演習問題をつくるとき
Web業界では有志による勉強会が頻繁に開催されている。会社の垣根をこえた情報・意見交換はオン/オフラインとも活発で、自分や仲間が企画した勉強会で前に立った経験をもつ人は少なくないと思う。公けの場で話したことはなくとも、社内勉強会の講師を依頼されて、講義・演習設計、講師やファシリテーターを務めたことがある人はけっこういるのではないか。そういう人向けに、ちょっとした小話を共有できればということで書いてみる。
勉強会にワークを取り入れるとなると、みんなに考えてもらう演習問題をあらかじめ作っておく必要がある。こういう想定でWebサイトの企画を考えてみてくださいとか、こういう想定でWebページやその一部を制作してみてくださいとか。で、個人あるいはチームごとにアウトプットを発表してもらって、皆で評価しあったり、講師役がフィードバックを行ったり。
で、こうした演習問題を作った経験をもつ人からよく聞くのが、やってみると結局「誰のアウトプットもアリだよね」ってことで終わってしまうという話。その場は盛り上がるんだけど、本来目的とした学習効果があったのか疑問が残ってしまう結果に。仕事には創造性がつきもので、実務を想定した演習問題には、これという一つの正解があるわけじゃない。なので結局どれもアリだよねということで、めでたし。講師が立たずに皆で評価しあう会の場合は、せっかく作ったものに批判的な評価を出すのも気後れするという人もあるかもしれない。
また、これとは逆に、演習問題をつくってみたんだけど「これを個別にやってもらっても皆同じ答えにしかならない気がする」という話もある。この2つ、何が問題かというと、演習問題の想定の仕方に難があるのではないか。前者は想定のボルトを緩めすぎ、後者は締めすぎなのだと思う。
これこれの能力を養いたいという勉強会の目的がある程度明確にあるならば、その能力を発揮しないとアウトプットが明らかに妥当でなくなる状況設定を、あらかじめ演習問題の想定に埋め込んでおく必要がある。これがないと「誰のアウトプットもアリだよね」で終わってしまう。逆にこれを埋め込んでおけば、例えば「この演習の想定だと、納期を守らないのは明らかに妥当ではない」といった正答/誤答の判別ができるようになる。すると、学習目的にかなった評価がフィードバックできるようになる。
一方、後者のボルト締めすぎ問題については、参加者の創造性が発揮される余地を残した演習問題の想定にすることが解決策になる。つまり、その勉強会の学習目的と関係ない能力が発揮されるところは、むやみに縛りを設けない。また高位の能力に関しては、それを備えていないと課題をこなせないことがないように素材を提供するようにするとか。
それから、ここで縛りを緩めすぎて、前者のボルト緩めすぎ問題に立ち入らないようバランスをとる必要がある。あくまで、その能力を発揮しないと仕事のクオリティが下がる状況は設定しておいて、そこから先は自由に参加者が考えられるよう縛りを緩めることが肝要だ。この設計が難しいわけだけど。
そして、講師としてその場にたつ場合には、参加者のアウトプットに対して、勉強会目的にかなった能力がどう発揮されているかの評価と、それ以外のアウトプットに対する所見を分けてフィードバックすることが大事だ。これを混同してはいけない。勉強会のテーマになっている能力以外の要素については、率直に仕事仲間として思うところを共有すればいいし、自分の評価できる専門外であれば、率直にそれを表明すればいい。変に理論武装する必要もない。その場で大切なのは、学習テーマに対する評価に焦点化して、適切な評価をフィードバックできることだ。
また、「皆同じ答えにしかならないんじゃないか」というのは、考えた側の杞憂に終わることも少なくない。参加者の創造性をみくびっちゃいけないのだ。一つのお題を提示すれば、そこから人はいろんなことを考える。参加対象者が創造力をフルに使う仕事をしていれば尚のこと。もし過去に、こちらが想定する範囲の正答/誤答しか出てこなかったとげんなりした経験があったとしても、参加者への期待を手放してはいけないと思う。自分に期待しない講師から参加者が得られる刺激は、どうしたって貧弱なものになるからだ。参加者の創造性に対する敬意と期待は、決して欠かしてはならないと思う。
もちろん、皆同じ答えになってしまうかもしれないといったリスクを考慮して作り込みに励むことは大事なんだけど。で、こうしたケースの作り込み例としては、万一参加者がほぼ同一見解の答えを出してきたとしても、その後の解説で講師側からいくつかの回答の方向性を示して、答えに広がりをもたせられるようにしておくことだと思う。実際の実務では答えは一つではないのだし、その中で一つに決断するプロセスをたどるのだから。複数パターンの回答例とともに、どれにも妥当なロジックが成り立つことを解説する。そうすると参加者は、一つの正解例を覚えて帰るのではなく、正解を導きだすためのプロセスを学んで持ち帰ることができる。
ちょっと抽象的な話に終始してしまったけれど、普段考慮していることを備忘録的に残してみたかったので、とりあえず。
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