郊外スケッチ
母の三回忌を終え、翌日の日曜の朝、父と妹と私で実家近くの天然温泉施設に行った。父と妹が連れ立って行くのをいつもは見送っていたのだが、今回は流れで一緒に行くことになった。
最近の郊外には、街道沿いに朝早くからやっているパン屋さんがあるらしく、そこでパンを買ってテラスで朝食をとるって家族の過ごし方があるらしい。パン屋さんはそうしたお客さんにセルフサービスで無料コーヒーをふるまう。そこで朝食をとろうというので着いていき、そのままお風呂にも着いていくことに。そんなわけで実に四半世紀ぶりに、妹と一緒にお風呂に入った…。
郊外には最近、こうした「○○の湯」っぽいものも点在しているようだ。佇まいに仰々しさはなく、ちょっと大きい銭湯かと思いきや、中身の充実っぷりはなかなかのもので、これまた街道沿いにいきなりポンとある。
中は大浴場のほか、ジェットバス、サウナにミストサウナ、露天風呂も岩風呂・樽風呂といくつか種類があって、ちょっとしたアミューズメント施設になっている。2階が一帯風呂フロアになっていて、1階は受付のほか、数台のマッサージ機、気合いはないが混雑もない食事処なんかがある。全体的に力の抜けた庶民的風情で、お客さんは半径10km圏内に住む人という感じ。みんな適当な格好をして、タオル片手に車でやってくるようだ。
食事処、脱衣所、サウナの中まで、これでもか!というくらい至る所にテレビがあったのも印象に残る。日曜お昼のバラエティ番組は、ウナギを食べて有名人が口々に「うまい」というもので、20年前と何ら変わっていなかった気がするが、20年前は近隣の人と集って裸でテレビを観ることもなかっただろうから、観る側の環境が変わったということで、新鮮さはあるかもしれない。
この施設のメインのお客さんは、なんといっても60〜70代だ。父も会員になっており、最近お風呂といえばジムか、ここのお風呂。家のお風呂は長いこと使っていないらしい。
大浴場にはこの世代の女性たちが10数人、輪になって湯につかっており、私がいる間ずっとずっとそこを動かなかった。ほんのり顔の赤いはだかんぼが、輪をつくってのんびり湯につかっている。これを向かいのジェットバスにつかって見るともなく眺めていると、猿の集団を連想せずにはいられない。
失礼な!と思うかもしれないけど、この連想を途中で食い止められる日本人などいくらもいないだろう。隣のジェットバスに妹がやってきたので、「ありゃ、猿の集団だねぇ」とつぶやいたら、「だよねぇ、私もここに来るといつもそう思う」と言っていた。大方の人が、そう思いながら湯につかっているのではないか。
皆なにやらおしゃべりをしているが、内容まではわからない。ただ表情は柔らかく、重たい議論をしているわけではなさそうだ。10数人の集団が形成されれば、きまってボスオーラを放つ人が浮かび上がるもので、あぁこの大浴場に足を踏み入れるなら、彼女に挨拶してからのほうが良さそうだなと野生の直感が働く(入らなかったけど)。
ジェットバスの後は露天風呂のほうに出て、ひとり用の樽風呂につかって快晴の空をぽかーんと眺めていた。すると、遠くのほうを小さな飛行機がゆっくり縦断していくのが見えて、あぁ、あっちから見たら、私は樽につかった猿だなぁと思った。
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