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2013-05-18

限界に達したGUI

「GUIでできることは、もう限界に達しているのです」という言葉には、なかなかどきっとさせられた。先日、監訳者の @nobsato さんが献本くださった「モバイルフロンティア よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド」(Rachel Hinman著/丸善出版)の中の一節だ。

私が最初にパソコンを触り出したのは1991年(学校で)、ネットをつなげて本格的に使い出したのは1996年(会社で)。本格的といったって私が使っていたのは英文タイプとかOfficeとかFilemakerとかクラリスワークスとか(懐かしい…)のビジネスアプリ中心なんだけど、この頃にパソコンのGUI環境はずいぶん整備されたと、一般ユーザーなりに記憶している。

それでも当時はいろいろ手つかずのところがあったので、ド素人ながらコマンドラインインターフェイス(CLI)に触れる機会ももつに至った。会社のWebサーバーにアクセスしてviエディタを開いて新しい会員パスワードを手入力でファイルに書き込んで発行する、という手作業極まりない業務が、1事務社員である私の仕事のひとつだった。なんか、そういう時代だったのだ(あるいは、そういう会社だった…)。毎回恐る恐るやった。

そんな経緯もあって、私の頭の中にはどうも「GUI」と「使いやすさ」がピタッとくっついて登録されていた。そのことに本を読んで気づいた。GUIといえば、相対的に(が転じて絶対的に)使いやすいインターフェイスのことだと、遠い記憶の中で自動登録されていた気がする。

デスクトップパラダイムはグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を使用することでオフィスでの経験を模倣していました。ユーザーが「ドキュメント」を作ったり、それを「フォルダ」に入れて保存したり、あるいは「ゴミ箱」に捨てられるようにしたのです。

まさに、このデスクトップパラダイムにどっぷり浸かって10数年やってきた。そのことを本の中では、デスクトップパラダイムはもちろん偉大なるステップだけど、一方ではもはや過去の功績となりつつあると説いている。「コンピューターがオフィスの範囲を超えて私たちの暮らし全般に活躍の場を広げ」た現在、デスクトップパラダイムでのインターフェイスデザインからは早々に脱しないといけない、と。

デスクトップパラダイムを具体的なキーワードで挙げると、
●GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)
●WYSIWYG(what you see is what you get; 見たままが得られる)
●デスクトップを模したメタファー(フォルダ・ファイル・階層構造など)
●リアルに見せる外観加工(ドロップシャドウやベベル、模造品のようなコントロール部品、アイコン)
●キーボード・マウスによる入力操作
●絶対空間と絶対時間をもつ

こうした、これまでPC使いには当たり前の大前提だったものが、この先どんどん前時代的のものに位置づけを変えていく。GUIはNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス)になり、その先にはOUI(オーガニックユーザーインターフェイス)も控えている。NUIで「見たままが得られる」から「行ったままが得られる」ようになり、OUIで「平面」より「非平面」でシームレスに操作するようになるとの予測。いやはや…。電子書籍リーダーが文庫本のように手の中でくねっと湾曲するようになったら買いたいなと思っているのだけど、そんな日もそう遠くないのだろうか。

閑話休題、インターフェイスの作り手は相当意識して訓練しないと、頭の中に定着しきったノウハウを無自覚に持ち込んで前時代的インターフェイスを作ってしまう危険にさらされている。従来のパラダイムって隙をついてくるから困る。今すぐ、作り物のすべてがモバイルパラダイムに完全シフトということにはならないのだろうけど、だからこそこの時期は、作り手の手腕でもって案件ごとに最適解を導き出していかねばならないんだろうし、大変である。

というこの辺のパラダイムシフト話は、この本の導入部で語られている内容。モバイルUXにフォーカスした上位概念から始まって、UXパターン、デザイン手法、デザイン要素といった実践までまとまっている。

原著作は1年前の2012年4月に出たものだけど、いまだ移行期というか混乱期のまっただ中にいる感じだし、この先数年か10数年かかけての比較的大きなパラダイムシフトだと思うので、まったく古びた感じのない有用な一冊だと思う。私はUXデザインの専門家じゃないので、個人的日記の延長でしか紹介できないけれど、ご興味ある方はぜひ手にとってみてください。写真の例示も多いし、読みやすいと思います。自分のユーザー感覚とはちょっと違うかなぁと思う記述もあって、それもまた楽しい。

遅ればせながら、この本の原著者レイチェル・ヒンマンさんは、NokiaやIntelのリサーチラボで活躍するモバイルUX界のオピニオンリーダー、彼女の知見をまとめたモバイル向けユーザーエクスペリエンス(UX)指南書とのこと。書籍の詳細は、同じく監訳者である @yukio_andoh さんの「安藤日記」でどうぞ。改めまして、献本ありがとうございました。

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追記:Facebook上でやりとりして。ユーザーインターフェイスっていうのはそれぞれ良し悪しがあって、何が絶対的に優れてるってものじゃなさそう。レベルじゃなくてタイプで考えたほうが良さそう。案件に応じて最適なタイプを選び、そのタイプで実際に形作れることが大事って思った。

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