行きつけの蕎麦屋
近所に行きつけの蕎麦屋がある。お店はたいてい空いている。いつも店に入ると、お客さんが誰もいないか、一組入っている程度。お店自体も広くない。4人掛けテーブルが4つ、2人掛けが1つか2つ、所狭しと並んでいる。
あるときは暖簾をくぐると外国人を交えた5〜6人の団体客が入っていて、注文をとるのにてんやわんやしていた。結局、その後店に入った私も他のお客さんも一向に注文にたどり着けず、全員店を出てきてしまった。あのお店は席が全部埋まったら、たとえ物わかりのいい客が勢揃いでもキャパシティオーバーだろう。
そんな愛嬌のあるお店だが、私はまずまず常連である。注文を問われるとき「何にします?」から「今日は何にします?」に変わった日、そういうことになった。行きつけなのだから蕎麦の量も器も知っている。これくらいの器に、これくらいのボリュームで、客さえ少なければ注文からさほど待たずに出てくることを私は知っている。そして客は基本的に少ない。
それで今日の晩、会社帰りに足を運んだのだけど、どうやらラストオーダー2〜3分前に入ってしまったらしく(行きつけの割に…)、当然のごとくお客さんは誰もいなかった。しかしそれはいつものことなので、入店してすぐには気づかなかった。
座って注文を終えたところで、一人だけいる接客担当の店員さん(この店員さんは今日が初顔合わせ)が外に出て暖簾をおろしてきた。さらに、いつも流しているNHKラジオの音も止めてしまって店内は無音になった。まだ食べるどころか、注文した蕎麦も出てきていないのだから、つけておいてもいいんじゃない?ボタン一つ押せば止まるんだし…と思ったけど、そんなこと言えない(行きつけながら…)。
しーんと静まり返ったところで、蕎麦を待つ。お店は1階だが、蕎麦を作る人は2階にいて、蕎麦は蕎麦エレベーターのようなもので下りてくる。だから店内には接客担当の女性と私の2人しかいない。いっそ、せわしなく店じまいのあれこれをしてくれれば間も保たれるが、暖簾を下げて以降、これといってやることもなさそうで、彼女はぼーっと私の視界の先に立っている。無音である。
しばらくすると、蕎麦エレベーターの稼働音が2階から聞こえてくる。蕎麦が下りてくる。1階に到着すると、エレベーターから蕎麦を出して、店員さんが席にもってくる。「早く食べて帰っとくれ」という威圧感もなければ、「ゆっくり食べていってね」という感じもなく、つかみどころのない接客である。
それでまぁ、焦るでもなく、のんびりでもなく蕎麦をすすり始めたのだが、これがなぜだか一向に減らない。どうもおかしいなぁ、いつもと感じが違うなぁと思って、箸を底のほうにもっていって、よいしょと蕎麦のボリューム感をはかってみる。すると、これはあきらかに、いつもの2倍ある。1.5とかじゃない。2人前、2杯分。ぴったし2倍、に違いない。
な、、なんなんだ。早く帰したいんじゃないのか。2階にいる店長の大盤ぶるまいか。中途半端に一把余っちゃったのを放り込んだか。最後のお客さんには毎日この特典がついているのか。それにしたって、蕎麦は2杯分だけど、つゆも器もいつも通り。食べ物屋が意図的に出すにしてはあまりに乱暴だろう。
ということは、何かの手違い?って、どう手違うことがあるだろう。あっちとこっちが一緒になっちゃって…という事態を想像しようにも、あっちにもこっちにもお客さんがいない状況で混じりようもないし。まかないと一緒になっちゃったとか?なっちゃうか?なっちゃうかなー。とか思いながら蕎麦をすする。謎だ。謎のまま帰ってきた。何なのだ。2階で何が起こったのか。あるいは、私が2分の1になっちゃっていたのか…。
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そのお蕎麦屋さんに興味を持ちました!おもしろい。
今度ぜひお蕎麦ご一緒しましょう…!
投稿: fim | 2012-05-02 00:17
fimさん、こんな描写のお蕎麦屋さんに興味もってくれるなんて、なんて奇特なお方。。お蕎麦、ぜひ行きましょー。ここじゃないとこで…(笑)
投稿: hysmrk | 2012-05-02 00:28
閉店直前の食べ物屋さんって、どこか落ち着かないというか、
私は店員さんの「早く片付けたいよ」のオーラをひしひしと感じとってしまって、そそくさと出てしまうのですが、
このお店はそんな雰囲気もなく不思議ですね(笑)。
行きつけのお店とのことなので、美味しいのだと思いますが、
最後のその2倍のお蕎麦は、、サービスなんでしょうか。。
蕎麦は注文してから茹でるでしょうから、あまりってこともないでしょうし、、
もしかして店員さんのまかないの分も一緒に茹でたのを、うっかり一緒に盛っちゃったのかもしれませんね。
hysmrkさんが食べ切れたのか、ツユはたりたのか、、気になります。
投稿: ベル | 2012-05-03 09:24
私も閉店間際の食べ物屋さんとなると、できるだけ早く失礼しなくては…と気になるほうで、その感覚はベルさんのそれとどんぴしゃ同じだと思います、なんとなく。(笑)
私が行きつけになるのは、基本的に「いろいろと都合がよい」お店という感じなので、味のほうはほんとによくわからないんですけど、逆に言うとそんなに気にならないというか味がわからないというか。。
でも、何事も親しむほど馴染むほどに謎は出てくるものだなぁ、ということでこの件は納得しました。
蕎麦は、ものすごい勢いでつゆを吸って、後半はほぼ「器と蕎麦」と化し、結局食べきれませんでした。。
投稿: hysmrk | 2012-05-03 10:03