以前「学習意欲と学習成果の関係」について書いたとき、Facebookのほうで「最近、人に学習意欲を持ってもらうにはどうしたらよいかをよく考える。意欲と成果の相関以前に、人が意欲を持ち始めるきっかけは何かを知りたい」といった声をいただきました。
自分というよりは、誰かに学習することを働きかけなくてはならない立場や場面というのが、年をとると…いろいろ出てきますよね。で、「それについては改めて書いてみますね!」と言ったまま年を越してしまった。すみません…。ということで、今日はそれについて書きます(書き出したら止まらなくなってしまったので、とりあえず簡単めに)。
学習意欲を高めるためにどうしたらよいか、これを考えるのに有用なモデルとしては、ジョン・M・ケラー博士が提唱したARCSモデルがあります。ARCS(アークス)は、学習意欲に関連する次の4つの概念の頭文字をとったもの。
- Attention(注意)
- Relevance(関連性)
- Confidence(自信)
- Satisfaction(満足感)
まず「Attention(注意)」は、学習者の好奇心を刺激して関心を獲得したり、それを保持すること。マーケティングのなんちゃらモデルでも頭にAttentionというのは多用されますが、まぁまずは注意を引きつけなくちゃ始まらないというやつです。学習においては最初の注意喚起だけでなく、学習プロセスを通して注意を持続させるため、どう「保持」するかも重要。教科書開かせて、「じゃあ授業始めまーす」と言って、その分野の歴史、概説と淡々と説明を進めていっても、そりゃ誰も聴かないよねという話です。
どう好奇心を刺激するのかといえば、例えばその学習内容を習得するとできるようになることや、作れるようになるものをまずは見せて「面白そうだな」と思ってもらえる仕掛けを用意するとか。あるいは、超有名人を講師に起用して気をひくのも、映像やゲームっぽい刺激で面白さを演出するのも、これを意図した仕掛けと言えるでしょう。
でもAttentionに限らず、実際に何が有効な施策になるかは、学習者がどんな人物で、学習テーマが何で、何を目的にどこに向かっていくかによって変わってくるので、どれも例えばの話。
「Relevance(関連性)」は、それを学ぶとどう役立つの?ってことです。その学習体験が学習者個人にとって意義のあることだと信じられるようにすること。とりわけ仕事関連の学習では、これがかなり重要な要素になってくると思います。
続いて「Confidence(自信)」。いくら「面白そう」「役立ちそう」と思っても、「自分にはこんなの覚えられない」「身について活用できるまで何年かかるんだか」となると、やる気も減退。「やればできそうだな」という感覚をもってもらうことも、とても大事。
教える側に心の余裕がないと、「そんなに簡単に覚えられるもんじゃないんだよ」と言い放ったり、できていないところをあら探しして指摘したりと、自信をあえてずたずたに引き裂くような鞭の乱用も起こります(笑えない)。教える人は心の余裕をもって臨む、これけっこう大事かなと。
それから、自信不足ではなく自信過剰によって学習効果が阻害されることもあります。「そんなこと知ってるよ」と本人が過剰に自信満々だと、学習すべき要素を見落としてしまっていっこうに身につかないことも起こりうるので、これも注意が必要。
最後に「満足感(Satisfaction)」。一連の学習プロセスを通じて内的あるいは外的な報酬を得られること。「やってよかったな」という感覚をもてれば、学習意欲の持続が期待できます。他者が一時的に有効な学習体験を仕組みづくっても、本人の学習意欲が持続しなければ、そのまますっからかんになってしまう。持続を仕掛けづくるのも大事。
※参照書籍は「学習意欲をデザインする」。私も研究者じゃなく学習の場づくりに励む1実務家なので、どっぷり知りたい方はこちらを。
単に「学習者にやる気がない」といっても、その理由はさまざま。その学習テーマが難しそうだから乗り気になれないのかもしれないし、学ぶことでどんな個人的メリットがあり、学ばないことでどんな個人的危機に陥るか見通せていないケースもある。
「自分はもうそんなこと知ってるから学習なんて不要だ」と思っていることもあるし、「どうせあれでしょ、眠たい講義をたらたら聴くだけでしょ!」という研修への先入観をもっていることもある。「仕事ってのは現場で覚えるもので研修で覚えられることなど一つもない」という俺教育論が背景にあるかもしれない。あるいは、そもそも仕事にやる気がないとか、主幹する組織や人物に対して反感をもっていて、その組織/人物主導の取り組みに参画することに抵抗が働いているかもしれない。
何が学習意欲を阻害しているのかによって、どうしたら学習意欲を高められるかの施策の方向性も変わってくるわけで、こうしたことをしっかり見極めていくことが大事かなと思います。
例えば、学習テーマに対してすでに高い関心がある学習者に対して、講師がアイスブレイクに時間を取りすぎたり、「これからの時代に今回の学習はとても重要なんだ」とくどくど話し続けたりすると、学習者は「早く本題に入ってくれ」と苛立ちを覚えることになります。これでは、むしろ学習意欲を減退させてしまうことになる。
こうしたことにならないようにするためには、やっぱり、学習者をよく観る、よく知ることかなと。で、この「よく」に貢献してくれるのが、こうしたモデル(4つに分けて考えることを提案してくれる)なんだと思います。
モデルを知っていること(知識)と、モデルを適切に適用できること(スキル)は別物なので、これを知ったからといって学習意欲の有効な高め方を会得できるものでもありませんが、まずは自分自身が学習者に対する関心を高めること、学習テーマを学ぶことの意義をより深く吟味することを通じて、学習者のために何をすべきかの具体的アイディアはそれぞれの立場でいろいろと出てくるかなと思っています。
こういうアイディアを交換できると、また有意義ですね。1実務者の走り書きですみませんが、とりあえず共有。何かアイディアを練るきっかけになれば幸いです。
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