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2014-10-19

ボタンのキャラ

小学生低学年の頃、誕生日プレゼントか何かで親にラジカセを買ってもらった。カセットテープが一つだけ入るもので、あとはラジオが聴けた。昭和50年代の終わり頃だろうか。

カセットテープを入れる扉の上に、左から右へ「一時停止」「取り出し」「停止」「巻き戻し」「早送り」「再生」「録音」という感じで6〜7個のボタンが並んでいた。取り出しと停止は同じボタンだったかも、記憶が定かでない。

ともかく、そこに並ぶボタンは今の時代に見るような薄っぺらいものや平らなものと一線を画す、そりゃーもうゴツっと存在感のある立体ボタンだった。見た目はどれも同じなのに、押した感触にそれぞれ特徴があって、なかでもキャラの濃いボタンとなると、押し感だけで何のボタンか判別できるほどだった。

一番左の「一時停止」ボタンは異様に軽かった。押し込んでも最後まで押しきれずに少し浮いた感じで止まった。サザエさん一家でいったら、タラちゃんのようなキャラだった。押した感じはいかにもチョイ役ふうなんだけど(というとタラちゃんに失礼だが)、録音するときには、一時停止ボタンを押してから録音ボタンを押すというのが当時の常套手段であり、これによって一時停止ボタンは揺るぎない価値を手中におさめていた。

一番右の「録音」ボタンはたいそう押すのに力がいって、とても重たいボタンだった。録音ボタンを押すと、引きずられるようにして再生ボタンも押された。録音ボタンが行くぞ!といったら、再生ボタンは一緒についていくことを余儀なくされていた。そういう意味では明らかに、録音ボタンは波平さんであり、再生ボタンはフネさんだった。

録音ボタンを押すだけで、再生ボタンまで引きずりおろすような荒技は、子どもの私には到底できなかったので、録音するときには再生ボタンに人差し指を、録音ボタンに中指をおいて、せいの!で気合いをいれて2つのボタンを下ろした。押すというより、下ろすという感覚が正しい重量感だった。録音ボタンは物的に、たいそう固く重たかったのだ。

いかに用意周到に構えていても、今だ!と録音したいタイミングでささっと押せるものではなかった。しかし、録音したいタイミングは風のようにやってくる。テレビやラジオで、好きな歌手の歌が流れる機をつかまえるのだ。うまく風をつかまえて、ささっと録音ボタンを押したい。というわけで、一時停止ボタンを押して少し引っかかったような半押し状態にして、録音ボタンと再生ボタンを「えいっ」と下ろし、そこで待機。録音したいタイミングがやってきたら、軽いタッチで一時停止ボタンを押して録音開始。こういう手順だった。

ここまでの説明に、何か意味があるのかというと、実はまったく意味はない。スマートフォンのアプリで、赤くぽちっと描かれた平面の録音ボタンを見ていたら、昔懐かしいゴツっとした録音ボタンを思い出して、あれは重たかったなぁ、というだけで書いた。この文章にどんな意味を与えるかは、ここまで読んでしまった方の豊かな感受性にゆだねたい…。

ちなみに、あと残りを考えると、早送りはカツオくん一択、となると巻き戻しがワカメちゃん、停止がマスオさんまでは必然的に決まり、ガチャッと一番騒がしい取り出しがサザエさん、ということになろうか。タマ、ごめん。

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