。態度はぶっきらぼうだが、父のことは大事なのである。
それで数日前、腰をあげた。普段はインドア気質で、出かけるにも近所ばかりうろついているので、旅の勝手がことごとくわかっていないのだけど、ここはやりどきかと会社からディレクター気質を持ち帰り、手さぐりで旅支度を始める。
まずは行く日を決めよう。日を決めてしまえば、あとは仕事モードの私が自動的に動き出すに違いない。準備タスクを洗い出して、決めるものを決めて、手配するものを手配して、そう動かずにはいられなくなるはずだ。これだけつきあいが長いと、私も私の扱い方というのをまずまず心得ている。
というわけで、仕事のスケジュールをみて、ちょっと落ち着きそうな頃合いで一番早い日どりを仮設定し、父と妹に確認を入れて旅行日程を確定させた。となると、もうひと月ない。が、とにかくここはスピード感が大事なのだ。あいつに言ったら、その場では生返事だったのに一気に日程決めてきよった、しかもそんな先じゃないじゃないかというスピード感。旅は、このぐいっと勢いづくテンションの高まりから始まるのだ、きっと、たぶん…。
では、準備にかかろう。とりあえず飛行機と宿だけ押さえておけば、あとは何とかなるだろう。現地での移動手段は妹の車だ。3日間の旅程をざっくり決めて、あとはあちらでみんなから意見をもらって肉づければよい。あれやりたい、これはいらないは、実際場面になれば私より父や妹のほうが持っているだろう。
まず、ざざっと旅行サイトの楽天トラベル、じゃらんあたりで今から宿が取れそうか様子をうかがう。まぁ、行けないことはなさそうだ。ここ数日以内に手配すれば、そこそこの宿はどうにか取れるだろう。でも航空券は、宿とセットで取ったからといって安くなるわけじゃなさそう。これなら、JALのサイトで、乗る21日前割引の往復航空券を買っておき、後で別に宿を押さえるので良さそう。旅の常識を何も知らないので、とにかく攻められるところから攻めて手配物をつぶしていこう。
航空券、父は国内だったらすぐだから立ち乗りでもいいくらいだと言っていたけれど、父も私も老体で…自分が思う以上に疲れると思うから、適当なところでJALのエコノミーにする。数年に一度しか使わないJALカードの出番だ。航空券を押さえたら、とりあえず父にその旨を伝える。確実に話は進展し、その日に行くことが確定した感を共有。
次は宿だが、せわしない予定を立てると疲れてしまうので(基本的に弱気)、湯布院に2泊でいいとして、さてどうするか。結局父が払ってくれることになりそうなので、無駄にお金かけすぎず、でもきちんと満足いくお風呂と食事とお部屋と接客のもてなしが必要。程よいところを選ぶというのが、すごい難しい…。
この辺でとりあえず「ことりっぷ」的なものを1冊買うことにする(遅い)。向こうの地理とか観光スポットを概観して、宿情報もあわせて眺めてみよう。サイトだとそういう全体把握をするための調べ物をする気にどうもなれない。なぜだろう。Webだと際限ない感じがするからかな。本でも大きいサイズだと、買っても読みきれない感があるし、現地でもかさばるのでNG。「ことりっぷ」くらいの小柄なサイズは、短時間で全容を把握できるって際限ある感じがいいのかも。現地の持ち運びも楽だし、あれなら持ち歩いて参照する気になる。「する気になる」のは大事である。
会社帰りに、家の近所の本屋さんに立ち寄る。「ことりっぷ」かそれに似た類にしぼって選ぶ。今回は父の旅なので、女の子っぽい「ことりっぷ」よりJTBパブリッシングの「タビハナ」のほうが内容が合うかもなと適当なことを思い、そのままレジへ。
そこから近所のコーヒー屋さんに行って、おおよその地理と、ざざっと見どころを把握。私は「食」をすっ飛ばすので、見るところがかなり限られて良い。写真を眺めていて、とにかく私は阿蘇に行きたいぞ、という結論。あとはとにかく強行スケジュールにならないようにバランスをみる。本をぺらぺらめくりながら無理のないアバウトな旅程を組んで書きつける。
スピード感に続いて提供すべきは、ざっくり旅程を眺めたときのワクワク感だろう。あまり細かすぎると読む気をなくすし、がんじがらめ感が出るので、ざっくり4〜5行の箇条書きで1日ごとの流れをまとめ、たたき台だけどこんなふうに動こうかなと思ってるよ、と送って見せる。
ここ2〜3日そんなことをやっていたのだけど、昨日送った旅程をみて今朝、父から「いいね♪いいね♪楽しみだね。」と返信あり。音符マークですよ、音符マーク。父がウキウキするのに一役買っていると思うと嬉しいものです。宿は結局、妹が探して決めてくれたので、続報で父に宿情報を送り、諸々事前の手配ものは落ち着いた。たのしく豊かな旅になりますように。
「あなたはまだ実感ないだろうけど、人に会えるのはね、生きている間だけだよ」ってセリフを折々思い出す(伊坂幸太郎「モダンタイムス」下巻)。会わないで済む効率を推し進めるのもいいけれど、会えるのなら直接に会うこと、その尊さを思うのだ。
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