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2012-12-28

態度を学ばせる方法

「何かを学習する」というと、まずイメージするのは知識やスキルの獲得だが、「態度」の形成・変容も学習成果の一つに分類される。反抗的な態度を改めるとか、高慢な態度を改めるとか、人に親切な態度をとれるようになるとか、何かを率先して取り組むようになるとか。

いろいろあるだろうけれど、態度の学習においてはとりわけ「自分が学習したい」より「あの人を学習させたい」ニーズが大きいかもしれない。会社の部下とか後輩とか、同業界の若者とか、クライアント先とかパートナー先とか、子どもとか兄弟とか、夫や妻、恋人に対してとか。まぁ相手はいろいろ、態度の種もあれこれ。

しかし、そこに立ちはだかるMcGuireの一言。

説得的コミュニケーションのみを通して態度や価値を獲得・変容させることは不可能であることがわかっている(McGuire,1969)

自分が態度を変える当事者だったら、そりゃそうだわなーという気がするが、人の態度を変えさせたいときには結構くどくど講釈を垂れてしまったり、「何度言ったらわかるんだ」と癇癪を起こしたり。そんな様をネット上だけとってみても、ちらほら見かける。

自分の鬱憤を晴らしたい目的にとどまるならそれも理にかなっているが、相手の態度を変えたい、学習させたいのが主旨なら別の策を練る必要があるかもしれない。「何度言ったところで不可能」とまで言われちゃ仕方ない。じゃあ、どうしたら態度を形成・変容できるのさって方法の代表格が、人間モデリングである。

学習者は多様な人間モデルを観察し、態度を学習することができる

これも言われてみればそりゃそうねーという話なのだが、私たちは親、兄弟、教師、友だち、芸能人やスポーツ選手、科学者や哲学者、アニメや映画の主人公、本の著者、ブログ主など、さまざまな人から影響を受けて自分の態度を形成・変容させてきた。モデルは会ったことがない人でも構わないし、実在しない想像上の人でも構わないことは実体験からもわかる。

では、この人間モデリングの「でなければならない」必要条件とは何か。

・モデルは学習者が尊敬する人物、あるいは一体感を感じられる人物。信頼性があり、力強いと認識されるものである必要
・モデルが個人の行為として望ましい選択を行うところを、学習者が観察する必要
・学習者はその行為を見た後、モデルが自分の行為の結果として喜びや満足を得たことを感じ取る必要
※学習者はその行為の前提条件となる知識・スキルを獲得している必要

つまるところ、誰かに何かの態度を学ばせたいなら、講釈を垂れるよりも、自分が手本となって「こうあるべし」と思うふるまいを10年でも20年でも淡々とやってみせたほうが、望ましい態度変容が得られるのではないかなぁと。

それを相手が、かっこいいなぁ、この人のふるまいは粋だなぁと思えば自然と真似る。逆に、いくらやり続けても、そう思わせることができなければ真似されない。そしてもちろん、講釈は垂れるけどあの人自身はまったく手本になっていないと思われるありさまでは、聞く耳をもってもらえなくても仕方ない。

気の長い話になるし、態度を変えさせたいならまず自分を顧みよという話は時に耳が痛いけど、学ぶ側に立ってみると本質的な策かなぁという気はする。もちろん自分以外の尊敬すべき誰かをモデルに立てて紹介する手段も選択肢の一つになるんだけど。

態度とは「ある対象・人・事象に対する個人的行為の選択に影響を及ぼす内的状態」(Gagne,R.M.,1985)で、「態度は行為に表れるものであるが、行為そのものではない」といわれる。つまり、態度そのものは教えられるものではない。

外部から教えられるのは、態度そのものではなく、態度に影響を及ぼす新しい価値体系だ。ずっと「自分が座席に座れればそれが一番」と思っていたけれど、「人に席を譲るって、なんか気持ちいいな」という新しい価値体系をその人の中に築くこと。その後ろ盾はできる。

しかしそうした価値体系をその人の中に築くには、「年輩の人には席を譲りなさい」と繰り返すばかりでなく(そうする価値を知識として教えることは前提として必要だが)、周囲の人間が座席をすっと譲ってはその人自身が気持ち良さそうにしているのを何度となく目にする環境が必要だ。そして、そのふるまいをみて格好いいなと思い、真似をしてみて気持ちいいなと思い、自分のなかに態度として取り入れていく、それなりに長い時間が必要なんだろうと思う。

参考文献:「インストラクショナルデザインの原理」(著者:ロバート・M. ガニェ、キャサリン・C. ゴラス、ジョン・M. ケラー、 ウォルター・W. ウェイジャー)

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