一人前の仕事人になる上で、現場での実践経験を重ねる必要があることに疑いの余地はない。が、現場以外でいくら勉強したって何にもならんというのは、それはそれで極端にすぎると私は考える。ポリシーとしてそういう生き方を選択するのはもちろん自由だが、おそらくそういう人こそ実は現場以外のあらゆるところを学習の場として物事を吸収している気がする。
もちろん、OFF-JTが万能という話じゃない。OJT(現場での学習)7〜9割、OFF-JT(現場外での学習)1〜3割くらいで組み合わせられるなら、それが一番能率的じゃないかって話だ。何にしても一つの手段を絶対視するのは健全でないことが多い。
ちなみに、OFF-JTというのは講義形式に限ったものではない。ケーススタディやロールプレイング、ディスカッションや座談会、シミュレーションゲームなども含む現場外でのあらゆる学習形態をここでは想定している。民間企業にかぎらず、米軍の軍人教育などでも莫大なコストをかけてこうしたOFF-JTを行っている。
ということで、OJTの弱点と対比しつつ、OFF-JTの意義を整理してみる。これも〈新装版〉「経験知」を伝える技術(ドロシー・レナード+ウォルター・スワップ著)を読みつつ、自分の見解を照らし合わせつつの個人的メモ。分けている割に、そんなにまとまっていないかも…。
●OJTは学習機会が行き当たりばったり
OJTは、何をいつ学習するかが偶然に委ねられやすい。そのときの現場の状況に依存し、特定テーマで難易度を段階的に引き上げていくといった計画的学習が難しい。必須の知識・スキルを習得していなくても、案件によってはスムーズに納品できてしまい、不足に気づかないまま生きながらえることも。
Off-JTは、特定の知識・スキルの欠落に焦点をしぼって、体系立てて集中的に学習できる。特定テーマで難易度を段階的に引き上げていく学習も可能。必須知識・スキルの習得が不十分なら、必ずその不足が発覚するようにし、自分の能力の欠如を適切に把握できる。
●OJTの現場は、一般的ケースと例外的ケースが玉石混淆
現場では必ずしも、まず覚えておきたい一般的なケースに遭遇できるわけではない。師の適切な指導がない場合、何が基礎で、何がレアケースなのか判断がつかず、不適切な事例や例外的な事例を一般化して覚えてしまうことも。
OFF-JTでは、特定テーマにおける基本的なモデルと、例外的な事例・対応を整理して学ぶことができる。
●OJTはやり直しがきかない
OJTは死守すべきスケジュールもあるし、すべての工程・タスクが基本的に一度きり。
OFF-JTは必要なシーンを切り取って何度でも繰り返し練習、やり直しができる。
●予備知識がない状態では、現場経験から多くを学べない
人はすでに知っている何かと脳内の記憶が結びつかない限り、新たな情報を吸収できない。現場でいくら経験しても、右から左に抜けていくばかり。あるいは、教えた側が想定しない形で単純化して理解しているといったことが起こる。
まずOFF-JTで経験の土台となる思考の枠組みや概念、メンタルモデルをもつことで、現場で経験を振り返りながら意識的に課題に取り組み、学習を能率化することができる。
●モチベーションが低いと、現場経験から多くを学べない
仕事そのものや、学習テーマに対してモチベーションが低い状態だと、現場に突っ込んだところで、これまた右から左へコースに。それを学ぶことの重要性、興味喚起、学習を邪魔する固定観念の払拭などが必要な場合は、まずOFF-JTでモチベーションを高める施策を打ったほうが能率的。
●OJTの成否は、師の属人性に左右される
OJTの成否には、師の能力や関わり方が大いに影響する。師が必ずしもその道のエキスパートではないし、忙しい現場では特に、指導が不適切であったり、十分なフィードバックが得られないといったことも起こりがち。
OFF-JTも指導者のアサイン次第だが、拘束時間が限定的なOFF-JTでエキスパートを講師に招聘することは現実的に叶いやすい。そこで集中的に、学習者のアウトプットに対して個別フィードバックの機会を設けたり、学習者と講師がそれぞれ同じ課題に取り組み、プロセスやアウトプット品質のギャップを分析する機会をもてば、短時間で充実した学習機会を得られる。
●OJTは、学習者の能力評価に焦点をしぼりにくい
現場ではプロジェクトの成功が何より重視され、学習者の能力アップは二の次になる。プロジェクトがうまくいけばOK、いかなければNGといった評価になりがち。しかしプロジェクトの成果は必ずしも、学習者個人の成績ではない。
OFF-JTの目的は、学習者の特定能力の向上が第一義の目的となる。目的に基づき、プロセスや成果に対する学習者の能力面に焦点をあて、振り返りやフィードバックができる。
●OJTだと、現場では珍しいor危険な状況は体験できない
現場で珍しいor危険な状況は、そのシチュエーションが来るまで待つほかない。また、そうした状況は未習得者に任せられないため、実質経験することが困難。
OFF-JTでは、シミュレーション課題によって、現実世界でダメージを負うことなく失敗から学べる。安全に経験のレパートリーを増やすことができる。
もちろんOFF-JTはOFF-JTで、この強みを発揮できるよう入念に分析・設計・開発・実施・評価しなければいけないわけだけど、まぁそれをやってこそのOFF-JTだと思うから、頑張る…。最近はOFF-JTとOJTセットのクライアント案件も手がけており、双方の強み・弱みを踏まえて有意義な学習の場をデザインできるよう精進したいお年頃である。
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