コミュニケーションデザイン事例
この間近所の喫茶店で本読んでたら、向こうの席から電話の着信音が聴こえてきたのよ。それもけっこうなボリュームで思いのほか長くなり続けるもんだから、みんな「早く止めなさいよー」って顔で発信源の彼に目をやったの。
その喫茶店、レジとかは1Fにあるんだけど、客席は階段くだった薄暗い地下にあってね、そりゃもうひっそりこじんまりって感じなのよ。そのときはお客さんも全員一人だったもんだから、音がなるまではしーんと静まり返ってたわけ。そこに大音量の機械音がいきなり割り込んできたもんだから、そりゃもうみんな一致団結していらっとした表情だったわ。
それなのに当の彼は、端っこの席で微動だにせずよ。なーんか無表情でスマートフォンっていうのあれ、ちょっとおっきな携帯電話の画面に釘付けで、のほほーんとしててさ。してやったり…みたいな顔してたら、それはそれであれなんだけど。
で、何度かなった後その着信音が止まったの。彼が止めたのね。みんなふぅってため息ついて私も手元の本に視線を戻したんだけど、それが今度は別の着信音なりだしちゃったわけよ。それもまた何コールか続いて。ひと呼吸したと思ったら、また違う音がなりだして。どうやら彼、のんきに着信音選び始めちゃったらしいのよ。笑っちゃうわよねー。
それでみんな、眉間にしわ寄せてまた彼睨みつけて。全員無言で一致団結して「え、着信音選び、この静かな喫茶店で、音出してやるわけ、やり続けるわけ?」って表情よ。
で、これまた彼が無反応ときたもんだ。表情も変えずに音選びに集中してるのよ。次へ、次へって音替えていって、着信音のコーナー通り越して「チャチャッチャチャッチャチャッチャラー、ルパン・ザ・サァード♪」とか流れてきちゃってさ。みんな「なんなの!この非常識。こっから何曲聴かせる気?ムキキーッ」って感じよ。ただでさえさえない喫茶店の空気がさらに…って、あら失礼。
でもさ、さすがにおかしいじゃない。ひっそりしたさえない喫茶店で、大音量で音選びってどんな遊びよ。で、チラ見じゃなくてしっかり彼のほう見てみたら、あらやっぱり。彼の耳にイヤホン入ってるのよ。
あたしもさー、最初はなんなんだかと思ってちょっといらっとしちゃったけど、それ見たらもう一気に気の毒になっちゃって。だって全然悪気ないのに、この店中の客からものすっごい目で睨まれてるのよ。私ももうちょっと早く動いてあげたらよかったのに、腰が重かったって反省したわ。
それで自分の席から「あのー」「すいませーん」って声かけたの。でも没入してるから気づかないのね。イヤホンしてるし。で、彼の視界に入るように手をぱたぱた、腕をじたばたさせて「すいませんー」ってやったら気づいてくれて。みんなこっち見てたわ…。一応英雄扱いだったから、こっちに向けられた視線は痛くなかったけど。「言え、言え、言ってくれー」って感じ。
で、「え、あ、はい?」って反応した彼に言ったの。さぁ、なんて言ったでしょうか。あなたなら何て言う?私はこう言ったの。「音がもれているようなんですけど」って一言。それで彼が「あ」って気づいて、そこで音が止まった。これで一件落着。そのまま視線を本に戻して、喫茶店を平穏ムードに。
あたしがここでやりたかったのは、音を止めることもあるけど、店中の人に「彼は無神経に音を出してたんじゃなくって、イヤホンをさしていて自分では音が外でなっているなんて思っていなかったんです」ってことをわかってもらうことだったのよね。
これを「その音うるさいんですけど!」で済ませちゃったら、彼にも他のお客さんにも本当の平穏は訪れないじゃない。だから彼の席まで行って静かに注意してもダメだったわけ。みんなに居心地の悪いものが残っちゃう。だからこの一言を、自席からさりげなく、大々的に発表する必要があったのね。
って今、そんなややっこしいこと設計立ててから行動してるのかって思ったでしょう。そんなことあるわけないじゃない。しかもプライベートで。ここに書き起こしたこと、ほんの1分程度のことよ。そんな1分積み重ねて毎日過ごしてたら気がくるっちゃうわ。後から考えてみたら、なるほどなぁって話よ。
つまりね、後から分析して語られるほど、本人はそのとき考え抜いてやってないってことよ。世の中の大方ってそうなんじゃないかしら。完璧に調べ抜いて考え抜いて、型にはめてから始めようなんて言ってたら日が暮れるどころか、人生尽きちゃうわ。
イヤホンに気づける自分、気の毒だなぁって思える自分がいれば、言うこと為すこと自ずとついてくるものよ。なりたい自分より、ありたい自分。自然体の自分をしっかり育てとけってことかしら。ちょっと違うかしら。まぁいいわ。なんでこんな文体なのかって、気分よ、気分。
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コメント
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今日の文体、hysmrkさんに目の前で「ねぇねぇ、聞いてよ。こんなことがあってさぁ。。」と話しかけられているようで、くすっと笑いながらも緊張しながら(いや、事の成り行きがどうなるのかと思って。。)読ませていただきました。
状況を素早く判断し、しかもその中で最も誰も傷つけない平和な方法・言い方を思いついて即座に行動に移されたhysmrkさんに、私は感服しました。
普通の人はただの「煩いなぁ!」の苛立ちで終わってしまうところを、「おかしいなぁ?こんな状況で普通それをする?」というところから、より深く観察することで原因を発見し、しかもそこで「あぁ、なんだそうだったのか」で自分だけ納得するのではなく、さりげなく注意することでその本人も喫茶店のお客さんたちも救ったのですから。
そういうのって、、大袈裟に思われるかもしれませんが、普段のその人の息遣いのような、生き様のような、全ての凝縮された一瞬の判断、行動のような気がします。
起きている現象を一面だけで捕えないhysmrkさんだからこそ出来たと思います。私もそうありたい、、と思いました。
投稿: ベル | 2011-05-03 16:56
あはは、これは超おばちゃん憑衣モードで書きました。私はもう少し品をもって歳をとろうと思っていますよー(笑)。まぁ、GWの地味な遊びってことで。ともあれ、楽しんでいただけたなら嬉しいです!そんな感服いただけるようなことしていないので恐縮ですが…。頭でっかちに考えず、自分は自分として生きていったらいいんだよなぁって。
投稿: hysmrk | 2011-05-03 21:41
うん、これはわかる。すごくよくわかる。彼はマリおばちゃんによって救われたなぁー!!
投稿: え | 2011-05-03 23:29
さすがすぎる。素敵。
ちなみにiPhoneのスピーカーは、何度もヒヤッとする目にあってるので、信用してません。チェックするくせがついちゃってます。
投稿: macchaka | 2011-05-04 00:08
ふふふ。桃井かおりな感じ。その場に行かないで分からせたのがすごいなあ。
投稿: ササキ | 2011-05-04 01:47
えさん
ありがとうございますー。おばちゃんへの道を着々と。。いや、淑女になるべく頑張ります。
macchakaさん
私もそういえば、なんか接続がうまくいかないことがありました。でも外で音がなってるってちょっと想定外ですよね、ウォークマン世代とかにとっては…。
ササキさん
桃井かおりかー。確かに、それで読み直してみたら、グレードアップした感。ありがとうございます。ほくほく。
投稿: hysmrk | 2011-05-04 09:52