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2011-06-21

「メラビアンの法則」使用上の注意

「就・転職活動時の面接対策」といったテーマで、1時間ほど人前で話すことになった。それで話の構成をまとめていて思ったのが、面接指導のネタとして安易に「メラビアンの法則」を持ち出すのはよくないよなぁということ。意味は後述するけど「見た目重要!」の説得材料に使われている法則。

もちろん、第一印象がすさまじくて、見た目でものすごく損していると思われる求職者に、「見た目って案外重要なのよ」と問題提起する材料として話に持ち出すのはありだと思う。思うけれど、誰でもかれでも基本パッケージとして、この法則を面接指導の話に組み込むのにはたいそう違和感がある。

法則のもとになっている実験場面と面接選考の場面では、状況設定があまりに不一致で、ネタとして持ち出すには相当無理があるように思うし、一歩説明を間違えば、求職者に面接時の「質問の受け答え」を軽視させる悪影響も及ぼしかねない。というわけで私は今回の話には採用しないけれど、もし持ち出すなら正確な情報提供をしないといけない。

「メラビアンの法則」というのは、「好意・反感などの態度や感情のコミュニケーション」を扱った実験で、メッセージの受け手は、送り手の話の内容より声の調子や身体言語といったものを重視することを法則化したものだ。具体的な影響度の比率は次のとおり。(Wikipedia参照)

見た目などの視覚情報(55%)
口調や話の早さなどの聴覚情報(38%)
話の内容などの言語情報(7%)

というわけで「見た目などの視覚情報」の圧勝ぶりといったらない。これが「見た目重視」「第一印象重要」の説得材料として、就職活動の面接対策セミナーなどで使われるようになっていったのだが、「この法則のもととなる実験がどういう状況下でなされたか」という情報がないと、明らかに誤解釈を生む。

この実験は、メッセージの送り手が「maybe」といった言葉を用いて、どちらとも取れるメッセージを送った場合の比率を出している。つまり、送り手の話し言葉に「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」といったニュアンスがあった場合には、言語情報より視覚情報が重視されるが(そりゃそうだろうという気がするけど…)、送り手が「明確な」メッセージを送った場合にはその限りではありませんよという話。

というか、「明確な」メッセージが発せられていたら、そりゃおのずと「話の内容などの言語情報」の比重は高まるだろうと思うし、面接選考の場というのは、基本的に「どちらとも取れる」でなく「明確な」メッセージを表明する場だろうと思う。そう考えると、面接指導の場にこのネタを持ち出すのは、そうとう無理があるなぁと思うのだ。

こういった法則やら調査結果やらは、インパクトがある形で部分的に切り取られて一人歩きしやすい。そうして「採用担当者は、話の内容なんて7%しか聴いていない。大方は入室してから最初の5分、結局は見た目で決まるのだ」といった乱暴な誤解釈を招きかねない。そんなことになっては困る!話の内容はとても重要だ!というわけで、私は自分の話にこの法則は採用しない。むやみに法則持ち出さずとも「見た目重要」の話はできる。と言って、ここにぶつぶつ書きつける…。

アンケート調査とかも、ニュースに載るときにはさまざまな情報が削られていて、インパクトでお化粧されている。究極的なのだと、インターネットを使った調査でインターネットを使っている人の割合を調べて、ほとんどの人がインターネットを使っています的なニュースとかある。そこまで来ると、むしろその調査でインターネットを使っていないと回答した人のことが気になってしまって、なかなか面白い調査だなと思う。

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コメント

その法則は恥ずかしながら知りませんでした。
男子学生でもたまーに就職面接のためにプチ整形、、という話も以前テレビで見たことがありますが、果たしてどれだけの人がそんなことをしているんだ、、と思ったものでした。

メッセージの受け手が想像以上に視覚情報に影響を受けていたのは意外でしたが、普通の会話ならともかく、hysmrkさんが書かれているように面接という場面では必ずしもこれは当てはまらないというか、話されていることの内容や話し方の影響の比重の方が評価には大きいだろうと思います。
私も社内の採用面接官をしたことがありますが、笑顔が素敵でとても好印象であっても、求めるヴァイタリティが話の内容から感じられないと、残念ながら厳しいなとか。。

でも人前で、あるテーマで1時間話すって凄いことだなぁと思います。hysmrkさんは何度も場数を踏まれていることと思いますが。。。

ベルさん、メッセージありがとうございます。採用面接官としてのご見解は、すごくリアルな言葉。でもやっぱりそうですよねぇ…。送り手がある程度明確なメッセージを発信し、受け手がある程度真面目に話を聴こうと思っている場合、ちょっとこの比率はないなぁと。
メラビアンさんもこの使われようは不本意に感じていらっしゃるようで、法則にはお名前もついているし、たいへん気の毒に思ってしまいます。
ちなみに、私は講師って全然場数踏んでいないんですよ…、裏方専門なので。ただ、講師力を評価するのは本業のうちなので、自分への辛辣なダメ出しが脳内でリアルタイムに行われて辛いですね…。

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