知識とスキルと態度の学習
この間「知識とスキルって違うの?」と訊かれて「違う」と説明したら、「へぇ」という反応を得られたので、ここでもちょっと共有してみます。
知識とスキルは別物です。学習の場をデザインする場合、どんな学習成果を目指しているのかを整理するのに、次の3分類を使ったりします。頭文字をとってKAS(カス)。
Knowledge(知識)
Attitude(態度)
Skill(スキル)
ざっくり言うと、知識というのは言語による説明ができます。ちょうどこの説明をしているときには目の前にモヒートがあったのですが、モヒートというのはお酒の一種で、ラムベースのカクテル。キューバのハバナが発祥の地。由来は云々、作り方は云々。こうして説明できるのは、モヒートの知識を習得しているからと言えます。
しかし知識を習得しているからといって、モヒートとそうでない飲み物を飲み分けられるとは限らないし、モヒートをおいしく作れるとも限らない。知識を使いこなすにはスキルが必要です。多くの場合、スキル習得の前提として知識習得が望まれます(知識を習得していなくてもスキルを発揮できることもある)。
知識もスキルも習得しているけれど、態度が形成されていないことで望ましいパフォーマンスが発揮されないこともあります。例えば「社内で来客とすれ違うときには立ち止まってお辞儀をする」というマナーを徹底させたい場合。社員はそうすべきという知識ももっていて、お辞儀をするスキルももっている。けれど、なんでいちいちそんなことしなくちゃいけないんだと思っていたら、その人はお辞儀するというパフォーマンスを行わないわけです。
こういう場合、いくらマナー研修で知識やスキル習得の機会を設けても意味はありません。態度形成のための機会を設けないといけない。特に態度形成は複雑だから、分析しないことには適切なアプローチをこれと言えないものですが、とにかく何の学習成果を求めているのかを少なくとも3分類に分ける意義、それに応じた学習設計をしないと効果薄だなという感じは伝わるかなと思います。
何かを学ぼうとしたとき、私たちはたいてい本を読んだりセミナーで話を聴いたりして、まず知識習得をします。12世紀だかそれくらいから、学習というのは知識習得プロセスを前提にしたやり方が定着しています。だから、このタイプの学習資源は世の中にも溢れています。
でも、そこで止まってしまってはスキル習得には至っていない状態ということになります。さらに言えば、本を読んだりセミナーで話を聴いたとしても、それを自分が人に説明できるレベルで習得していなければ、使える知識とは言えない。必要な場面でさっと取り出して再生できるようにしておかないと実際には使えない。回答の選択肢を3つか4つ並べられて、その中からこれと選び出せる再認のレベルだと、特に専門職でその知識を使う場合、なかなか活用機会がないと思います。
自分が学習したい要素が何なのか、テーマだけでなく、学習成果の分類で考えてみる。これは何かを学習していくときにけっこう使えると思います。ここがわかると、自分がどういう学習をする必要があるのかが、より具体的な行動としてイメージできます。
例えば、自分が何から手をつけてよいかわからないテーマを学習したいとき、そのテーマの入門者向けセミナーや入門書の類いは、自分がどんなことを学んでいく必要があるのか知識の枠組みを与えてくれます。良質なセミナーや入門書はこのステップを進めるのに大変効率的に働きます。また、さぁ頑張って習得しようというモチベーションアップにも貢献します。
でも、その知識の枠組みに中身を埋めていったり定着させていきたい場合、さらにその知識を前提にスキル習得まで望む場合は、そのための継続学習が必要です。特にスキル習得に際しては、練習機会を設けて自分でアウトプットしてみる、それを人から評価フィードバックしてもらい、改善するサイクルが必要です。
これを怖がってしまうと、結局「知らないわけじゃないけど、できないことだらけ」になったり、「できている気になっているけど他の人から見たらできていない」ということになります。自己評価は、どう頑張っても主観を一切排除することができないので、特に学びはじめのテーマに関しては、人からの指摘をもらい、自分の能力を率先してえぐっていくことが大切です。
とはいえ、なかなか日常の職場環境でその道のスーパーバイザーから評価を得る機会を設けるのは難しいものなので、そんな場づくりに少しでも貢献できたらと思って私は研修をつくる仕事を生業にしています。そのスキルを発揮しなきゃならない場面設定をして、それをアウトプットしてもらい、それを講師からフィードバックしてもらう場をつくりたいのです。
もし、セミナーには結構参加しているけど、演習が入るもの、参加型のワークショップなんかは抵抗があって参加していないという方は、自分がアウトプットしてそれを評価してもらえる場にも出て行ってみてはいかがかなと思います。あるいは、上司やクライアントからフィードバックをもらったとき、何かの事情のせいにしないで、自身のスキルの問題として自分のアウトプットに何が不足していたかを検討してみるようにするとか。じゃなくても、何かの本を読んだ後、何かのセミナーを受けた後、「さて、次にどうつなげるかな」と考える習慣をつけてみるとか。
やっている人は当然のごとくやっていると思いますが、私も知識としては知っていながら怠けていることがあったりするので、ここで共有しつつ改めて気を引き締めつつ。ともにがんばろう。
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