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2012-07-19

エッセイ読書中の頭の中

本屋さんに行ったら、村上春樹の新しいエッセイ集が出ていたので買ってきた。ananで連載している「村上ラヂオ」を1年分まとめたものの3冊目で、今回のタイトルは「サラダ好きのライオン」

読み進めていくと、村上さんが過去に仕事を一緒にした「ちょっと変てこ編集者」の記述があった。

喫茶店で打ち合わせをしていて、僕がシンプルにコーヒーを頼んでいるのに、自分はフルーツパフェを注文した、文芸誌の男性編集者がいた。狭いテーブルに原稿を広げて話してるんだから、そんなややこしいもの注文するなよな、とか思うんだけど、正面切ってそんなことも言えないし……。会社も社員教育するとき、「作家との打ち合わせの時に、フルーツパフェを注文するのは不適切だ」みたいな細かい注意まではしなかったんですね。

喫茶店の微妙な空気が頭に浮かんでたのしい。が、この「コーヒーはシンプルで、フルーツパフェはややこしい」という印象は、私もまぁ自然に納得いく感じがしちゃうんだけど、いったいいつどこで誰のもとに形成されるものか。

このフルーツパフェのややこしさを生み出しているのは、材料の多さか、色彩のバラエティか。フルーツパフェじゃなくてチョコレートパフェだったら、材料が減って色味も減って、少しややこしさは軽減されるものなんだろうか。あるいは、スプーンを使って食べる複雑さ?容器のごつさ?テーブルに占める面積とか体積の問題?全部か…。

でも、このフルーツパフェを頼んだ編集者は、そのとりあえず一定数で合意がとれそうなややこしさをどこかで乗り越えて、パフェを頼んだわけです。

いったいどこで?フルーツパフェにややこしさを感じないのか、それともフルーツパフェにややこしさは感じるが、だからといって打ち合わせの席で注文を躊躇する気は芽生えないということなのか。同じパフェを頼むのでも、この違いは大きい。

フルーツパフェにややこしさを感じないとしたら、他の食べ物でこの人が複雑さを覚えて、この席では…と躊躇する注文の品はあるんだろうか。ここでナポリタンはないよな、とか。あるいは、この人はおなかがすいていたらナポリタンも注文しただろうか。別段、実際的に打ち合わせに支障をきたすわけでもないし、ということなのか。

それとも、誰との打ち合わせであれ、どんな利用シーンであれ、何の注文であれ、頼むのに躊躇するってことはないってことなのか。あるいは後ろめたさはあったけど、そこのフルーツパフェには目がなくて、ここは覚悟決めて!としれっとやってしまったのか。

なんてことを考えながらすべてのエッセイを一本ずつ読んでいるわけではないけれど、ときどき立ち止まってそんなことを考えたりする。こんなことをむにゃむにゃ考えた分だけ、いろんな人の行いにめぐりあったとき、いろんな背景や可能性をイメージできて、自然に受け入れられるものが広がっている。きっとここまで読んだ人も、今度そういう人に遭遇したとき、いらっとするよりくにゃっとした気分で心軽やかに受け止められるはずだ。うむ。

考えてみるとエッセイって、同じものを読んでもみんなきっと、てんでバラバラのことを思いついたり、想像膨らませたり、考え込んだりしながら読んでいるんだろうな。なかなか趣きのある読み物です。

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